ガラスの向こう側の水色のキラキラした人に。
目があっちゃったから、なんか反射的に頭を下げた。
少し困った顔をしてその人は行っちゃった。
彼女だ、って気づいたら、俺の足が自分勝手に彼女を追った。
雅「あの。」
薄い水色のコートを着た彼女は待合室の一番端に少しうつむいて座っていた。
雅「こんにちは。」
彼女は聞こえなかったのか、しばらくしてから顔をあげた。
「あ、先生。」
たぶんそれがはじめて彼女が俺に話した言葉だ。
雅「どーも。」
彼女はまたうつむいて、サラサラの髪を少し揺らしただけでそれに応えた。
もしかしてこの前、優和ちゃんに言ったことで変なヤツだと思われてる?
雅「俺普段はここで働いてるんです。
リハビリとか、スポーツトレーナーとかやってて。」
あわてて自分を説明した。
雅「今日はどうしたんですか?」
医者か、というような事も聞いていた。
「…ちょっと。」
うつむいたまま、彼女の左腕が右腕を軽くおさえた。
雅「リハビリとかやっていきますか?」
口が勝手な事を聞いている。
「大丈夫です。」
雅「よくここ来るんですか。」
「いえ。」
髪が横にフルフルと揺れる。
雅「そうですよね。
なに言ってんだ、俺。」
ヤバい。このままじゃもっと変なヤツだと思われる。
じゃあ、ってとりあえず立ち去ろうとした時、彼女はうつむいていた顔をあげて、ゆっくりと俺の顔を見上げた。
「親切なんですね。」
雅「だ、誰にでもってわけじゃないですよ。」
「ふふふ。
こうゆうとこで働いてるんだから、誰にでもじゃなきゃ、ダメじゃないですか。」
そう言って、彼女は俺の目の前で笑顔を見せた。
『相田茉沙希さーん。相田さーん。』
その笑顔に見とれていると、自分の名前が呼ばれたのかと我にかえった。
雅「あ、会計。呼ばれてますよ。」
「あ、…じゃあ。」
彼女は立ち上がって、また小さく髪を揺らした。
雅「俺も。
俺も雅紀ってゆうんです。相葉雅紀。
に、似てますね。名前。」
彼女は少しだけ目を大きく開いたあと、今度は細めて、ふふふと笑った。
「そうですね。」
彼女の後ろ姿を見つめながら、俺の頭は自分の言ったことに変なとこがなかったか確認していた。
変なとこだらけだった。
帰り際、彼女はちょっと振り向いて、俺を見つけて、会釈した。
大丈夫。
変なとこはなかったらしい。
俺は浮かれて、つい振りそうになった右手をあわててひっこめた。
