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  息を切らして崖沿いを登っていると、

  稜線の彼方に陽が上り始めた。

  しばし立ち止まって、日の出を拝む。

  山頂で待ち構えて見る日の出も美しいが、

  木々の間から、垣間見る朝日も、

  思い掛けない自然のパノラマで目を奪われる。



  太陽が渓にまともに当たり、しかも水量は足りない。 

  魚は底からなかなか出て来ない。

  ここはイワナの渓。釣れる魚はイワナのみだ。

  短い仕掛けで、岩のエグレや暗い淵、倒木の下、落ち込みの裏側など、

  丹念に振り込んでいく。  

  日陰のぶっつけの岩の下で、仕掛けをグイグイ引っ張られる。

  アワせると強く引き返される。

  逃げ込もうとする場所は元の位置のみ。竿のコントロールは容易だ。
  
  玉網を取り出して魚を掬う。

  水々しい焦げ茶色の魚体が、網の中で光った。



  東京のイワナはとても貴重。

  釣った地点にリリース。

  天然魚はいつも生命力に満ち溢れている。

  激しく暴れながら、元気一杯に水の中に帰って行った。

  標高の高い場所では、まだ蜘蛛の巣も少なく蜂もいない。

  山の緑、空の色、そして陽の光も、まだ春の柔らかさだ。

  真夏の厳しい暑さを思い出し、

  願わくば、もう少し初夏のこの気候が続いて欲しい。

  


  竿:6m 仕掛け:糸0.3×1.5m ハリ:赤袖6号 オモリ:ガン玉B エサ:ブドウ虫