今月・14日のお月さまは満月で、それも68年ぶりだと言う「スーパームーン」だとか…
生憎、東京は雲に隠れまん丸いお月さまを見上げることは叶いませんでしたが、あそこの夜空にあるんだと思うだけで、満足のスーパームーンでした
さて…夕べの料理教室へと話を巻き戻すと致しましょう
こちらは季節の真っ只中・旬の魚である『鯖』でございます
鯖はほとんどが、先ずは三枚卸しを済ませてからの調理となるかと思います
鯖缶をプシュッと開けると、筒に切った身が詰まっているぐらいでしょうか
脳みそがあるのかないのか分からぬお気楽な顔をしている鯖ですが、栄養の面から言えば、こんな優秀な魚はないようで、青魚の中でもトップの地位にふんぞり返っている鯖であります
「今日の鯖はね、ホントに小っちゃめで申し訳ないんだけど、思うような品物が入らぬのも・これまた築地!毎日おんなじもんが入って来たら競りの意味がなくなっちゃうからサ、ねっ!今夜はこれで良しとしよう!」
あくまでも前向きな姿勢で進む幼馴染み…わたくしの恥でございますっ
ひとり・2尾の鯖を割り当てられた生徒さん…わたくしがちょっと席を外した間に卸し終わっているかと思いきや、まだチンタラと鯖との格闘をしておりました
「そんなに鯖を握ってたら体温で煮えちゃうよぉ~包丁を逆に引くとね、身が逆立っちまうから、気を付けて!」
「先生!あたくし、鯖だと思って甘く見ておりましたわ!鯖ってすぐにボロボロになってしまって…これ、どうしたらよろしいの?」
「よろしいのって…ぼろぼろにされた鯖の身になって考えろっての!そっちは煮ちゃおう、ねっ!もう1匹、学習能力を駆使してガンバル!」
半身が2枚に中骨1枚で「三枚卸し」となります
鯖は案外と血がドロッとしていますので、いつまでもまな板の上でこねくり回していると、身も包丁も滑ってきてしまいます
ここでわたくしの出番となりまして、ひと段落した生徒さんからサッとまな板を替えなければなりません
「鯖の口を開いて見るとね、小さな歯が見えるんだけど…そこから『小(さ)歯(ば)』と呼ばれたって市場のじぃちゃんに聞いたことがあんですけどね、そのじぃちゃんってのはこれまたホラッばかり吹いてっから、年寄りだってのに誰からも尊敬されないし大事にされないわけ、でもねぇ~なんか愛嬌があって憎めないんですよ。そのじぃちゃん、豊洲には行かないってんでね、チョィと寂しい気もしちゃうなぁ~」
生徒さんの三枚卸しを見回りながら、幼馴染みが築地の思いやら新天地・豊洲への思いをぽつぽつと話しています
生徒さんはそれどころじゃく、だぁ~れも聞いてやしません
全員が卸し終わったところから、いよいよ調理が始まります
「先ずは1匹目の下ごしらえ。半身ごとに使い方が違うので気を付けて塩を振って下さい!多めに塩を振るのは一夜干しって言うか、鯖の文化干しって知ってんでしょ?あれにします。あとの半身は塩・コショウを軽く振ってサバ・バーガーに挟むから…う~ん、お皿を別にして塩振った方が間違いないなぁ、ほれ!お皿を回してあげて!」
「ハイハイ!」
「この塩を振って、余分な水分を取ったあとで酢に漬けると『しめ鯖』になるんだけどねぇ~腸(はらわた)を取ってても脂がないからね、パサパサしたしめ鯖になっちまうんだよね。また時期を見て仕入れますから、待っとって下さい」
その代わりと言ってはなんですが、挟むパン!これは高島屋しか出店していない「イタリア・ペック」のチャパティを奮発したようです
写真・左は教室で作った「サバ・バーガー」で、右は10月に豊洲のイベントで販売した「サバ・バーガー」でございます!
左は三重県産の真鯖…右は大西洋サバ・通称ノルウェーサバと言いまして、通年を通して脂がのっていてお味はむしろ安定しています
「レモンをたっぷりと搾って召し上がって下さい」レモンをくし型に切り分けたのは、このわたくしですから、レモンを持って生徒さんたちに売りに出ました
「先生…たいへんに美味しいのですが顎が…顎が疲れてしまいますぅ~」
「顎で食べてんのぉ?歯で食べりゃぁいいんでないの?」
わたくし…ひとり・咀嚼を思い出し、パンは除けて動物質たんぱく質の鯖だけを頂きました
鯖の味噌煮は駄賃代わりにもらった鯖を家で再現してみることに致します
あと片づけを済ませ、ふたりして教室を出ると、夜空にはほんの少し右下が欠けたお月さまがあがってました
「そう言えばサ、昨日が満月だったじゃない?68年ぶりって言うスーパームーンとかっての?」
「そんなもん見上げてるってぇっと、ケツマ突くよ!ちゃんと足元を見て歩きなさいよ!」
あららのら?築地・本願寺さんのお屋根がライトアップされ、いち日遅れのスーパームーンのよう…湿度が多いと黄色く光ると言われているお月さまですが、真っ黄色
「それを言うなら黄金色夕べからまたなんかイベントやってて、お坊さんがいっぱい集まってサ、朝も早よからお経上げてるよ」
そう言われてみると…ザクザクと小判が落ちる音が聞こえたような
「あのね!鯖は生き腐れって言われるぐらいに足の早い魚だからね。ちょっと面倒になるけどもサ、下ごしらえはざっとでいいから今夜のうちに済ませなさいよ!来週はマグロの予定だから、早く体調戻してよ、未亡人!」
月夜の下「オヨヨのヨ」とその場に泣き崩れた、わたくし・未亡人でありましたが、路地裏には月の光が満ち満ちているような明るさがこぼれておりました
『バケツ一杯の月光を汲み込んで置く』
(ばけついっぱいのげっこうをくみこんでおく)
尾崎放哉(おざきほうさい)