なんとか仕事は休まなくてすみそうだ。
1週間くらい前から腕にしびれがあった。
予約のお客様が急にキャンセルになったので、朝イチで整形外科を受診することができた。
ただの疲れということだ。それとストレス。
疲れとストレスは母親にはつきものだ。
仕事をしていれば、それはなおさら。
「いつか2人のサロンを持ちたいね。」
そう言うと、カズはいつも決まって笑った。
「カズが髪を切ったり、カラーをしたり。
そのすみっこのほうで私がネイルやアロマができたらいいなあ。」
和「んふふ。そうだね。」
いつもそれだけ言うと、ニコニコしながら私の髪をなでてくれた。
和「キレイな髪だね。」
カズがいなくなってから、私は無理をして都内に店舗を借りてサロンをオープンさせた。
両親は帰ってこいと言ってくれたが、カズの家族も住む田舎には戻りたくなかった。
お葬式のとき、お義母さんはごめんねと私に謝り、若いんだから籍はぬいていいのよ、とだけ言って静かに泣いていた。
そんなお義母さんに私はなにも言うことができないまま、ただうつむいていたように思う。
カズとのお店だから。
お店の名前をkazにした。
ありがたいことにkazは土日お休みさせてもらっているにもかかわらず、そこそこ親子2人食べていけるだけのお店になっていた。
会計に向かう廊下の途中にガラス張りのリハビリルームがあった。
なにげなく中を見ていると、遠目に誰かと目があったような気がした。
無意識にもう一度見ると、また目があう。
ピョコっと彼が頭を下げたので、私も軽く会釈した。
立ち止まっては、いけない。
私は足早にリハビリルームを通り過ぎた。
