春夏秋冬・春には春の夏には夏のそして秋には秋の花が店先に並ぶ「お花屋さん」は、今も女の子たちの夢や憧れとなっているのでしょうか
彩りよく寄せ植えされた秋桜が、歩道を忙しなく行き交う人たちの足をちょっとだけ弛めているように見えます
わたくしは人の流れに逆らって…その秋桜の鉢植えを見に花屋さんの店先に戻りました
「白にピンクに赤紫つくづくと秋を感じるなぁ~」
「花の命は短くて…私たち、もうすぐあの真っ赤かのポインセチアやシクラメンにこの場所を明け渡さなきゃなんないんですぅ~」
「え~っもうぉクリスマスってまだ先じゃないのぉ?そう言えばクリスマス・ケーキとおせちの予約承りますってチラシ、新聞に入ってたわだったらサ、ポインセチアだってシクラメンだってクリスマスが終わったら、すぐに万両や千両、松飾りに場所を明け渡さなきゃなんないから、お相子じゃない」
「お相子かぁ~私たちもヒマワリやお彼岸の菊、どかしちゃったもんね」
「因果は巡る糸車…って言うからねまっ、達者でね」
「えっ…買ってくれるんじゃないのぉ」
あたしゃ、それどころじゃなかったノダ
昨日、佃島に住むおぃちゃんから再度、電話があって…「米袋に張り付けてあった封筒を見付けた時はよぉ、あ~明のヤツ、俺に小遣いをくれるまでになったかと涙がチョチョリ出そうになったんだよもうお金の多寡なんぞ、どうでもよかはないけども、まぁその気持ちが嬉しいじゃないかよ、えっ、そうだろ?」
「へぇ~あのお兄ちゃんがおぃちゃんに小遣い信じらんないで・幾ら入ってたの」
「幾らって…おみえ、すぐに見に来いっガチャン」
それで以って、わたくし・おみえちゃんは息せき切って佃島へと小走りに行く途中ちょっと秋桜に袖を引っ張られちゃった・わけであります
都営・大江戸線「月島駅」を上がって3分の所に『佃天台地蔵尊(つくだてんだいじぞうそん)』がございます
子育地蔵尊は住宅のが続く路地に祀られてあるのですが、さぞかし窮屈な思いをなさってるんじゃないかと、通るたんびに手を合わせております
この路地を抜けたところに『波除神社(なみよけじんじゃ)』がありまして、小粒のギンナンがポト~ン・ポト~ンと気まぐれに落ちて来ますから、ご用心!
先ずはおぃちゃんちを通り越して、住吉神社さんへお参りを…
境内にある『龍神社』の脇に植えてある温みかん、だいぶと色づいて来たようです
「んワンコロ初めて見たわぁ~お・おぃちゃんあすこの路地にワンコロがいた知ってた」
「ワンコロそう!そうなんだよ、俺も知らなくてサ、自分で俺はモグリじゃないかと思っちゃったよ!」
佃はその昔、漁師町でありましたから、小魚などを狙ってどこからともなく猫が集まって来まして、代々・猫が多く住む町になりました
「あれって黒柴だよね」
「柴?柴犬?ありゃ、なんて言ったけか…シ・シ・シベ、リア?なんとかって犬だろ?」
「ちょっと、本人に聞いてこうよっと」
路地にそぉっと顔を覗かせると…いたいた!のんびりと寝そべっていたのが、屁っぴり腰のわたくしを怪しいと思ったのか、スッと座り直し、じぃっとこちらに視線を向けてきます
「黒柴にしちゃぁ大きいような気もするし…シベリアンにしては目が優しいしぃ…どっちですかね?二者選択で答えてくれる?①黒柴 ②シベリアンハスキー さぁ!どっち」
「ワン」
「あ~黒柴ね名前はなんてぇの?」
「ワン」
「ダミだ・こりゃぁ」
また話が長くなってしまいましたので、時計の針をぐるぐると巻き戻すと致しましょう
おぃちゃんの言うことにゃ…
米袋に張り付けてあった封筒をワクワクしながら開けたんだそうです
「持った厚みからサ、これは3枚、いや5枚は奮発したろうかなって思ったんだよしょぼくれちゃった目を凝らして枚数を数えようとして、こう背筋もピシッと伸びちゃってサ…そしたら中から出て来たのがコレッ」
「何?パンフレット?カタログ?叙々苑?あの超・高級・焼肉店の叙々苑?」
なんと・まぁ~叙々苑の『贈り物ギフト』の注文書が入っていたとのこと…然も焼き肉用・カルビ・ロース肉セット・10、000円のところに赤いマジックで印まで付いている
「俺が振り込めば、この肉が俺に届くのか?北海道に届くぅ?そんな馬鹿なことがあるか!えっ?米と芋のお礼に気を遣わんでいいように、こっちで選んでおいた?そう書いてあるのか負けたっ俺はあの馬鹿に負けたこれはだな、新手の振り込め詐欺にはならんのか?」
それから…従兄弟たちやおばちゃんちに電話を掛け、これこれこう言った新手の振り込み詐欺には充分注意するよう喚起し、遠回しに北の国から何か届かなかったかを聞き出しました
「芋と南京、玉ねぎにゆめぴりかが届いたけど…食べちゃっていいもんか、考えてたとこ!またサ、なんか送れって言ってくるかも知れないから、おみえちゃん佃島にいるんなら『丸久』の佃煮、適当に見繕って送ってといてよっ」
「わ・分かった~」
ひとまず、電話を切って…「おぃちゃん、田端のおばちゃん。丸久の佃煮送っといてってサ、おぃちゃんも佃煮でいいんじゃない?統一しようよ、佃煮で」
「叙々苑と丸久か…そりゃぁ、丸久の方が上等だわ!」
歩いて3分、走って1分…隅田川のすぐ脇に店を構えている『丸久』さんに駆け込み、親戚一同・連名にして北海道へと佃煮を送りました
「おぃちゃん、叙々苑でランチ奢るからサ、元気出してよ!詐欺の1歩手前で助かったんだから…ねっ」
「うん…お互い・苦労するなぁ~北海道はもう雪が降ったって言ってたぞ。風邪ひかんようにって、言っとけ!」
「馬鹿は風邪ひかないって!」
『すてられし下駄にも雪が積もりおるここにも統一があるではないか』
(すてられしげたにもゆきがつもりおる ここにもとういつがあるではないか)
山崎方代(やまざきほうだい)