学生時代にワタシは松江や宇都宮、千葉、仙台などどこかの担任教師みたいに仲間の「家庭訪問」をよく行いました。これは決して求められてやったものではなく単に厚かましいだけだったことは自他共に認めるところであります。それでも結構どこに出向いても歓迎されるので多分いい気になっていたのだと思います。しかも車で出掛けるものだから手土産はいただき放題で、車のトランクに宮城産コシヒカリを1俵積んで帰って来たこともありました。当時はあまり現地情報に通じておりませんでしたからその土地の名物が何かということも知らず、何で米?何で餃子?とワケの分からないまま取りあえず頂戴して、後から「この米、旨いなあ...」とたらふく食べて、気が付けば1ヶ月足らずの間に体重が10kg近く増えてしまったこともありました。事ほどさようにその地の名物と言いますのはやはり他より優れているからこそ名物なのであって、他の地域で真似をしようとしても同等レベルのものにはならないのであります。このことは実はコーヒーにも通じるところがありまして、パナマのゲイシャから始まってケニアのSL28やホンジュラスのパライネマ、エルサルバドルとグアテマラのパカマラ、ニカラグアのマラカトゥラなど「あれ?これイケてるじゃん!」と思ってしまうその国の代表品種みたいなものが実はございます。今度購入予定のエクアドル豆がティピカ・メホラーダという品種なのですが、先日いらした某商社担当が「エクアドルのティピカ・メホラードって面白いですよ、ちょっとパカマラのような風味があって、これは人気が出る気がします。1つどうですか?」とご推奨になりました。ただ、既に別商社から売り込みがあってもう予約してしまっておりましたので言葉を濁してそれとなくご辞退申し上げましたが、こういうその土地限定みたいな豆って個人的に惹かれるのですよねえ。コーヒーの品種はあまりにも種類が多くて、しかもそれが気にされるようになったのはごく最近のお話なので次から次へと新顔が顔を出します。おまけにそれを栽培しているご当人が「昔からここにコーヒーの木があって爺ちゃん婆ちゃんの時代からず~っと作っているけど品種なんて聞かれてもそんなもの知らんよ」というケースが殆どです。エチオピアのアビシニアみたいに道路整備が為されて初めてそれまで存在を知られていなかった新種のモカが世に出されたというようなこともありましたし、これからもこれまで飲んだことのないような「新種」が世に出て来ることは十二分にあり得ます。同じ柳の下にドジョウがいたとしてもそれが以前と同じドジョウとは限らないのです。良い悪いは別にして確かに若い頃親しんだコーヒーと今のコーヒーはまるで別物であります。「コーヒーなら若い頃からずっと人一倍嗜んで来たから、オレ詳しいんだよ」...そう信じてみえるベテラン・コーヒー・マニア様、それ違いますから!