空が…ほんの少しだけ高く感じられるいち日となりました。
二十四節気の第13番目「立秋」が巡って参りました。
どこに秋が立ったのかと探してしまうほどの暑さでありますが、初候に「涼風至(すずかぜいたる)」と聞きますれば、木陰を行く風に秋が見え隠れして吹き抜けたような…気も致します。
ご無沙汰をしている、あの方・この方に「残暑見舞い」の便りを出してみましょうか。
秋の雲には「うろこ雲・さば雲・いわし雲」と魚シリーズがあります。
嬉しいことに私の干支である「未」も巻積雲・ひつじ雲となって空にもこもこと浮かぶ季節もやって来ます
空のひつじ雲を1匹2匹と数えておりますと、立ち居眠りをしてしまいますから、充分お気を付けて下さい。
本日は微熱が続いてキャンセルとなっていた家人の「PET検査」の予約を入れて頂いた日であります。
検査開始が9時半、その15分前には病院に着いていなければならず、8時40分には家を出ないと、何か起きたら間に合いません。
「何か起きるって、何が起きるの?この僕に…」
あなたに起こらなくとも、このところ各・鉄道線路上においての人身事故が相次いでおります。
東西線の8時半では、まだ通勤ラッシュが終わってはいないと思いまして、この老体を電車に詰め込んだら、PET検査に行く前に他の病院…順天堂病院に運ばれてしまうでしょう!
「運ばれてしまうでしょうって、東京医科歯科大の隣だろ!診察カードを出して俺は頑張るよ!」
何をどう頑張るのかと聞いたところ…
「わたくしは癒着型・浸潤性膀胱がんに罹り、横におります愛妻を残しては、まだあの世に逝けないと訴えたところ、今はアメリカ・ワシントン州に研究留学に行ってしまわれた東京医科歯科大の木島先生に助けて頂きました…とね、こう言うわけよ。それでわたくしはせっかく運び込まれた順天堂大学病院ではありますが、東京医科歯科大への恩義もありまして、貴・病院にかかるわけにはいかんのであります!」
そんな七面倒臭いことに天下の順天堂大学病院を煩わせることなど出来ません。
家人だけをタクシーに乗せて先行させることに致しました。
PET検査(ぺっとけんさ)と言うのは、私どもも今回家人が受けるまで詳しくは知りませんでした。
PET…陽電子放射断層・ポジトロン・エミッション・トモグラフィーを略したそうですが…はぁ~と出るのはため息ばかり也…
がん細胞と言うのは体内にあるブドウ糖、すなわち甘いものが好物だそうでして、栄養のある細胞をパクパクと食べながら増殖していくのだとか…
がんは腫瘍が出来たり、体に変化があったりしなければなかなか素人の私たちには早期発見は難しいとされています。
ある程度、がんが進んでからも手術が出来る発見であれば運がいいと言われます。
聞き慣れぬ「シンチ」と言いますのは、大阪の新地ではありませんで、こちらは骨の中のがん細胞を見付ける検査になるそうです。
特殊な検査薬で「がん細胞」に目印をつける…これがPET検査の特徴だと説明されました。
この検査薬を注射して30分ほど体全体に回るまで、ゆったりと休みます。
それからMRIのようなドーナツ型のPETスキャナーに入って30分…
閉所恐怖症の私には到底無理な検査であります。
検査開始の5時間前まで、糖分の入った水分は飲めません。
どこもかしこも勝手な反応が出てしまうからです。
家事をざっと済ませた私が電車で駆け付けたのが、ちょうど検査が終わったところでした。
PET検査・技師の先生が仰るには…
「脳の活動には糖分が必要ですからね、脳には光が集まっています。脳への転移にはまた別の検査がありますが、金ちゃんには必要はないと思います」
ただでさえ光って眩しいのに、中まで光輝いているとは…これは本物の光り物かも知れません。
「検査薬が体内から出て行くのに1日は掛かります。十分な水分補給をお願いします!待合室で40分ほど掛けて、このペットボトルの赤線までは絶対に飲んでください」
「赤線かぁ~!懐かしいなぁ…この赤線までね?ハイハイ」
何がハイハイだか…
それにしましても…このペットボトルの名前が凄いですね!
「財宝」ですって!
飲み干してしまうのが惜しいような気がします
PET検査の詳しい結果は、日を改め泌尿器科外来に行かなくてはなりませんが、体調が良ければ生ものもオーケーが出ましたので、家人は「寿司」がいいと言って1歩も譲りません。
「寿司」でもって1歩も譲らぬ年寄りも珍しいかと思います。
約ひと月もの間、熱にうなされお粥かうどん・西瓜で暮らして参りました。
で・病院から銀座のお寿司屋さんへ久しぶりに顔を出しました…ら・びっくりした顔を向けられました!
「何んだよ!生きてるよ。さぁては悪い奴らが来てウワサ流して行ったな?今度そいつらが来たらサ、金ちゃんピンピンしてましたって言っておいてくれい」
さて、ここは家人の年金の積み立てを崩しまして…大盤振る舞いを。
「まだ崩せるほどの積み立てがあったんだぁ?」
PET検査で全身ががん細胞で光っては敵いません。
ここは光り物で撃墜と行きますか!
シンコがあると言うので、先ずは初物・シンコでお疲れ様でしたの乾杯であります
赤が付くのがいいと家人は「赤貝」を握りで…
私はコハダとシンコでダブル光り物を食べ比べてみました。
出世魚というほど大げさな魚ではありませんが、まずは幼魚のシンコ、若魚のコハダとここまでは寿司ネタになります。
その次に成長しますとナカズミ、最後にコノシロとあまり調理向きではなくなっていきます。
器用に箸を使う家人の右腕には痛々しいほどの点滴の針の跡が残り、皮膚は青ずんでおります。
今朝の注射跡にも大きな絆創膏が貼ってありまして、血管が浮き出るほど痩せてしまいました。
「このくらいでメゲてなんぞはいられないよ!みんな淡々とがんと闘っているじゃないか!それにサ俺は腎盂腎炎で痩せちゃったんだから、あんまり大きな声じゃ言えないよ。それよかサ…穴子、2貫頼んでもいい?」
香ばしく焼かれた穴子を頬張る、腎盂腎炎の君よ…
私にとって、寿司屋のカウンターでこうしてふたり…並んでいるのが夢のようであります。
「好きなだけ、どうぞ!」