年末に向けて畳の張り替えを頼みました
まずは居間である八畳間を8時には運び出しが始まりました
畳を抱えて石段を下りるは、七十九歳のおやじさんです
ここ鎌倉・雪ノ下で、四代続いた永島畳店、八幡さまの大鳥居を左手に宝戒寺さんへ歩けば「畳」の看板が見える一等地に店を構えています
八畳と言うことは、畳が八枚あると言うことですから、石段を八回は上り下りをしなくてはなりません
畳一枚は、およそ三十キロあるそうで、坐骨神経痛がまた痛み出した私などは、軟弱な精神は軟弱な肉体に宿る見本のようなものですから、本当におやじさんには頭が下がります
「いやぁ、コツですよ、コツ。重いと思っちゃうと、重い軽いと思っちゃうとイヤになっちゃう。何んとも思わなきゃいいんです」
「ははぁ~実に重きお言葉を賜りました」
跡を継いだ四代目・息子さんも一緒に畳を外し、車へと運びます
この車は、八幡さまの例大祭のたびに、笛や太鼓のお囃子連を乗せ、町内を巡る大活躍している車なのです
おやじさんも、お囃子の太鼓を叩いていたそうで、そのご縁が今も続いているのでしょう
さて下に写っているゴザなんですが、これが畳屋さんの道具入れ・箱にあたるものです。
向かって左がおやじさんの道具で、緑の縁のゴザが息子さんのものです
鎌倉に住んでいますと、どこそこの息子と、娘と同級生だった、なんて話をよく聞きます
なんと
お隣「ちゃんとやれ・じぃちゃん」ちの息子さん・ヒデキさんと、永島畳店の息子さんが小学校の同級生だったということで、あらら・・・とびっくり
さらに、おやじさんまで「ちゃんとやれ・じぃちゃん」とは同級生だったとカミングアウト?
親子二代で同級生だったとは、お釈迦様でもご存じあるめぇ~ってなもんでして、びっくり仰天
畳は朝早くから張り替えを済まし、午後遅くても陽があるうちに仕上げなくては、寝るところもなっくなってしまいますから、手が遅い畳屋さんでは困ってしまいます
永島畳店では、畳を預かって店の土間で張り替えをしますので、庭や駐車場がなくても任せることができます
私が子供のころ、深川での畳の張り替えは、家と家の間をぬって行く露地でやっていました。
朝7時8時には、すでに畳を外に運び出していましたから、昔から職人さんは早起きのようです。
台の上に畳を張り、黙々と針を畳の縁に通していました
私は横目で睨むえいこちゃんが怖くて、なかなか幼稚園に馴染めず、それこそ露地裏をうろうろしている毎日でした
家で張り替えを頼んだ畳屋さんの真向いに陣取り、じっと手元を見ているのが好きでした。
「見ていてもいいから、急に動くんじゃないよ。道具には絶対、さわるな。いいな?」と針ならぬ、釘をおじさんに刺されました
家からは、おっかさんの呼ぶ声がします
「ちょいとぉ~何やってんだよ畳上げたあとの掃除が残ってるだろ女はね、手を休めちゃいけないよ早くおしっ」
「ほら、おっかさんが呼んでるぞ。まずは返事をするんだよ。さぁ行った行った」
割烹着に姉さん被りの母親は、ハタキやらほうきやらバケツやらを並べ立ててはいても、畳の下に敷いてあった新聞を熱心に読んでいます
私はほうきを持って、おっかさんの足元をわざとらしく掃いたものですが、頭をはたかれなかったので、よほど面白いことが書いてあったのでしょう
うちの母親は、何んであれ職人さんを大事にしていました。
「何年も掛かって仕込まれた人間は、辛抱が出来るからね。辛抱が世の中の真ん中になきゃダメなんだよ。自分の両の手で稼ぐのを忘れちゃいけない。お前に足りないもんは、おつむと辛抱だからね。あー自分に足りないもんは、おつむと辛抱なんだってのを、よく噛み締めて生きて行かなきゃいけないよっ分かったかい?」
分かって生きてきたつもりなんですけどね
深川の職人さんや鳶の人には髪の毛がない、いわゆるハゲ…スキンヘッドの職人さんが多くいました
「ハゲなんじゃないよ!剃ってんだ。怪我したら、その日からおまんまの食い上げだぁな。怪我がないってんでな、毛があっちゃぁ困るのよ」
どう見たってハゲ頭の植木屋さんのおじちゃんが、その頭を撫でながら言っていました
3時には仕上がってきた畳八枚です。
東京近郊は、畳の寸法が「関東間」と言って、京都の「京間」より二寸ほど小さいそうです。
自ずと部屋の襖や障子の大きさも変わってきますから、お寺さんや町屋でもゆったりとした空間になるようです。
今回も畳の縁(へり)は赤茶にしました。
鎌倉では、柄物よりもこの赤茶の縁が多いと聞きましたが、縁を踏まないようにするのには、目立つし飽きがこないし、何よりお安いのがいち番かと思います
ところで、畳の下に新聞を敷かない方がいいんだそうで、特に鎌倉のように湿度が高い所では、新聞が余計な水分を溜めてしまい、カビの原因にもなるとのことでした。
部屋には、新しい井草の香りがします。
「畳と亭主は新しい方がいいね」
「それは、俺のセリフだろ」
「あら!言えるものなら、言ってごらんなさいな」
気が付いた時には、もう産卵はクライマックスを迎えておりまして、止めることが出来ませなんだ
取ってしまうのは簡単なこと…
でも、この中に何百という命が詰まっていると思えば、人間の勝手にするわけにもいきません
「引き受けたからには、気を付けましょう無精卵ってことはないでしょうねっ」