我が町内の坂道を下りて行かれる托鉢僧・雲水さんたちの後ろ姿でございます
鎌倉五山第1位・巨福山建長寺さんから列を成し、「ほぉーほぉー」と声を上げ「行雲流水(こううんりゅうすい)」のような早足で過ぎて行きます
空行く雲や流れる水のように…形を成さず、深く物事に執着せず、自然のままに移ろい、ひとつの所にとどまらぬ雲と水を指し「雲水」となったとか…
私どもは石段の下で喜捨を施し、経を唱えて頂きました
本日は、家人の放射線治療をあてる場所を特定する下準備・マーキングを行うため、御茶ノ水にあります病院の予約が入っています
朝、8時過ぎでしょうか
出掛ける用意をしていましたら、雲水さんたちが発する声を聞きまして、これは家人を励ましに来てくれたのだと思いました
剥き出しでは失礼かとは思いましたが、何しろ我が家の石段は16段…モタモタしていては、巨福山の『福』が行ってしまわれてしまいます
慌ててお札を握りしめ、家人を急き立て石段を駆け下りました
「どうぞ…厳しい修行を無事終えられますように」
目が覚めるようなブルゥーの袋を受け取って、さぁ~地下2階へ…
大事な書類が入っていますから、しっかりと胸に抱いてエレベーターに乗りました
乗ったはいいんですが
「私ってサ、閉所恐怖症だったんだ然も行く先が、地下2階なんてぇ~信じらんなぁい」
「まったくきみはね、やっかましいんだよ」
喚いているうちに扉が開き、フラフラっと降りたホールは、地下シェルターのような…頑丈だけが取り柄と言った感じの放射線科のフロアでした
窓がひとつもないもんですから、急に息苦しくなってきまして、家人に手を取ってもらいながらの歩行となりました
「おい、しっかりしてくれよきみは俺を支えるのに付いて来たんだろ?俺に寄りかかってどうすんだよ」
「…そうであった」
その患者さんにあてる放射線のプランを考える…プランニング室の前で待つこと40分
放射線技師・3人が1チームとなって治療に当たってくれるのだそうで、頼もしいかぎりです
CTスキャンを撮ったあと、放射線をあてる場所にマジックでバッテンもしくは、十文字を肌に直接書き込まれたとか
前に、乳がんの患者さんに聞いたことがあるんですが、小さなホクロのような刺青を乳房や鳩尾に刺すんだそうです
それは、チクッとかなりの痛さだったと言っていました
家人には、お手軽なマジックで充分でございます
今日は「蕎麦が食べたい気分」だとか
こちらもお手軽に、銀座松屋8階に支店を出しています「明月庵・田中屋」へ
「ここもエレベーターだぞきみは階段で行ったらどうだっ」
「…どうだったって、どうだ」
地下へ下りて行くよりは、地上の方がまだ希望が見えますからね、案外と大丈夫なんです
家人はアルコールを控えてはいるんですが、豆類が大好きなもので、つい頼んじゃうのが、そら豆と枝豆なんです
お品書きには、季節限定の「そら豆」が載っておりまして、「ひとつ!」とちゃっかり注文を済ませていました
これが熱々茹で立てでして、指で摘まみ出せない
お味はホクホクと、塩梅もよく美味しいのですが、さて…そら豆・枝豆となりますと、茹で立て、ちょっと冷やしておくのと、どっちが好みか
「俺はそれなりに、どっちでもいいねぇ」
「私もだわ」
食べ物で意見が一致しましたのは、何んと5年ぶりでございます
蕎麦を手繰る家人を眺めておりますだけで、幸せ
いち日の大半を、こうして家人と一緒に過ごし、時間を共有しておりますと、それは…まるで蜜月・濃縮還元ジュースのようなものであります
人さまも羨む、仲睦まじきふたりに見えましたら、もっと幸せ
銀座の街から、空を見上げれば…手をつないでいるかのような雲が見えました
空を行く雲になれたらなぁ
ポカンとして、浮かんでいるだけでいいんだもの
『おーい雲よ悠々と馬鹿に呑気そうじゃないか。
どこまで行くんだ、ずっと常盤平までゆくんか』
(おーいくもよゆうゆうとばかにのんきそうじゃないかどこまでゆくんだずっといわきたいらのほうまでゆくんか)
山村暮鳥(やまむらぼちょう)