まるで、生きているかのよう…な、沢蟹の亡骸です
カワセミに、さらわれそうになったのか…
アオサギのくちばしに、突かれたのか…
アライグマの好物でもありますから、ちょっかいを出され、必死に逃げたのかも知れません
最後の最後まで、鋏角(きょうかく)を振り上げ、戦ったのでしょう…右のハサミが踏まれたように潰れています
大きなハサミを持っていますのでオスだと思いますが、肩幅が張っていて、ムキムキ・マッチョマンを思わせる体です
もしかしたら愛する妻を守ろうとしたのかも知れません
八幡さまの境内を流れる静かなお堀にも、こうして生きるものと死するものが、いつも背中合わせになって過ぎて行きます
小っちゃな亡骸ですが、もみじの葉に囲まれ…私の足音を聞いているかのようであります
鎌倉・雪ノ下にあります、鎌倉市川喜多映画記念館では、11月から来年の1月末に掛けて「映画女優・高峰秀子」の特集が組まれておりまして、主演映画の上映とともに、ポスターや台本、著書の原稿なども合わせて展示されています
本日から3日間に亘って上映されますのは、松本清張・原作「張込み」です
文庫本で30ページほどの短編なんですが、着想の閃き・人物設定・立ち位置と、どれを取ってもよくまとめ上げられている珠玉の1編だと思います
それでいて、さらりと読ませるあたりは「さすが!」と唸ってしまいます
映画では、殺人事件が起こる場所が山の手・目黒から、下町・深川と変わっていたり…と、原作と多少の違いはありますが、久しぶりに観る白黒映画は返って新鮮で、画面が放つ印象は強烈で、冒頭の描き方などは、まるでドキュメンタリー映画を観ているような緊迫感があります
殺人事件の共犯者・石井を追って、九州・佐賀県までやって来たふたりの刑事が張り込むのは、石井の昔の女・さだ子…今は人妻となったさだ子に感づかれぬよう、進められる監視
「さっ!張込みだ」と意気込みを見せる、柚木刑事(大木実)の若いこと
銀行員の後妻に嫁いださだ子が住む、家の斜め前の旅館から眺める生活は、単調で平穏な暮らし振り…張込み・6日目になって、急展開がっ
昭和33年度・野村芳太郎監督作品ですから、出演者のほとんどがすでに亡くなっていまして、それはもう懐かしくも、珍しいお顔ばかりでした
浦辺粂子・多々良純・宮口精二・藤原釜足・北林谷栄・田村高広…芦田伸介、そして高峰秀子・大木実さんと、ほんの脇役でしかなくとも、どなたもその存在感はどっしりとして、さすがであります
年配の殿方が多く観に来られておりましたのは、骨太なイメージもあってでしょうが、やはり若かりし頃に観た懐かしさがあるのでは…と思いました
終わったのが、12時40分…ちょうどお昼どきです
横浜から観に来た友だち3人と、若宮大路にあるピッツァのお店「DaDa・ダダ」へ
「まっ!取りあえずは、張込みを終えた刑事ふたりに、カンパイ」
「ホント暑い中での張込み、大変だったよねぇご苦労さん」
「原作じゃサ、確か…秋なんだけどね」
「秋なんて、1年でいち番、いい季節じゃない?そんなの絵になんないわよっ」
「そうよ刑事ってのはサ、汗を拭き拭き、聞き込みに歩き回るか・・・土砂降りの中を犯人を追って走るか…粉雪が舞い散る夜に電信柱の横に貼り付いて見張ってるかしなきゃ、刑事とは言えないわよ」
「そうなのぉ~?ドラマの見過ぎじゃないの」
「ヤダっ刑事ってのはそんなもんよ然も…昭和32年が舞台なのよ」
「ちょっとなんで、人のお皿にじゃがいもばっかり取り分けてんのよっ!タコも入れなさいよ」
『真ダコとじゃがいものサラダ』ってんですけど、じゃがいもの下味の酸味がしっかりと効いて、タコも柔らかく、ビールによく合いました
物語の始まりは横浜駅のホームでして、刑事ふたりが発車間際に駆け込むのは、鹿児島行きの急行列車です
東京駅から乗ったんでは、新聞記者に見つかってしまう…と、わざわざ横浜で待ち合わせをしたはずです
原作では、「汽車・筑紫」をモデルにしたと思うんですが、撮影では「伊勢」行きが映っていました 駅弁の箱をぶら下げている売り子さんが持っていた、シューマイのノボリも画面の端っこに見えまして、さすが横浜の名物は不動なんですねぇ
「…気が付かなかったのぉ」
「それが…サ、ストーリーと何んの関係があるってのよ目が幾つあっても、足りないじゃん」
「そうよねぇシューマイの売り子がホームにいる時代だったんだからちょっとゲソばっかりお皿に分けないでよ」
「自分で取りゃいいでしょ」
『ヤリイカのフリット』ってのが来たんですが、いったい誰が注文したのでしょうか
こんな薄いヤリイカなんですが、プリッとしていて油臭さが少しもありません
醤油をタラァと落としたら、もっと味が締まって、ビールが進むと思います
タコとイカに執着している…こんなふたりを相手に話しをしたところで、松本清張と野村芳太郎監督に申し訳が立ちません
『マルガリータ・ピッツァ』を頬張り、無視
「だけどもサ、昔の男がよもし犯罪を起こして会いに来たら、どうするぅ?」
「すぐ警察に連絡する!」
「あーたね、それじゃ物語になんないでしょでもこの歳になると、それも七面倒くさいね」
「松本清張も最後にこう言ってるのよ…過去が牙をならして立ち現われ女を追いつける…って、何んにもないのが、いち番なのよ」
妙に納得をした友だちと別れたのが、陽も暮れかけた午後3時
「張込み」のさだ子のように、何事もなかったような顔をして、我が家に帰り着きました