さて、これからアイスランドの具体的な歴史について述べていきますが、実はアイスランドという国は非常に珍しい歴史を有する国であります。何故なら、一番最初にアイスランドに居住した人物が、ハッキリと文献に記載されているからです。例えば、日本に一番最初に居住した人は誰か?って聞かれても、まずわかりません。アメリカでも、コロンブスの新大陸到達という事実が判明しているにしても、既に当時はインディアン(ネイティブアメリカン)が居住していたため、上記の命題では該当されません。それを考えると、アイスランドの特異性は際立っています。
古代ギリシャの船乗りのあいだで、遥か北方にある謎めいた島の話題が飛び交っていました。彼らは、その島を「チューレ」と呼び、一日中太陽の沈まない場所にあることを認識していました。このチューレが、現在のアイスランドを指していたのかどうかは不明ですが(フェロー諸島やスバーバル諸島の可能性もある)、少なくとも北ヨーロッパが如何に未開の土地であるかが、この例より導きだせます。事実、アイスランド史では9世紀以前に人が住んだ形跡が全くなく、考古学の見地からも、これを裏付ける研究成果が出されています。
アイスランドの具体的な発見は、おおよそ9世紀後半になります。それも、別の目的地を目指し航海していたノルウェーヴァイキングが、たまたま航路に迷い流れ着いた場所がアイスランドだったという、まさに偶然の産物でした。ノルウェーに帰国した彼らの手により、その島の存在が広く知られることになります。そして、ノルウェーヴァイキングのひとりである、インゴルフ=アルトナルソンが、一族を引き連れ本格的に移住を開始します(西暦874年頃)。この時、あらかじめ居住する場所を決めるため、北欧神話の神を型どった柱を海に投げ入れ、それが到達した地点に上陸しました。この場所こそが、現在のアイスランドの首都レイキャビークであります(ちなみに、レイキャビークとは古代ノルド語で、煙たなびく入江という意味です)。また、インゴルフ居住の少し前、フローキというノルウェーヴァイキングがアイスランドに上陸していましたが、あまりの暮らしにくさに嫌気がさして、本国に帰ってしまいました。その際、この島をアイスランドと呼んだことが、その名のはじまりとされています。
従って、アイスランド史上最初のアイスランド島民となったのはインゴルフ=アルトナルソンということになります。このインゴルフの入植以降、次々とノルウェーから移住者が入り込み、西暦930年頃には、一通りの土地が入植者で埋まっていきました。それには、当時ノルウェー本国を初統一したハーラル美髪王の圧政を嫌ってやって来たものも多く、またアイルランド系の奴隷も混じっていました。捕捉しておくと、サガの中に、インゴルフ入植以前に、既にアイルランドのキリスト教修道士たちが暮らしていたという記述があります。しかし、前述したように、考古学上の見地からその存在が疑問視されているため、現在の所は、修道士らは存在していない可能性が高いとみられています。