お堀の水面は穏やかそのもの…
ここは東京・佃島であります。
佃小橋のたもとでは、もうハゼ釣りを愉しんでいる人を見掛けました。
「釣れますか?」
「う~ん、当たりはあるけどね、まだ小さい!」
いよいよ…家人の趣味であるハゼ釣りのシーズンが始まったようです。
家人の熱が下がって体調が戻ったら、さっそく連れて来るとしますか!
「そこの、ハゼエサをたんとべて、大きくなってるんだよ!」
「へっ!やなこったぃ!」
さすがは江戸前のハゼは威勢がいいようであります。
東京は今日・13日から迎え盆に入ります。
佃島の軒下には提灯が下がり、お盆を迎える用意が整ったようであります。
白に「佃島盆おどり」と書かれた提灯は涼しげに川風に揺れていました。
佃島のお迎え火は昔から、お線香でご先祖様をお迎え致します。
今日は従姉の弘子ちゃんにお線香を上げに佃島へとやって参りました。
「こんちわぁ~!あれれ、またずい分とお迎え火焚くの早いですねぇ」
「そうだよ、しろこ(弘子)に早く帰って来てもらいたいからサ、明るいうちに呼んじゃったんだよ」
東京弁は「ひ」と「し」がこんがらがっちゃっているので、ひろこがしろこになってしまうんです。
弘子ちゃん…いち年振りに下界に下りてくるんですから、紅のひとつでも差して来ていることと思います。
さて…それぞれの家にはご先祖様の祖霊が帰って来て、さぞや賑やかでありましょう。
佃島のメインストリート?には櫓が組まれ、提灯にも灯が灯りまして盆踊りが始まったようです。
6時からは子どもたちだけで輪を作り踊ります。
子どもたちが踊ると言いましても「秋の七草」と「仏供養」の唄しかかかりませんで、踊りも歌も「口伝」によって受け継がれています。
真ん中で采配を奮っているのは「下駄の中澤さん」です。
いつも中澤さんに会うたび、自慢の下駄を突っかけておりますもので、私が勝手にそう呼んでいます。
子どもたちが踊る振りは、この中澤さんひとりが、それこそ手振り足振りで教えております。
子どもたちが踊っているあいだ中、あーだこーだと櫓の下を回っておりました。
子どもたちの踊りは7時で打ち切りでして、単調な節回しとは言え、浴衣の背がぐっしょりと汗で濡れておりました。
一生懸命踊った子供たちにはご褒美として、佃島特製「菓子券」が手渡しで配られます…が、この菓子券、佃島にあります酒屋さんと駄菓子屋さんの2軒でしか使えません。
まぁ~小さな島でありますから、そうそう店があるはずもありません。
子どもたちの元気な声が響きますれば、それもまた嬉しいものであります。
7時過ぎから、ぼちぼちとほろ酔い気分の大人たちが櫓の周りに集まって来ます。
大人たちも「念仏踊り」しか踊りません。
「秋の七草」は…
「人も草木も盛りが花よ…」と歌いますと「コラショィ」の合いの手を入れます。
この合いの手がなかなかに難しく、念仏のような歌でありますから「コラ、ヤトセーヨーイヤナ、コラショ」の入れ方にもコツが要るんです。
念仏供養はとなりますと…
「踊れ人々、供養のためじゃ…」と太鼓だけの節回しでこれも年季が要るかと思います。
最後の「座臥(ざが)に唱えよ 南無阿弥陀仏」を聞きますと、思わず手を合わせたくなるほどです。
佃・いち文字じゃぁ様にならねぇ!ってんで、「津久田」の三文字を当て、手ぬぐいでこさえたダボシャツあります。
あぁ~今年も無事にお盆を迎えることが出来た…
来年のことなど誰にも分かりゃぁしませんが、家人とふたりで来られたらと願わずにはいられません。
明日も、元気に迎えることが出来たなら、こんな幸せなことはありません。
先ずは…おむすびでも持ってハゼ釣りに参りましょう。
「あのね、梅干しの入ったおむすびだけはやめてくれよ、あれはゲンが悪いんだ。坊主になっちゃうからな」
「ハイハイ…1尾も釣れないことを、おでことも言うじゃない?あーたの場合は広すぎるおでこにならないよう、昆布に致します」
早く元気になって下さいな