幼虫時代を地中で過ごさねばならぬセミにとって、コンクリートで固められた都会で生き抜くことはさぞや大変なことであろうと、わたくしは予予(かねがね)思っておりました。

ようやく7年目にして地上に出られると思って胸膨らませたとて、出られる地上がセメントで覆われていたら…絶望のどん底に突き落とされるような恐怖に襲われるかと思います。

土に沁み込んでくる雨の匂いを辿って地上への道を嗅ぎ分けると聞いてはおりますが、わたくしなど閉所恐怖症でありますからセミに産まれなくて本当に良かったと思っております。

このところ、ミンミンゼミの方がアブラゼミより先行して鳴き始めていますが、どっこい!アブラゼミもとちの木の葉裏で羽化を済ませたようです。

今年産み付けられた卵が地中へと潜って、再び地上へと出られる日は、今から7年後。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックも終わっておりますし、美人薄命とも美人短命とも言うなれば、このわたくしもこの世には…おそらくいないであろうかと思います…なぁ~んちゃって!

さてさて、耳を澄ませばジィ~ジィ~と鳴く声が聞こえます。

声はすれども、その姿を見ることはまだ叶いません。

枝から枝へと元気に飛び交うセミを見掛けたら、遠く過ぎた7年前に何が起こっていたか…私は何をして来たのかを改めて問うてみたいと、その抜け殻を見上げながら思いました。           

その私、7年前どころか産まれたときから大好物である練り物!

かまぼこ、さつま揚げ、笹かまぼこと魚の練り物なら何んでもござれの私ですが、このところ特に気に入っているのが、この『なると』でございます。

ラーメンはもちろん、素うどんにたぬきそば、茶碗蒸しの具はこれだけ、チャーハンにも刻んで入れちゃうほど、最近ハマりにハマっている『なると』です。

『なると』は鳴門海峡の渦にちなんで付けられたと思いきや、平安時代からあると言われているそうで、あの時代に鳴門海峡が認知されていたのか?

そんな小難しいことを考えなくていいのが『なると』の良さであろうかと…

『なると』をそのまま丸かじりにしても充分美味しいのですが、更に熱を加えるとその旨みは噛めば噛むほど味わい深いものがあります!

こちら…一見すると渦を巻いているように見えますが、よぉ~く見ますと丸い輪が均等にあるだけで、渦ではありません。

これ、イタリア原産の野菜、ビート・蕪なんだそうですが、日本名は『渦巻き大根』と『なると』を思わせる雰囲気だけはあるかと思います。

高級スーパーですと『ビーツ・マーブル』などと気取った名前を付けられております。

生ですと少し土臭く感じはしますが、それも滋味としてとるならばサラダに添えますと彩りになって、ちょっと変わったイタリアン・サラダになるような…?ならぬような?私なら『なるとサラダ』の方がより魅力を感じ、完食しちゃいます。

火を通しますと、甘味が増してホクホクとした触感が楽しめます。

私が子どものころの東京ラーメンと言いますと、こんな感じでして至ってシンプル!

焼き豚としなちくはずい分とあとになってから添えたように思いますが、深川・下町のラーメン屋だけがこのスタイルだったのでしょうか?

映画「男はつらいよ」の主人公・車寅次郎は、ラーメンにのっている『なると』が苦手だったようで、屋台のラーメン屋で座ってこう言います。

「おじさん、ラーメンくんな。なるとは入れちゃいけないよ。あれはね目がまわっちゃうから」

『なると』で目が回るくらい何んだってんだい!

あれは喰わず嫌いで損をしてるなぁ~

私は好きな物は先に食べちゃう「派」なもんで、家人のラーメンの上に残されている『なると』を横目で見ていますと、家人は長年の経験でさっと私の丼の中に入れてくれます。

「もし食べちゃったら、あとで何を言われるか分かったもんじゃないからな。1本丸ごと入れりゃいいだろ!」

チビチビと食べてこそ『なると』の良さが分かるんです!

目が回ったら、逆に戻ってくれば元に戻るのではないでしょうか?

練り物屋さんによって、この渦巻きや色に微妙な違いがありまして、わたくし、どこかの学会で発表したいと願っております。