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9/2日と3日に、家宅捜索が入った長野県松本市で起きた犬の繁殖販売業者による動物虐待事件、その全貌についてコラム公開しました。ペット業者の悪魔の所業、そして行政の在り方、ペット問題についてぜひ最後までお読みください。





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9月頭、災害レベルの動物虐待事件が社会を震撼させた。人間はどこまで残酷になれるのだろうか。その答えは、この事件の詳細を知れば明確だ。

自らの利益と欲望のために、平気で人や社会を騙し、どこまでも残酷で、冷酷非道になれる良心をもたない者がいる。どんなに欲深く悪いことをする人間でも、心の奥底に少しは良心の欠片が残っていると信じたいが、このおぞましい虐待を知り、その希望は打ち砕かれた。

近年の一般飼い主やペットの事業者による動物虐待事件から、良心をもたない人間が確実に存在している事実と、残虐な行為を好む性質の人間がいることを教えられる。

今回寄せられた証言を基にお伝えする動物虐待事件は、その光景を想像すると、怒りと悲しみと、とてつもない嫌悪感に襲われる。けれど、最後までどうか目を背けず読んでほしい。なぜなら、街に並ぶペットショップの裏側で、何が起こっているのか、消費者は知るべきだと思うからだ。

当協会Evaは、ある獣医師からの通報でこの虐待の事案を知った。長野県松本市で、犬の繁殖と販売をしている事業者が、劣悪な環境で約1,000匹を飼育し、およそ30年もの間営業していた。当協会に通報した獣医師は、元従業員から告発を受け、管轄の行政機関や警察、地元の獣医師会や愛護団体に情報提供を行っていたが、いずれも反応は薄く、まったく事が動かなかったため当協会への通報に至った。
そのあまりにショッキングな内容を聞いて、私たちは徹底的に追及することを決意し、詳しい内容を聞き厳正な処分を求め刑事告発した。
 
その事業者の非道ぶりを、元従業員、近隣の住民や知人、同業者が証言している。証言によると、山林にある施設と繁殖場兼販売店舗に約1,000匹を保有し、狭いケージに入れ、劣悪な環境下で動物を飼育していた。作成と保存義務のある個体管理をするための帳簿はつけておらず、犬の個体識別は、年齢も不明なほどずさんだったという。以前は2,000匹程いたようだが、次々に死んで1,000匹になったと思われる。それだけの数を、直近ではオーナーと社員1人、数名のアルバイトで世話をしていた。当然ながら世話は行き届かず、酷いネグレクト下に置かれた犬の状態は悪く、頻繁に死骸が出る有様だったという。死骸は産業廃棄物として、糞尿や生ゴミと一緒にフード袋などに入れ、他のゴミと一緒に廃棄していた。
ケージは4段から6段程積み上げられた状態で、上段には手も届かない。世話が行き届かないため糞尿がケージの受け皿から溢れ、上段から下にいる犬のケージに垂れ流れているほど酷かったそうだ。床面は錆びた鉄製の網すのこであったため、犬の足裏はカエルの足のように開き腫れあがっていたそう。成犬はUターンすらできないほど狭いケージに収容されていることも多く、1つのケージに1~3匹を飼育し、犬は交配と出産時以外、ケージから出してもらうことはなかったという。

そして、犬の出産が近づくと、獣医師免許を持たないオーナーは、自ら犬の四肢を荷造用の紐で目一杯伸ばし、縛り付けて不動化し、無麻酔で帝王切開を行っていた。手術器具は滅菌処理をしておらず、血液を拭う布切れも洗濯しただけのものだった。傷口が化膿し治癒しないケースや、縫合した傷口が開き、内臓が出て死亡した犬もいたという。腹腔内で出血して死亡したケースもあったそうだ。くっつかなくて縫い直すこともあり、出産時、前回の傷が治っていないこともしばしばあったと証言している。
オーナーは、「犬は痛みに強いから大丈夫」だと言っていたそうだ。当然だが、犬は鳴き叫んで痛がり、中には痛みに耐えきれず、「ヒィッ」と声を上げて失神する犬もいたという。「獣医師より俺のほうが上手い」と、愚かな自慢をしていた悪魔のようなオーナーだ。出産のほとんどが、このおぞましい帝王切開によるもので、ほぼ毎日、1回から4回は手術していたそうだ。
また、帝王切開時、乳腺等の腫瘤を一緒に切除することもあり、「俺が病気を治してやってるんだ」と、正気と思えない発言をしている。

取扱い犬種は、トイプードル、マルチーズ、ポメラニアン、パピヨン、パグ、柴犬等で、フレンチブルドッグが人気のため、約200匹を保有。フレンチブルドックは帝王切開でしか出産できない。利益のために医療費をかけず、多くの手術を自ら行っていたと思われる。

犬の飼育状態についてさらに詳細な証言もある。給水ボトルの飲み口は、なめる部分が錆びていることから水が出てこず中の水が減っていないことも。またペットボトルの内側には緑の苔が生えていた。山林にある施設の世話は数日おきで、飲み水を切らすことも多く脱水で死亡する事も。犬同士が激しくケンカすることもある。負傷しても治療を受けさせることはなく、毎日のように死んでいたという。そのため、高齢まで生きていることが少なく異常に短命だったそうだ。

犬舎には大型扇風機のみで、熱中症で死亡する犬も多く、ウジやハエは日常的に湧いていた。鼻が曲がるようなアンモニア臭、吠え声による騒音は酷く、通報者が撮影した施設の外側の動画を私も確認したが、今まで聞いたことのないレベルの騒音。犬は全体的にやせ細っていて栄養状態が悪く、爪は異常にのび、長毛種の犬の被毛は毛玉に覆われ、足裏には糞尿が固着。シャンプー、毛刈り、爪切り等の手入れは、出荷前の仔犬と出産時の母犬のみで、その他は一切手入れされることはなかったという。

近親交配のせいで、奇形や、生まれつき関節の悪い犬、先天性疾患の犬が多く、それでも平気で繁殖に使っていた。ずさんな繁殖のせいだろうか、仔犬は市場に出すが2割ほどしか売れず、売れ残るので頭数が増えていったという。繁殖引退犬や、繁殖に適さない犬も保有していたが、不妊手術はしていなかった。繁殖は引退年齢に関係なく、産めなくなるまで産ませる。

また、無麻酔帝王切開だけでなく、マイクロチップの埋め込みや、ワクチンもオーナー自ら接種し、おかしなことに証明書も発行していたという。傷病の犬に、オーナー自ら注射等の処置をしていたが、回復することは少なく、死亡してしまうことが多かったそうだ。狂犬病予防接種は、実際には接種していないが、接種済みで書類を処理し接種済み証明書には獣医師の印があったそうだ。だが治療や健診、予防接種等で動物病院を訪れることは一切なかったそう。この悪行への協力獣医師がいて、医薬品、医療機材の提供も受けていたようだ。だとしたらこの獣医師は、虐待の幇助をしていたことになる。これも許されない追及すべき犯罪だ。

また山林の施設には上水道はなく、飲用水や掃除水は雨水や沢の水で、清潔な給水は常時確保されていなかった。下水処理の設備はなく、糞尿をホースで流した汚水はそのまま周囲の山林に流れていたようだ。犬舎周辺にはハエが集り不衛生な状態だった。ネズミ対策と称し、猫を50匹程入手し、周辺に野放しにしていたので猫は野良化した。猫への給餌はなく、犬の残飯を食べているのみで、そのうち自然死し、現在は2匹ほどだという。

他にも、鳥が約2,000羽、カメレオンやハムスターなども100匹単位で保有していたこともあったが、いずれも飼育管理が悪く、共食いなどで死んだという。鳥の行方はわからない。
元従業員は、たくさんの犬が無惨に死んでいくのを見て、心を痛めてはいたが、世話をしてあげなければ動物がかわいそうという思いから、この仕事を続けていたそうだ。このような悪魔の所業をやってのけるオーナーだから、社員に対しても日常的に暴力や暴言があり、社員は24時間365日休みなしで事務所に寝泊まりし、住み込み状態だったという。

それにしても、このような史上最大最悪の虐待をしている悪質事業者が、なぜ30年間も営業を続けてこられたのか。動物取扱業の監督官庁である保健所は、年に2回立ち入り検査に来ていたが、予め検査の日を事業者に知らせている。保健所が来る時は一応掃除をするが、それでも劣悪な環境であることに変わりはなかったそうだ。保健所は、設備、管理方法に不備があることを長年認識しながら、オーナーの言い訳に簡単にごまかされ動物取扱業の登録を更新の度に受理し、営業を続けさせていた。従業員は、保健所はなぜ改善させないのだろうと疑問に思っていたそうだ。そして、今度こそ改善させてくれるだろうと期待したが、毎回期待を裏切られた思いだったという。
オーナーは、「保健所なんて異動も多いしチョロいもんだ」と、高を括っていたそうだ。従業員は、辞職してからも保健所に何度も訴えていた。昨年も2回、県松本保健所に訴えたが、動いてはくれず、報告もなかったという。どこに相談すればよいか悩み続け、とても苦しかったと涙ながらに証言した。

今回、当協会に通報した獣医師は、元従業員からの告発を受け、再度、各所に通報するも、保健所がその責務を果たすことはなかった。この件は、松本市長にも伝わっている。本来なら、松本市は劣悪事業者に対して、指導・勧告・命令をして改善させなければならない。それでも改善しなければ、業務の全部もしくは一部の停止や登録取り消しができるが、その権限を行使しなかった。これについては、この事案だけでなく、多くの自治体で同じ問題がある。今回、そのせいで犬の数は災害級と言われるほど膨大となり、犬たちは地獄のような環境下で、もがき苦しみながら死んでいったのだ。行政が管理監督という責務を果たしていれば、これほど多くの犬が犠牲になることはなかったはず。問題を認識しながら見過ごしてきた長野県と松本市の責任は重大だ。今回、当協会が刑事告発したことで、ようやく警察の捜査が入った。事業者は廃業するということだが、今後一切動物取扱業に関わらないとは言い切れないし信用できない。

そして、大きな課題だった犬の処遇については、膨大な数の犬をすべて行政の収容施設で保護することはそもそも無理なことであったため、まず一度行政施設に入れ犬の記録を取り、県外から信頼できる動物保護団体の協力を得て、順次施設から譲渡していく計画を警察とも共有していたし、動物愛護団体にも声掛けをしていた。
しかし、警察の家宅捜索後間もなく、21匹のみ松本市保健所に移動した以外、多くの犬たちが姿を消したのだ。夜逃げのごとく、犬たちを運び出し、行方のわからない犬がたくさんいる。いち事業者が単独で行うにはあまりにも膨大な頭数だ。しかし、その疑問が解消される情報を得ることができた。

この事業者が、かつてまるで子犬生産工場のように次から次へと産ませていた子犬は、ペットオークション(競り市)を経由して、毎週のように出品されていた。そのオークション事業者が、どうやら犬たちを運び出す手配をして手助けしたようだ。以前から、繁殖に使えなくなった犬を、オークションに一緒に連れて行くと引き取ってくれたという。犬がどこへ行くのかはわからないが、オークション事業者が運営する収容施設や、繋がりのある動物保護団体で「保護犬」という名目で一般市民に譲渡していたのではないだろうか。
状態の悪い犬たちの姿が表に出れば、健全を訴える業界のイメージがさらに悪くなり、今後も規制が強化されていくことを危惧したのではないだろうか。本当に廃業するなら、最終的に所有権は放棄するはずだし、別の事業者に販売するにしても、家宅捜索の3日後に何十匹単位で次から次へと運び出す必要はないと思うのだが、、、。
本来なら、すべての犬たちの状態を行政が把握し、そこから各協力機関や動物保護団体、ボランティアが手分けして引き受け、里親に譲渡されるべきなのだ。もちろん、事業者には所有権を放棄してもらうことが前提であるが。

しかし、ペットオークションを含む流通形態は、悪質な繁殖屋の温床となっているため、世間に対して、業界の悪印象となる犬の姿を見せたくなかったのだろう。大規模虐待が発覚し、犬たちの痛ましい姿が世間に公開されると不都合なのだ。なぜなら、近年の動物愛護の機運の高まりで、社会の目は業界に対して確実に厳しくなっているし、それを受けて法的にも規制が強化されつつある。それに抵抗してきた業界は、規制緩和を望んでいるからだ。

このペットオークション事業者の代表は、頻繁にメディアにも露出し、ペット業界の健全化に努めているとうそぶいている。「殺処分ゼロ」のムーブメントに便乗し、収容施設を設けたりしているそうだが、行政で殺処分されていないだけで、「生体展示販売」という事業形態そのものが、多くの犬猫を死なせてきたことに変わりはない。そして、殺処分に繋がる、飼い主の無責任な飼育放棄の元凶を作ってきた。どれだけ体裁良くしようが、ペット流通の本質は何も変わっていない。命の大量生産・大量流通が、ペット問題の諸悪の根源なのだ。現に今回家宅捜索の入った長野県の事業者の子犬も、有名大手ペットショップのホームページに、オーナーの名前と共に掲載されていた。おそらくオークションで競り落とし入荷したのだろう。このペットショップに並ぶ子犬の中には、無麻酔帝王切開による、母犬の地獄の苦しみから取り上げられた子犬がいたことになる。ペットショップは、トレーサビリティを意識して、優良なブリーダーから仕入れをしているように見せかけているが、仕入れ先のオークションが悪質繁殖屋と取り引きしているのだから、所詮、パフォーマンスに過ぎない。

皆さんに知ってほしい。ペットショップのショーケースに、子犬・子猫が並ぶ「展示販売」の裏側で、何が起こっているのか。健全な商売であるかのように、ますます巧みにコマーシャルしているためか、ペット事業者のさまざまな問題がニュースに取り上げられても、街のペットショップとそれらの問題が、消費者の中で結びついていないようだ。その結果、残念なことに、街には未だにペットショップの新店舗が開店している。
コロナ自粛で家に居ることが増えたせいで、ペットの売れ行きが伸びて大きな利益を生んでいるのだ。ペットショップがテレビコマーシャルまでするようになってしまった。事業者は、お金さえあれば広告代理店やコンサルタントを使い、巧みにイメージを操ることができる。

皆さんには、ペットビジネスの闇に目を向けてもらいたい。動物たちの苦しみと悲劇を終わらせるため、ペットショップの「生体展示販売」から、「動物を買わない」という選択をしてほしい。「営業の自由」の下に、事業者の権利が守られている以上、「生体展示販売をやめろ」とは言えない。法改正や規制強化には、とても時間がかかる。そして、多くの抵抗がそれを阻む。この非道なビジネスを、一刻も早く終わらせるには、消費者が、ペットショップの子犬や子猫を求めないこと。「買わない」という選択をすることなのだ。(杉本彩)

※Eva公式ホームページやYoutubeのEvaチャンネルでも、さまざまな動物の話題を紹介しています。

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。

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