旅行に持って行く本となりますと、やはり重さを考えますから単行本よりは文庫本を選ぶことになります
今回、長野への旅は電車の乗車時間が長いと思い、ガイドブックの他に、もう1冊持って行くことにしました
鎌倉に着いたら、構内にあるブックポストに返却すれば、わざわざ図書館へ行かなくとも済みます
活字がないと、夜眠れない質なもので…内容は軽め、連作物の短編集にしました
堂場瞬一・著「七つの証言」…ふたつの人気シリーズである「刑事・鳴沢了」と「警視庁失踪課・高城健吾」の2人の刑事が登場する警察小説ですから、ファンにとっては堪えられない1冊だと思ったんですがぁ…
どちらも…どちらかの陰に入ってしまって、旅中で読んだとはいえ、物足りなさが残りました
懐かしき鎌倉に帰って来まして、さて…「ブックポストへ」といつもの場所へ行ったら
肝心のポストの影も形もありません
文庫本を胸にウロウロと探していますと、中年のおじさんが「改札口を出たところに場所が変わったんですよ」と指まで差して、教えて下さいました
なんでも図書館利用者たちから、改札口の外に設置して欲しいとの声が多く寄せられ、返却数がきちんと守られないことが悩みのタネだった市が、重い腰を上げたそうです
「それはそれは、大いに助かりますなぁ」と、おじさんと握手をしたい気分でした
鎌倉駅東口改札口に設置された返却用ポスト期日を守っての返却、よろしくお願い致します
本日お伝えするのは、この旅のクライマックスとも言える「善光寺さん・お戒壇巡り(おかいだんめぐり)」であります
ご本尊を安置する床下には、極楽へとつながっているという錠前があるそうです
それは「極楽への錠前」と呼ばれ、この錠前に触れるとご本尊との仏縁・結縁を果たし、極楽往生の際にはご本尊さま自らお迎えに来ていただける・とか
そんな夢のような縁が、仏様と出来るのならば、ひとり500円の内陣券は決して高くはないと思います
問題は…
このポッカリと空いた戒壇の中へ下りて行かなければならないことです
ちょっと覗いただけでも、じわっと足がすくんでくるのが分かります
暗がり…というより黒いっ真っ黒
あとからやって来た参拝者の人たちは、何んの躊躇もなくどんどん階段を下りて行きます
「もういい加減に覚悟を決めろよ置いて行くぞっいつまでも、こんなとこに突っ立ってたら、歳喰っちゃうよ」
「もう歳喰ってんだから、そんなに急かさないでくれる心の準備が大変なんだから」
「極楽とんぼみたい生活してんだから、何も改めて極楽なんざ、行かなくともいいんでないの出口で待ってろ」
「とんぼみたいなってのは何よっよしっ覚悟は出来た行くぞ」
お戒壇への階段を前にして指先がピリピリと痺れてきました
じんわりと汗が滲み出てきました
1歩踏み出した土踏まずが痙攣してきました
その痙攣がふくらはぎへ…太ももへ上がってきまして、チビりそう
あとから来て待っている人には、すぐ階段を譲る心遣いも怠らず「お先にどうぞ」
家人に声を掛け、もういち度最初からやり直しをしました
「突き落とすぞ」
これで決心がつきました
今度は趣向を変えて、階段の方に顔を向けて下りることに
呼吸困難のような酸欠状態で、いち段、またいち段と下りて行きました
ぼーっとしてきましたが、これは明かりが徐々に消えていくからでしょうか
「俺のあとにしっかりと付いて来い」
手さぐりで右側の壁に添って進み、腰の高さのあたりに、その極楽への錠前なるものがあるのだそうです
で・心配していたよりも、怖くないんです
鼻をつままれても分からないほどの真の暗闇なんですが、逆に狭さが分からなくなるんですね
「暗闇恐怖症」の方は絶叫しちゃうと思うんですが、我が家は裏山に面して建っていますから、トイレに行くにも手さぐり状態でして、闇には慣れているんです
家人の方が、「まだかな?まだかな?」とビビっている様子
体を右に寄せて…右へ右へ…追い越し車線で先に行っちゃおうかと思うほど、家人の背中にぶつかってしまいます。
「何すんだよ!びっくりしちゃうだろ」
「ガチャガチャッ」前の人が探り当てた錠前が鳴っています
目出度く、家人も私も錠前を掴むことができ、これで極楽浄土への約束が取れました
あとはルンルン
なぜか
私の方が早く、出口の階段に辿り着いていました
「さっき、踏み付けて行ったろ」
「あれがそうだったのか」
闇は死の疑似体験…
光は生きることの喜びを表しているのだそうで、出口の階段を上がって参りますと、目の前には産まれ変わった自分の姿を見られるよう、大きな鏡が取り付けられています
自分は閉所恐怖症ではあるけれど、ひとつ人生の難関を突破したような、清々しさを感じることができました
「それほど大げさなことかっ」
諸難除・火除・不浄除のお札が入った袋を見付けましたので、「その3点セット、ひとつ下さい」と頼んだところ…
「3点セットではありません3体ひと袋です」
「じゃ、それを」
いろいろなお守りが小さな仕切箱に納められています
なんと!ペット用のお守りを見付けました
しかも、犬と猫のお守りです
試しに聞いてみましたら、ワニとかブタとかはないんだそうです
「干支札はありますけど…」
骨の形をした可愛らしいお守りで「健脚健康・延命長寿・交通安全」の効き目があるとかで、娘が飼っている「柴犬うにトイプーハロ」にお土産に買い求めました
拝観券を付けてあげることにしましょう
あのお堂の地下へ入ったかと思うと、じわじわと満たされるものがあります
やはり…極楽浄土への道は、自身を制し、コツコツと徳を積まねば辿り付けぬような気がして参りました
善光寺さんを振り返って…そう思いました
参道には、信州蕎麦ののれんを揚げている店が多くありまして、はてどこが美味しいのか迷ってしまいます
ここは「どうも・どもトミさん」が教えてくれた山門脇に店を構えている「山城屋」さんへ
信州産のそば粉で打ち、九一蕎麦、二八蕎麦、つなぎなしの蕎麦と、手繰り寄せれば、辛口のつゆとの相性もよく本来の蕎麦の味がしま
家人はもりを、私は蕎麦つゆの他に、胡桃・とろろと三文蕎麦を頼んでみました
しっかりとお腹がいっぱいになりました
まだ陽が高いのですが、今夜の宿・湯田中の温泉へ向かうことに…
長野が始発・・・湯田中が終着駅の約1時間の旅になります
この短い路線には「小布施」というおばさんたちに絶大な人気を誇る観光地がありますので、さぞや儲かっておるのだろうと思いきや、車内は意外にもガラガラ
まぁ~これから訪ねるには、少し時間が遅いのかもしれませんが、停まった小布施の駅も静かなものでした
みなさん、日帰りのバスツァーで来られるそうです
駅からは迎えのバスで5分もかからないんですが、駅からずっと「ひなび過ぎた渋温泉街」です
今夜は、文化財の指定をうけている桃山風呂が名物の「老舗旅館・よろづや」さんへ、草鞋を脱ぎました
明日のお楽しみは、素晴らしい温泉をお伝えしたいと思います
温泉で引っ張るなんて思ってもおりませんでした