この100年の間に3度も上昇したと言われる東京の気温であります
灼熱の太陽を避けようと桜の木陰で信号待ちをしていましたら、耳元のすぐ側で「ツクツクボォ~シ!ツクツクボォ~シ!」とけたたましい鳴き声がします
視線をちょっと上げましたら、大して探すこともなく晩夏に鳴くとされているつくつく法師を見つけることが出来ました
つくつく法師は警戒心がとても強く動きが素早いので、こうしてカメラを近づけようとしたらパッと飛び去ってしまうのに、せっかくの木陰を動くのが億劫なのか…鳴くのを止めただけでジッとしています
法師の名をもらったセミの薄く透き通った翅は、僧侶の紗の袈裟に見立てているのでしょうか…ひとり・旅に立つ僧侶の姿を思わせます
夏・セミと言えばアブラゼミの名が挙がるほど都会から地方まで君臨していたのですが、地球温暖化のためアブラゼミの生態系が狂い、日本各地で激減していると聞きました
あちこちの道端でひっくり返って息絶えているアブラゼミの亡きがらを見られる日が、もしかすると無くなるやも知れません
思わず足元で白くなった腹を出し、お亡くりになっているアブラゼミに手を合わせてしまいました
「ラッキョの甘酢漬け」と、37度の気温を打ち出した太陽で干した「いち日干し梅干し」を持って、大学2年・あきらくんの母親である幼馴染みの家を訪ねました
「お帰りぃ~鎌倉、どうだった?楽しかった?お土産、届けに来てくれたのぉ」
「うんすっごい楽しかったわぁ~ハイ、これラッキョと梅干し」
「…ありがとで、鎌倉のお土産は」
「うんみんながよろしくって」
「そぉ?よろしくって?それって築地のさわちゃんにでしょ?まっ、それがいち番安上がりだねじゃね」
ラッキョと梅干しを受け取った、そのとたん玄関ドアはバタンと閉められました
「ちょっとぉ~」
ピンポン・ピンポンチャィムを鳴らしていましたら、大学2年・あきらくんがドアを開けてくれました
「池井戸潤の新刊書、持って来てくれた?」
「持ってきたけどサ、玄関の中に入れてくれなきゃ渡さない」
ようやく、ちょっとは涼しい家の中に入ることが出来ました
池井戸潤・最新作「陸王」りくおう?いったいどんな物語なのか、見当もつきません
オビには『勝利を、信じろ。』とありますから、陸上スポーツものかな?と思いましたが、またまた池井戸ワールド全開
中小企業が大手企業に知恵と工夫、そして情熱で逆転勝利を収める…と言った勧善懲悪(かんぜんちょうあく)がはっきりとした水戸黄門さま式の展開で一気に読めるかと思います
「下町ロケット」の下町が足袋の町・埼玉県行田市となり、ロケット開発が創業100年の老舗の足袋屋「こはぜ屋」に置き換えて、銀行との融資のやり取り、大手企業と相対するし烈な競争など、もしドラマ化するのなら、主役はやはり阿部寛しか思いつかないと言ったストーリーであります
「足袋・こはぜ屋」の社長・宮沢は、先細りになっていく商いに地下足袋を改良したランニングシューズの開発を始めます
その商品名が「陸王」…本のタイトルは開発を進めているランニングシューズの名前です
奇しくも今!リオ・オリンピックが開催されている真っただ中でございます
陸上競技は12日から21日までと、あと少しで始まります
この「陸王」のおかげで、競技そのものよりも、選手がどんなシューズを履いているのか…それが楽しみになって参りました
オビには池井戸潤『陸王』屋号入りの紺足袋が当たる「応募券」が付いておりまして、抽選で50名様に当たると記載されています
これには「こはぜ屋」の印である「勝虫・トンボ」が刺繍されているそうです
「読む前に、「陸王」の面白さをこれだけ聞けるなんて、きみはなんて幸せなんだ!」
「もう読んだような気がした他に面白い本ないの?」
「ないっ」
「ねぇお昼、食べて行かない美味しいラーメンがあんのよ、ラッキョと梅干も」
人を炎天下に締め出して悪いと思ってか、台所からお誘いの声が掛かりました
「これ!明星の酸辣湯麺(スーラータンメン)っての。卵、1個で仕上げるんだけど、これが結構イケるのよぉ、ねっ?あきら」
「暑いってのにサ、最近こればっか俺、冷やし中華にしてよ!」
「やいっ!大学2年!親に向かって、俺、冷やし中華だなぁ?自分で作れぃ!」
「俺ね、夕方からビアガーデンのアルバイト行かなきゃなんないんだよ!明日11日で休みだからサ、すげぇ忙しくなるって脅されてんだよ」
「それがどうした?」
「どうしたって、だからあんまり体力使いたくないわけよ」
「甘ったれるんじゃないっ社会に出て金を稼ぐってのは、大変なことなんだぞ!働いて、働いて、働きぬけって、武田鉄矢がおっかさんにそう言われたって母に捧げるバラードで歌ってるでしょうがっ!」
「はぁ~い、お待ちどうさま卵ね、ふわふわに仕上がったわよ」
「頂きます」
インスタントとは思えない美味しさです
「ひと袋・127円もすんのよ!あーたなんか、55円のチキンラーメンでいいんだけど、ラッキョと梅干し貰ったから大奮発したんだからね!」
ハイハイ1滴の汁も残さず完食しましたよ!
さて夜もだいぶと更けて参りました
今ごろ、あのあきらくんはビア・ガーデンの後片付けでもしているのでしょうか
耳に届く虫の声に、秋の虫・コオロギの鳴き声が重なって聞こえます
秋が静かに、こちらに歩んで来ているようであります