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 土曜日に、デニムにTシャツというラフな格好で来た彼は、スーツ姿とはまた一味違い、さらにイケメン度が増した気がした。私もラフな私服で来たが、もうちょっとおしゃれしてくれば良かったかも、などと後悔してしまう。それぐらい周りから見られるのだ。ううん、デートじゃないし、これで十分だよね?と自分に言い聞かせていたら

 

「橋本さん、そういった服もにあいますね」などと、言ってくる。お世辞だとしても、そんな笑顔付きで言われたら、誰でも勘違いしてしまうに違いない。

 

「グンソクさん、むやみにそんなこと言わない方がいいですよ」

 

「何でですか? 思ったことを言っただけだけど」

 

 そう返され、私は言葉が出なくなってしまう。
 ほんと、「人たらし」!!

 

 

 午後いっぱいをかけて、彼の買い物に付き合った。お財布に余裕があるようではないけど、欲しいと思うものには妥協しない。そこに彼のセンスの良さが感じられて、楽しい買い物だった。気づけば、お互い冗談を言い合うような感じになっていた。

 

 そして今日のお礼にと、グンソクさんが夕食をおごってくれるというので、私の行きつけのお店に案内した。そこは会社からちょっと離れた場所にあり、こじんまりとしたお店で、昼はランチ、夜は飲みながら美味しい料理が楽しめ、女子ひとりでも入ることができた。退社後、密かに私が通うお店だ。

今まで社内の人を連れてきたことはなかった。なのに、なぜかグンソクさんは連れてきてしまった。自分でも不思議だ。

 

思った通り彼も気に入ってくれたらしい。二人でお酒を飲みながら、それぞれの国に旅行した時などの話で盛り上がっていた。すると意を決したように突然、

「女の人にとしをきくのは、日本ではしつれいなのかな? 韓国ではふつうなんだけど」

「あ、それ知ってますよ。日本では失礼になるかな……。でも、私は大丈夫ですよ。」

「僕は1987年生まれなんだけど、橋本さんは?」

「あ、同じ年!私は7月26日だけど、グンソクさんは?」

「8月4日。少しだけ、美月がヌナだね」

 (え? 年齢がわかったら、呼び捨て? しかもヌナって? 韓国語で親しい年上の女性上に呼びかける言い方だよね?)
 
「近いから、よびすてでいいよね。美月もグンソクでいいから。あ、それともヌナがいい?」

 

私が戸惑っていると、畳みかけるようにそんなことを言ってくる。しかも、極上の笑顔付き。でも、いつもの爽やかなイケメン君の笑顔とはちょっと違う。なんだろう、私、からかわれている? 私はお酒のせいもあって強気に出た。

 

「呼び捨てで許してあげる。あ、でも会社ではだめだからね。」

 

「もちろん、ふたりのときにね、美月」

 

 韓国人の彼には発音が難しいのだろう、少しだけ舌足らずに私の名前が発音され、なんだかむずかゆくなってしまう。私は照れ隠しに、今日買ったシーツに話題を変えた。

 

「結構いいシーツ買っていたよね。ちょっとびっくりしちゃった」

 
 すると突然耳元に顔を寄せ

 

「俺、ねるとき裸でねるから、気持ちいいシーツがいいんだ」とささやかれる。

 

「こんど美月もねてみる?」

 

私は、その低音の声と言葉に、ドキドキしてしまう。自分でも顔が赤くなっているのがわかった。すると、隣から小さな笑い声が聞こえて、グンソクを見ると

 

「美月ってかわいいね」

 

 また意地悪な笑みを浮かべている。お酒のせいか、いつもの爽やかなイケメン君とは別人のようだ。私は思いっきり、彼の腕を叩いていた。