ふわりと懐かしい香りがしたような…気が致しました。
しっかり嗅ごうと鼻の穴を膨らませ、大きく深呼吸!
うん…?金木犀(きんもくせい)?」
「うん!この香りは金木犀だっ!」
昨年は…夏から秋に掛け、家人の16時間にも及ぶ手術がありまして、私にとっての秋は花の香りも色も褪せてしまったものでした。
それが今年の秋は、色鮮やかに季節が蘇ったようであります。
香りのする先に目を凝らしますと、見覚えのある濃い緑の葉に隠れたその花を見付けました。
あちらも待っていてくれたかのよう…花の芯と目がパシッと合いました。
あとで、家人も連れて来よう。
この小さな花を見たならば、この芳しい香りを嗅いだなら…きっと喜んでくれる。
部屋に戻り、金木犀の話をしようと家人を探しました。
探すたって、それほどの広さじゃありませんで、首を右から左へ…上を見て、下を見て、それで終わり…自慢する広さじゃありゃしません。
けれども、見当りません。
と…?
居間に広がった讀賣新聞やスポーツ報知で埋もれたすき間から、家人のあの見慣れた「広すぎるおでこ」がピカッと光りました
夕べ、念願だった我らが東京読売巨人軍が、2014年度・セントラル・リーグ3年連続・36度目の優勝を決めましたっ
最後のスポーツニュースまでしっかりと見てから寝ましたものですから、ぐっすりと鼻ちょうちんで寝込んでしまい、「巨人V3」と載った待望の新聞が配達された音をふたりして聞きそびれてしまいました
家人は、私がゴミを捨てに行っている間に起き出して、寝乱れた姿で新聞を読み漁っておりました。
「浴衣の襟も肩からずり落ち、裾も乱れ…ずい分と色っぽい姿ですねぇ~!あのね、下の公園に金木犀の花が咲き始めてね、すっごくいい香りがするんだけど、嗅ぎに行かない?」
と、誘ってはみたものの、まるで耳に入っている様子はなし
「巨人の祝賀会、横浜ベイシェラトンホテルの地下駐車場でやったんだけどもサ、東京ドームホテルは儲けこそなったよなぁ~シェラトンは棚からボタ餅だわ。やっぱり本拠地・東京ドームで優勝を飾らなきゃぁダメだよなぁ。ハマスタ(横浜スタジアム)での胴上げじゃ、なんかこう感動が違うんだよっ、分るだろ?」
「うん、分るよぉ。オレンジ色に染まったドームは、ホント圧巻だもんね。涙の出る量が違うしサ。いつまでも余韻に浸れるし…」
家人が入院していた東京医科歯科大病院は東京ドームへも近く、病棟の方角さえ合えば、我らが愛してやまぬドームの屋根が眼下に見ることが出来ます。
さて…家人が顔を埋めるようにして読んでいる報知新聞には「ビール3000本、スパークリングワイン120本、ふたつの樽酒が約30分で泡と化した」と書いてあります
三越・伊勢丹・イトーヨーカドー・セブンイレブン・ビッグカメラと本日から優勝セールが始まるそうで、その広告の賑やかなこと
その経済効果は如何ほどになるのやら…
日本橋・三越では開店前にすでに3000人の人が並んだそうです
我が家もせっかくですから、巨人の優勝にあやかる物を買い求めたいとは思うのですが、なんせこれと言った欲しい物がありませんで、経済効果の波を妨げるているようで申し訳ありません。
冷凍庫に入っていた牛肉の切り落としを自然解凍…室温が下がったせいか、適温に戻るまで、今までよりもちょっと時間が掛かりました。
牛肉には砂糖の甘さがよく合いますので、すき焼き風にしながらも甘さを勝たせ、ご飯に乗せ熱々をかっ込みました!
「はふはふ、ほぉじんがしゃかちゅと、やっはほはんがほいしいねっ!」
「きみは何を言っとるんだよ」
『ハフハフ、巨人がサ勝つと、やっぱご飯がおいしいねっ!』
金木犀の香りは夜に嗅ぎますと、その香りは一変するように感じるのはわたしだけでしょうか?
「いんや、俺もだよ。この甘ーい匂いはムァッとロジャー・ムーアだね」
最近は酒も飲まぬのに意味不明なことを申しまして、腎臓の心配をするより、おツムリを疑ってしまいます。
「アルコールが入ってないから変なんだよ」
コオロギの声を聞きながら、金木犀の香りを嗅ぐ…東京の秋もこれでなかなかに乙であります。