こんばんは、みどりむし書房の蛇の方です。
先週金曜日(七月五日)に、金曜ロードショーの『耳をすませば』を観ました。
進路に悩む雫ちゃんが物語を書くことに全力を注いだり、聖司君の中学生らしからぬ外堀の埋め方がとても面白い青春の一幕でした。
聖司君は雫ちゃんを先回りして、彼女が読みそうな本をひたすら借りて読むのですが、そのわりにいざ雫ちゃんと向き合うと照れ照れなんですよね。
雫ちゃんとの距離感が可愛くてニヤニヤしながら観ちゃいました。
聖司君のおじいさんがやっている地球屋というアンティークショップがとても素敵で、猫のムーンといい、聖司君といい、こんな素敵な出会いがあった雫はいいなぁと羨ましいです。
『耳をすませば』は近藤善文監督の映画ですが、スタジオジブリの作品・宮崎駿作品は、繰り返し観ても、また新たな発見のある映画だといわれています。
私も小さな頃からジブリ映画に親しんでいますが、何度観ても面白いし、子供の時には分からなかったことが大人になって理解できたり、逆に子供の頃は分かったのに大人になったら不思議に思うようになったりと、新たな発見を楽しんでいます。小さな頃から素晴らしい映画に触れることができてよかったです。
『耳をすませば』も、雫ちゃんと聖司君が〝おねえちゃん・おにいちゃん〟だった頃は二人のモジモジ感がよく分からなかったのですが、今観るとニヤニヤです。私も年輪を重ねました。
今回『耳をすませば』観ていて、他のジブリの作品にも共通するシーンがあるな、と感じました。
よく言われることですが、ジブリ映画には、高いところ(空中、高台など)、老人がよく登場します。
それについてどんな意味があるのかな?と考えるところがあったので、記事にしてみたいと思います。
なお、ネタバレを含むことになるので、これから各作品を観ようと思っている方はご注意ください。
個人的な感想に近いものですし、気楽にみていただけると幸いです。
検討してみる作品は以下の通りです。特別に選んだわけではなく、私が観たことのあるもの、というごく個人的な理由でこれらを検討します。
あらすじは記しません。
(映画名・監督・発表年)
『風の谷のナウシカ』 宮崎駿 1984
『天空の城ラピュタ』 宮崎駿 1986
『となりのトトロ』 宮崎駿 1988
『魔女の宅急便』 宮崎駿 1989
『紅の豚』 宮崎駿 1992
『耳をすませば』 近藤喜文 1995
『もののけ姫』 宮崎駿 1997
『千と千尋の神隠し』 宮崎駿 2001
『猫の恩返し』 森田宏幸 2002
『ハウルの動く城』 宮崎駿 2004
『崖の上のポニョ』 宮崎駿 2008
『借りぐらしのアリエッティ』 米林宏昌 2010
『コクリコ坂から』 宮崎吾朗 2011
風の谷のナウシカは厳密にはジブリ作品ではないようですね。初めて知りました。
1.高いところ
大体のジブリ映画には高いところから低いところを見下ろすシーンが登場します。
それは空中だったり、高台だったり、丘の上だったりします。
各映画に、どのような形で登場するでしょうか。
『風の谷のナウシカ』
メーヴェ
ナウシカがメーヴェという乗り物で飛ぶときに、崖から風に乗って飛んでいくシーンがあります。メーヴェは動力もあるけれど風に乗って飛べる乗り物。ナウシカの住んでいる国が「風の谷」であり、周囲に高い山か崖が聳えているらしいので、楽に山を越すことができ、山から降りる時も気軽に扱える乗り物が発達したのかな~、と思います。
空中戦
トルメキア軍の軍用機がペジテの小さな飛行機に撃墜されます。
後半でもペジテの巨大な飛行機にトルメキア軍の軍用機が接触し、戦闘しています。その後、風の谷の飛行機が到着してユパさまがトルメキア兵を蹴散らかしました。
アスベルが蟲に食われそうなところをナウシカがメーヴェで助ける
ムカデに羽がついたみたいなデカい蟲がナウシカ世界にはいるようで、深い穴に落ちていくアスベルを襲うところを、ナウシカがメーヴェで掻っ攫いました。
スピード感と緊張感のあるシーンでした。
王蟲の子供を運ぶ
ペジテの計画で、王蟲の子供を囮にして、大量の王蟲を風の谷に呼び込むために、土壺みたいな乗り物で男二人が運びます。
ナウシカがそこへメーヴェで飛び込んでいって阻止しようとします。
こう概観してみると、『風の谷のナウシカ』の世界では、空中での移動が一般的であり、各国の事情に合わせて飛行機が開発されているようです。
「蟲」や「腐海」という人間の生活圏が脅かされる存在がいて、いつそれが襲ってくるかも分からないため、列車など定置にレールを敷かなければならない乗り物は適さず、〝危険を飛び越えて移動できる〟手段が重要なのかも知れません。
『天空の城ラピュタ』
炭鉱
パズーの住む町の炭鉱にはかなり深い谷があり、その高低差が印象的に描かれています。
中でも、パズーの家は高い位置にあるようで、谷や町や炭鉱を見下ろすことができます。
線路も谷の上を走っているので、パズーとシータが線路を逃げ、ドーラが車でその上を走るシーンはハラハラします。
パズーの父の飛行機、パズーとシータのタコ、ドーラ一家の飛行機、軍の飛行艇ゴリアテ
天空の城ラピュタ
これらが登場するのは空の上なので、下に雲が広がっているような画の方が多かった気がします。
『天空の城ラピュタ』はタイトルが「天空」ですし、空の上を目指していく映画なので、空のシーンが登場するのは当たり前っちゃ当たり前です。
しかし、パズーの住む町に谷があり、高低差を感じさせる景色が描かれている点がおもしろいです。
『となりのトトロ』
トトロが巨大コマで空中散歩
木を巨大化した後にトトロが巨大コマに乗って、空中散歩。
ネコバス
大きな木の上から呼んだトトロに応じてネコバス登場。
風になって電線の上や木の上を歩き、迷子のメイを探しているおばあちゃんや、普段見慣れている田圃などを飛び越していきます。
サツキやメイが不思議な経験をするときに、「空を飛ぶ」「現実を追い越してメイを迎えに行く」という現象が起きます。
『魔女の宅急便』
キキが箒で空を飛ぶ
魔女だもの。
グーチョキパン店のある場所
最初にオソノさんが出てくるシーンで、坂道を登り切った場所から、赤ちゃんのおしゃぶりを忘れたお客さんに呼びかけていました。
そこからキキが飛んだので、オソノさんはびっくりします。
トンボが飛行船にぶら下がる
キキが助けに行きます。手に汗握るシーンです。
また高いところの上に家が出てきました。
『紅の豚』
ポルコ・ロッソが赤い飛行艇乗りである
だって、飛ばねぇ豚はただの豚だもの。
空賊
ポルコが請け負っているのは空賊退治です。
空賊たちは海上の船を狙います。
あるシーンでは徒党を組んだ空賊が船を狙い、その更に上空に用心棒カーチスが隠れていました。
海上の船→徒党を組んだ空賊→カーチスという三段階の空間が実現しています。
空中戦と飛行艇乗りの墓場
ポルコの回想に登場する空中戦。
敵味方あい乱れて、紙みたいにして飛行機が壊れ落ちていきます。
その「紙みたいに」どんどん飛行艇が打ち落とされていく軽さ。
その後の飛行艇乗りの墓場も、動力のないままたくさんの飛行艇が飛んでいる様が異様に感じられます。
どちらも不思議に感じさせるシーンだと思います。
私は子供の頃、ポルコの回想がどのようなものなのか、見たままに、不思議な出来事、ぐらいにしかとらえていませんでしたが、大人になって、ポルコの回想がとても悲しいシーンなのだと気付かされました。
カーチスが崖の間から登場して飛び降りる
ポルコの普段の住居です。
崖に囲まれています。
結構剛胆で格好いいシーンのはず、が、結果的にカーチスのナルシストがコミカルに描かれています。
『耳をすませば』
地球屋のあるところ
この間観ていて思ったのですが、地球屋があり、聖司君がバイオリンを作っている家は、高台の上に建てられているのです。
雫ちゃんはその高台から階段を駆け下りて、お父さんが勤める図書館に行きます。
また、その家の渡り廊下のような場所から外を眺め、街を見下ろし、感嘆の声を上げます。
雫ちゃんの物語「耳をすませば」
宝石が集まったみたいな惑星が浮かぶ幻想的な空間で、少女がバロンにエスコートされて空中に一歩踏み出し、気流に乗って空を飛びます。
この空想的なシーンは、美しい想像を繰り広げる場面であると共に、現実では雫ちゃんが高台から階段を駆け下りて行く姿が同時進行しています。
雫ちゃんの逸る思いと、インスピレーションが広がっていく、そんな大事なシーンに高いところが登場します。
雫ちゃんと聖司君が高台で朝焼けを見る
最後の名場面です。聖司君がとっておきの場所に雫ちゃんを案内します。
そんなところで「結婚してくれないか」って聖司君ロマンチスト。
『もののけ姫』
山の斜面の道を移動していく人々
雨の中を、物資を運ぶために牛を引いて、人々が歩いて行きます。
足を踏み外すと大変危険なところで、山犬モロの登場にぎょっとさせられます。
サンが屋根の上に登場
仮面と白い毛皮にすっぽり頭を覆い、超人的な脚力で屋根を駆け下りてくるサンにぎょっとさせられます。
ディダラボッチ
木の上に大量のコダマが集まり、キラキラした透明なブルーの巨大な神のディダラボッチが登場。
ディダラボッチがシシ神に戻ろうとすると、身体を倒す圧迫で?風が湧き起り、木を揺らしてコダマたちが嬉しげにしています。
夜明けの、神秘的なシーンです。
『もののけ姫』では、人間の領域のものではない、そんな存在が登場するときに、高いところが登場するようです。
『千と千尋の神隠し』
湯屋「油屋」の居住空間
油屋は不思議な街に聳え立つタワーであり、その上階に使用人である千尋は住まわっていました。
雨が降ると海が出来る不思議な街を見下ろすシーンが出てきて、千尋は線路を汽車が走っていくのを眺めています。
また、ハクを助けるために湯婆の住居空間に潜入しようとする千尋は、建物の外壁を伝っていきます。結構な高低差のある場所なので、千尋が襷がけをして気合を入れ、思い切って足を踏み出すところに、緊張感があります。
ハクが千尋と「油屋」に帰る
千尋が龍のハクに跨り、ハクの存在に思い当る大事なシーンです。
『猫の恩返し』
猫の国のタワー
人間界に戻るために主人公のハルとバロン、ムタはタワーに登ります。
バロンがハルを抱き上げて登る胸きゅんポイント。
タワーに登り、人間界へ落下、その後烏の階段を降りる
空中へ落ちていくシーンは、不思議な体験から人間界に戻る最後のプロセスです。
朝焼けに染まる街が印象的なシーンでもあります。
『ハウルの動く城』
ハウルとソフィーの邂逅
荒地の魔女の手下たちを追い越すため、ハウルがソフィーを連れて空に浮かび、街の建物の上を飛び越えます。
ソフィーはその時、色とりどりの屋根や、踊る人々を目下にして、後でぼんやりしてしまいます。
山の上に登るソフィー
おばあちゃんになって、ハウルの城の方へ向かうソフィー。
自分の住んでいた街が遠ざかって行きます。
地味に暮らしていたソフィーが、荒れ地の魔女の魔法でおばあちゃんになり、普通の生活から離れざるを得なかったときに、街を離れたところから眺めるのです。
ハウルが鳥になって飛ぶ
鳥になって国中を見下ろしたハウルは、戦争で焼けていく町や、爆弾を落としていく飛行機を眺めます。
空中戦
ハウルがソフィーたちを守ろうと飛行機や化け物と戦います。
動く城が飛ぶ
最後のシーンでハウルやソフィーたちは新しい動く城で空に行ってしまいます。
空を飛ぶことは魔法でもあり、飛行機が活躍するところでもあります。
ハウルと出会って、空に浮かんで街を見下ろしたときから、ソフィーのごく地味に生活していた世界から、魔法使いの世界に移り住み、自分がいれなくなった家がある街を遠くに眺めます。
魔法使いのハウルは戦争の恐ろしさを見下ろし、同じ空を飛ぶ鉄の塊を睨みます。
飛行機は爆弾を落し、街を焼くものであり、安心して暮らせなくなるのです。
ハウルは「ソフィーたちを守りたい」ので戦い、ソフィーはハウルを心配し、危険を顧みず飛び出していくハウルを取り戻そうと行動に出ます。
その結果、ハウルは心臓を取り戻し、ヒンから報告を受けたサリマンは戦争をやめましょうと言いますが、私は最後のシーンを、戦争に振り回されないように、ハウルが空飛ぶ城を作ったのだと解釈しています。
『崖の上のポニョ』
そうすけの家
ポニョが魔法を爆発させ、世界が海になり、カンブリア紀に還っても残っている、高台の上にある家です。
父親の乗る船を遠くに見つけることができます。
『借りぐらしのアリエッティ』
翔とアリエッティがアリエッティの母を救出に行く
病弱で部屋に籠りがちの少年が、アリエッティの訴えに動きます。
アリエッティたちの秘密を守ろうと、リスクを冒して窓の外に出て、屋根を伝って別の部屋から屋敷に入り込みます。
このシーンは、翔が進み、アリエッティが窓の鍵を開ける連携がみられ、翔が(おそらく今までにないくらい)一生懸命屋敷の中を急いで走る姿に、生きる気力が感じられます。
病弱で家の中にばかりいる翔が、家の人以外の誰かのために頑張る。
そのリスクが、高いところに表れていると思います。
『コクリコ坂から』
海の家
主人公・海の家は高台の上にあり、海はそこでいつも旗を揚げます。
その旗をいつも見ていて、海の上から信号を応答していたのがヒーローの風間俊、という設定があり、主人公の家が高台の上にあるという要素は物語の中で重要です。
以上のように、各作品には高いところが出てきます。
これらはだいたい、以下のように整理できると思います。
1.飛行機 その世界の生活様式のため。
→『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『紅の豚』『ハウルの動く城』
2.不思議・魔法・神秘 不思議なことが起ったときの「空を飛ぶ」シーン、魔法の雰囲気や、神秘の視点。
→『となりのトトロ』『魔女の宅急便』『もののけ姫』『猫の恩返し』『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』
3.居住地 その土地、登場人物が住む場所など。
→『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『魔女の宅急便』『耳をすませば』『千と千尋の神隠し』『崖の上のポニョ』『コクリコ坂から』
4.緊張感 スリルのあるシーンを展開し、鑑賞者の目を釘付けにする。
→『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『魔女の宅急便』『千と千尋の神隠し』『借り暮らしのアリエッティ』
5.空間の広がり 高いところから登場人物が街や世界を眺めることで、アニメ特有のスケールの大きさを感じることができる。
→『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『魔女の宅急便』『紅の豚』 『耳をすませば』『千と千尋の神隠し』『猫の恩返し』『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』 『コクリコ坂から』
6.空中戦 →『風の谷のナウシカ』『紅の豚』『ハウルの動く城』
7.大事なシーン 登場人物の出会いや大事な契機など。
→『紅の豚』『耳をすませば』『ハウルの動く城』『借り暮らしのアリエッティ』
1~7はそれぞれ隣接し合っていて、互いが作用して映画のストーリーに絡んできていると思います。
5のアニメ特有の空間を表現できる、という点では、1・3の高いところから見下ろせるシーンがあったり、1・2・6など空を飛んだりするシーンがあったりすると、とても有効的だと思います。
主人公らの動向に鑑賞者の意識を惹きつける1・4・6も「面白い」点です。
それでもやっぱり、こういった点を分類・整理してみても、ひとつひとつの作品にそのシーンが表れるのはそれぞれ異なる背景があり、例えば、6の空中戦に関してだと、『風の谷のナウシカ』は人間同士の思惑と国を守るために空中戦をし、『紅の豚』では飛行艇乗りという職業の宿命と哀愁があり、『ハウルの動く城』では、魔法使いがわりと個人的な理由で戦争に飛び出していく。
空間の広がりも、ただの技術的な問題ではなく、物語とそれぞれ結びついたときに発揮されています。
『風の谷のナウシカ』では景色一面が怒り狂った王蟲という絶望的なシーン、
『天空の城ラピュタ』ではパズーが朝起きたら鳩を放し、谷に向けてトランペットを吹く生活習慣と結びつき、
『となりのトトロ』では不思議な生き物との子供たちだけの楽しい経験、
『魔女の宅急便』の冒頭シーンは美しい景色と旅立ちの弾むような期待感、
『紅の豚』では軍を振り切って新しい飛行機を飛ばして景色を眺める解放感、
『耳をすませば』は初めて読んでもらう作品の感想を待つ緊張感と自信のない途方に暮れた雰囲気、
『千と千尋の神隠し』は不思議の街に広がる幻想的な風景の中に、どこに行くとも知れぬ電車が伏線として描かれ、
『猫の恩返し』では元の世界に段々近付いていく様、
『ハウルの動く城』ではソフィーが元の生活から離れていくときと、ハウルが目撃する戦争の悲惨さ、
『崖の上のポニョ』ではそうすけと父親との海上での接点、
『コクリコ坂から』では海が見ている景色と、俊介が見ていた景色が一致していたことによる出会い。
これらにはすべて、高いところから見下ろす・見渡すシーンと共に表現されていますが、記号化できない、物語の妙味があるのです。
まあとにかく「おもしろいわ~」ということが言いたいばかりの面倒臭いジブリファンなのですが、高いところ、のシーンはそれぞれの文脈に沿って、魅力的に描かれているのです。
ひたすら長くなってしまったので、ジブリ映画に登場する老人についてはまた次の機会に。
(まだやるんかい)