お彼岸が来れば、少しはこの暑さも退くだろうと期待をしていたのですが、彼岸の入りになっても、頑固な高気圧がデンと居座っておるようです
とは言え…さすがに、その鳴き声も少なくなったアブラゼミが、日陰を探したものか、フラッと家の中に迷い込んで来ました
これがまた…鳴かぬでいいものを、翅をふるわせ鳴くものですから、いやはや…たださえクソ()暑いのに、まったく暑苦しいったらありゃぁ~しません
夏の名残と思えば…これもまた風流
「いい喉だねぇ」と褒めてやりましたら
「恐れ入ります」だって
「暑さ寒さも彼岸まで…とは、よく言ったものだねぇようやく凌ぎやすくなったじゃないか」
昭和の時代…うちの母親も、となり近所のおばちゃんたちもよく言っていたものです
平成になってからでしょうか?
地球温暖化の影響で、この慣用句もどうやら通用しなくなったようであります
ところが…
この慣用句…「暑さ寒さも彼岸まで」の意味を転じ、昔の人ならではの諺としたようです
「辛いことも、悲しいこともサ、いずれ去っていく…って思えば、耐えられるだろ」
私が、くよくよと詰まらないことで悩んでいるときに、母親はこう言って慰めて?くれたものでした
なかなか、去っていかないものもありましたけども
暑さに首をうなだれております間にも、渋柿といえども、ちゃんと季節を感じ取っていたのか、こんなに大きくなっておりました
今日は、当時の運輸省・今の国土交通省・航空局が制定しました「空の日」だそうで、そう言われれば
いくらか空が高く、澄んでいるような気もして参りました
そろそろ涼しい風が吹くことでしょう
待ち遠しいことです
小町通りを風のように音もなく進むは、建長寺さんのお坊様です
お彼岸を前に、何やらお急ぎの様子です
白い脚絆をしっかりと巻き着けていましたから、チョイとした遠出かもしれません
今夜・・・歩き疲れた体に、クィッと般若湯が沁みることでしょう
家人の友人が、京都のお土産にと「純米大吟醸・玉乃光」を送って下さいました
なんとっ
日本酒なのに年代ものなんです
古酒とは違う「長期貯蔵・2006年3月搾り」の限定品とラベルに記してあります
「こんないいお酒なのに、なんで鯵の塩焼きなんだよ白身の刺身かなんかで、一杯やりたいじゃないか」
「鯵をバカにしちゃぁいけない今の時期の鯵はぎらっとした脂が抜けて、塩で旨味が活きて美味しいんだから」
美味しかったのでしょうね…
黙々と食べ、チビリチビリと飲んでいました
ちょうどよく冷えた「玉乃光」を飲んでいて、ちょっとした逸話を思い出しました
10年ほど前の朝日新聞だったかと思いますが…
鎌倉のお隣、葉山に「一色」という手打ち蕎麦屋さんがありまして、その頃、まだお元気だった店主・おやじさんが話していたものと記憶しています
その昔…鎌倉文士・堀口大學、里見弴、評論家の小林秀雄氏がお気に入りの店だったそうです
当時の町長さんとのお付き合いも深く、自然と鎌倉文士が集まり、酒を酌み交わし、文学について、時の政について、酒を、美味いものをと大いに語り合ったと、まことに羨ましいお話で記事は始まりました
ここ「一色」では、旨い酒を選りすぐり、全国から取り寄せていますが、あの「玉乃光」が置いてあるのかと、小林秀雄氏が驚き、気のおけない文士たちを誘い、鎌倉から飲みにやって来たといいます
里見弴氏や堀口大學氏は小説家、小林秀雄氏は評論家…
作家に遠慮のない口調でズバズバ言っていたそうで、中でも面白いなぁと思いましたのが、小林秀雄氏の酒の扱いでありました
「酒は燗に限る」と言うものです
況してやウィスキーの水割りなどは、一刀両断
「人様が丹精込めて作ったものをだな、水で薄めて飲むなどは、バカのすることだっ!」と、洋酒カブレの作家たちをどやし突けたと言いますから、いやはや悪酔いしそうな、おじさんです
一色のおやじさんの話を聞くと…ごもっとも!とタメになる話であります
人の胃袋は、体温と同じ35度から36度くらい…
お酒で言いますと、ぬる燗の温度だそう…さすれば、胃袋と同じ温度の酒を飲めば、スイスイと気持ちよく飲めると、その説得力に思わず頷いてしまいます
今では、いい酒と言うと「冷酒」で頂くもんだと言われてしまいがちですが、酒に含まれる酸が少ない酒は、お燗をしたら美味しくないのだそうです
天然の米から作った純米酒は、その酸がたっぷりとあるわけで、したがってお燗をすると酸味が丸くなって、旨味を含んだいい味になるということに
夏でも冬でも…小林秀雄氏率いる鎌倉文士たちは、燗酒をこよなく愛したと書かれていました
頂いた「純米大吟醸・玉乃光」は、仕込みから6年の月日が経っている貴重なものであります
お燗の役目を、6年の月日が代わってくれたのでしょうか
「7℃~10℃に冷やしてお飲みください」と、書いてあります
口に含みますと…すぐに飲んじゃぁいけません!
福々・ふっくらと、舌に染みてきます
「福々と 舌に染み入る 珍酒かな」
どっかで聞いたことがあるような…ないような
もともと、家人は燗酒が好みなもんですから、この逸話には、我が意を得たりと大喜びでした
お心遣い、ありがとうございました
あと少し、燗酒が美味しい季節がやってきます