先日…江東区・清澄にあります都の指定名勝『清澄庭園』の花菖蒲田(はなしょうぶだ)に、大学3年の息子を持つ幼馴染みとふたりして行って参りました
この風景どこかで見たようで、なんだか妙に懐かしいなぁ~なんでだろう
「う~ん、なんでだろう?どこだったっけかなぁ~」
「なにアホ面して考えてんの」
「花札(はなふだ)!花札の柳と菖蒲だぁ」
「花札ぁ」
「そっ1枚の花札によ、まさにまさにこの通り!5月の菖蒲と11月の柳が収まっている…そんな感じよあの右手・奥、柳の下から今にも番傘を差した『小野道風』が出て来そうう~ん、何んとも良い眺めじゃのぉ~、のぉ~?」
「のぉ~って問われてものぉ~ドクター・ノォー?それよりも、出て来そうって…おののみちかぜを幽霊呼ばわりしないの」
任天堂が出している『大統領』と言う商品名の花札で、我が情けないお兄ちゃんとよく遊んだものでした
花札は賭博ではありますが、8つ違いと兄(あに)さんと指す花札遊びは、わたくしの小遣いが1日・5円でしたから、ただただ札を重ねるだけでお金など賭けようがありませんでした
上・4枚が11月・霜月の「柳」の光札
下・4枚は5月・皐月の「菖蒲」でございます
柳は黒い葉に描かれていますが、さらさらと風になびくしなやかな枝ぶりを感じて頂けるかと思います
貴族・小野道風の足元に大きなガマガエルも描かれており「柳に蛙」とも言われている、高得点・10点を持つ絵柄となっています
次の2番手…「柳に短冊」、これは赤と青(紫)がございまして、ちょっと花札に慣れて参りますと鼻たれ小僧でも「赤短(あかたん)青短(あおたん)」などと一端の口を利いて呼んだもんです
柳の葉先を掠めるように飛んでいるのは「燕」でして「柳に燕」で花札ではカスと言って得点にはならぬ捨て札です
わたくし…ここに描かれている鳥をずっと「雉・きじ」であると思い込んでいました…11月なんぞに燕が飛んでるわけがないんです、1匹残らず南国に行ってしまっているんですから…
あるとき兄にそれを正直に言いましたら、兄は目を三角にしてこう申しました
「柳に雉が来てどうすんだぃ。これは燕!霜月であるけど燕が描き込まれているんだ!よく見ろぃ」
そう言われてしげしげと見ても、赤い色した顔は雉だろうと言い張りました
「お前ね、これは桃太郎の絵本とは訳が違うんだぞ!これが雉だったらよ、猪鹿蝶(いのしかちょう)…萩に猪、紅葉に鹿、牡丹に蝶がサ、サルとワンコロでなきゃ話がややこしくなっちまうだろうが」
兄の解釈の方がよっぽど話をややこしくさせてはいるんですが、8つも違う暴君の言うことなど、柳に風で聞き流したものでした
然し…そのあとに続く講釈を聞き、「なるほど、雉でないかも知れない」と思ったものでした
「だいたいね、雉は日本国の国鳥なんだぜ!1万円札の裏側にも雉が描かれてるってぇぐらいの身分の高い鳥なんだ!その雉を博打の花札に使うもんか」
当時の1万円札は雉が描かれていましたが、2003年より鳳凰が爪先立っている図案になっているので、どうぞタンスの中の隠してあるへそくり・1万円札で確認なすって下さいまし
もし!もし…仮にそこに雉がいましたら、すぐにアイロンを掛けて古銭屋さんに行ってみて下さい
10、100円ぐらいの値が付く…かも・知れません
柳の絵図は玄人好みでありますが「菖蒲」となりますと、一気に華やかになりましてございます
こちらは皐月「菖蒲と八橋(しょうぶとやつはし)」の絵柄がいち番の高得点・10点を持つ札で、次に赤短、カスとなります
「菖蒲と八橋」は光源氏のモデルとも言われた在原業平(ありわらのなりひら)の伊勢物語で詠んだ和歌を拝借したのだと学校で習いました
『から衣 着つつなれにし 妻しあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思う』
言葉の最初をつなぎ合わせていくと『かきつばた』になることから、本当は菖蒲ではなく「杜若に八橋」であるとも教わりました
ところが…そうは解っていても、花札ともなりますと切った張ったの博打であります
杜若を据えるよりも「菖蒲を勝負」に掛け、験を担ぎまして「しょうぶにやつはし」を置いたと思われます
写真にあります花札は、兄とわたくし、母親と兄とでよぉ~く使い込みましたもので、方々の隅が擦り切れております
博打場はイカサマやズルを厳しく監視しておったそうな…信用なくては成り立たぬ賭場ですから、賭博師は疑いを掛けらぬよう、凹みやキズ、めくれなどない新しい花札を毎回その場で封を切ったのだと兄から聞きました
「なっ?こう言うことはがっこ(学校)じゃ絶対おせぇて(教えて)くんないぞ!よく覚えておけいつかお前の為に成るからな」
為に成ったか…成らなかったは、この先を生きてみなければ分かりませんが、今のところ為に成ったと言う形跡はどこにもみつかりませんでございます
「なぁ~るほどねあーたってサ、幼稚園に来ないで花札やってたんだねぇ」
「そっ花札の美しきデザインと言い、日本文化であるオイチョカブを孫の代まで伝えていかなきゃならないって言う使命感に燃えてたからねっ」
「たかだか5つや6つで使命に燃えちゃったんだそれよりも、そこでひと休みしない」
期間限定で開いている「大正記念館」は居ながらにして泉水庭園を見渡せる見晴らしの良いお休み処となっています
「早いとこ食べて『花戦さ』、観に行こうよ!あの映画にも菖蒲が出てくるらしいわよ」
能楽師・野村萬斎(のむらまんさい)・主演の『花戦さ』…行こう行こう