髪を梳こうと手に取ったブラシをふと見たら、白髪が1本まとわり付いていましたくし

指で摘まんで引き抜いた途端…姑・すゑさんの白髪を思い出しましたおばあさん

ちょっとほろ苦い思いが残る【すゑさん物語・ツゲの櫛】ですくし

写真に写っている「櫛」は、すゑさんが使っていたものですお花

すゑさんがまだひとり暮らしをしていて、時折り我が家に泊まりにやって来た頃、もう15年も前の話になります。

聞いて下されば、すゑさんのいい供養になりますすずらん

5月の連休を入れての1週間ほど、すゑさんを鎌倉の家に滞在させ、帰す時のことでした。

少し早めのお昼を済ませ、持ってきた荷物の何倍もの量になった荷物をバッグに詰め、身支度をさせ、すゑさんの白髪頭のおかっぱをざっと梳いてやって、バッグより小さいすゑさんを車に押し込み「バイバイ」と手を振って帰しました。

「やれやれ」と、腰を落ち着かせる前に、とにかくすゑさんが使っていたタオルケットやシーツなどの洗濯も済ませてしまおう…布団と枕も陽に当てよう…掃除機も掛けてさっぱりしようと腕まくりをして掃除を始めたのです。

干し終わったタオルケットの繊維の中に、白髪が半分埋まっていて、振った勢いにも落ちずに刺さっておりました。

とっさに気持ち悪いが先にたって、すぐには指で摘まむことが出来ませんでした。

それでも、そーっと摘まんで抜きました。猫の毛のように細く、白というよりも銀色でした。

その1本を見つけたために、それまで目に付かなかったところの白髪まで、探るような目付きで追っています。

洗面台に置いたすゑさん専用の櫛にも、何本かの白髪が絡み付いていました。

ちょうど、おかっぱぐらいの毛の長さで、すゑさんに置いていかれた髪の毛です。

横に置いてある私のブラシにも、1本白い毛が掛かっているように見えました。

「あれ?」

ブラシに付いたままの白髪とは長さが違う、端を引っ張った白髪は素直にブラシの木立を抜けてきました。

30センチはあります。

「私・の?」

自分の白髪を気持ちが悪いと、一瞬ひるんでいたのです。

どこだ?どこにある?と耳の後ろに、素麺の束のように密生している白髪を見つけたときは…正直ガーンときました。当時はジャスト40でしたから…ガクリ

これでは、せっかく肩まで伸ばした髪の毛を掻き揚げる仕種ができないではないか涙!

「そうか、自分も白髪が生えて当たり前の年になったんだ」

しみじみと、黄昏を感じてしまいました黄昏

すゑさんの白髪だと迷いもなく決め付け、気持ち悪いなどと勝手なことを思ってしまったのです。

残されたすゑさんの白髪を眺めつつ、もう少し優しい言葉を掛けてあげれば良かったと、温かい気持ちが溢れてきましたが、自分にはそんな余裕もなく、年老いていく歩幅が思いのほか早いことに、たじろいていたのです。

すゑさんの姿が自分に重なって、年をとっていくことが怖いのか、死んでいくのが怖いのか、ひとり残されるのを恐れているのか…臆病に考えていることに気が付いて、陽が暮れるまでのほんのチョッピリの間、落ち込んでしまいました。

「もう、すゑさん着いたかな?」

時計を見上げ、すゑさんはひとりの生活にまた戻るのかと思いました。

すゑさんに訊ねたことがあります。

「ひとりで淋しくない?」

「もう慣れたね。なんでも永いことやってると慣れてくるから大丈夫だよ」

カラッと言われてしまったのです。

明日、髪の毛を染めに行こうかなぁカット

いつか、すゑさんの髪の毛を、紫色に染めて遊んでやろうと企んでいたのに、その思いは叶いませんでしたリボン

今思えば、それは慎ましくも、見事に人生を生きてきた、素晴らしい銀髪だったのです。

もう少し、もう少し早く、そのことに気が付くことができたなら…

ツゲの櫛の重みがずっしりと、この手に感じます。

きっと、今日のこの日を待っていたのかもしれません。