経団連の魚谷雅彦ダイバーシティ推進委員長(資生堂会長)が、「選択的夫婦別姓制度の早期導入」を求める提言を、21日、自民党の「選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟」(浜田靖一会長、私は副会長)に渡しました。

 「ビジネスの場で旧姓を使用している女性たちが、自分のキャリアを築いていく上での障壁であるだけでなく、企業にとっても女性活躍の進展に伴い、ビジネス上のリスクとなりえる事象」として、経団連が今月、初めてまとめた提言であり、十倉経団連会長も年初から様々な場で表明してきました。経団連は「2030年までに女性の役員比率30%以上」を目指していることも背景にあります。まさに「時来たれり」の思いで胸がいっぱいです。

 魚谷委員長は「経団連は、会長も副会長も審議委員も全員一致して、このことに賛成です」と説明しました。

 

 

 私の「松島みどり」は、いわゆる旧姓(私自身は「生まれた時からの名前」という表現を用いています)で、戸籍上の姓とは異なります。

そのことに伴い、これまで、どれほど腹が立ったり、悲しい思いをしてきたことでしょう。

 まず、選挙管理委員会から渡される「当選証書」に書かれる名前は松島ではありません。そこには、誰も投票用紙に書いていない(つまり有権者の大半は知らない)戸籍名が記載されているのです。

外務大臣政務官になったときの辞令も、また、国土交通副大臣、経済産業副大臣、法務大臣となり、いずれも皇居の認証式で総理大臣から受け取った「官記」(任命書)も松島みどりではありませんでした。

 最初の時、安倍総理(第一次政権)が、知らない名前を見て、「えっ」という表情をしたことを思い出します。

 

大臣や副大臣、政務官の職務は松島みどりで行っていました。国会での議事録にある答弁者の名前も松島です。しかし、法務大臣在任中、大阪の1人の弁護士からの電話に驚きました。国を相手にした訴訟は、それが厚労省案件でも国交省案件でもすべて、訴える相手は法務大臣というルールになっています。(検事が国側の弁護をするため)

裁判所は戸籍名主義を採用しているため、「松島みどり法務大臣」ではなく、戸籍名で受け付けることになっているため、これでは裁判記録を一般の人が見ても「ニセ大臣」としか思えません。

 結局、この時は法務省の事務方が「(三権分立の原則に基づき強制はできないが)法務省は松島みどり大臣という名前を使っているので、参考にしてください」と連絡しました。これも経済界で言われている「キャリアの断絶」と同じかもしれません。

 

 私のような(国会議員として名前のある程度知られている)強い立場の者でも、金融機関の口座やクレジットカードを作成したり、自動車を購入したり、不動産契約、携帯電話の契約は基本的にすべて戸籍名が必要とされています。

 

経団連は提言で「旧姓の通称使用によるトラブルの事例」として以下を挙げていますが、私もほとんど経験しています。

【旧姓の通称使用によるトラブルの事例】

①  契約・手続き等を行う際の弊害例

・多くの金融機関では、ビジネスネームで口座をつくることや、クレジットカードを作ることができない。

・クレジットカードの名義が戸籍姓の場合、ホテルの予約等もカードの名義である戸籍姓にあわせざるを得ない。

・役員就任時の法人登記の際、旧姓の併記は可能ではあるが、旧姓を証明するために戸籍抄本が必要である。

 

②  キャリアを積むうえでの弊害例

・ 研究者は、論文や特許取得時に戸籍上の氏名が必須であり、キャリアの分断や不利益が生じる。

・国際機関で働く場合、公的な氏名での登録が求められるため、姓が変わると別人格としてみなされ、キャリアの分断や不利益が生じる。

 

③  海外に渡航する際の弊害例

・社内ではビジネスネーム(通称)が浸透しているため、現地スタッフが通称でホテルを予約した。その結果、チェックイン時にパスポートの姓名と異なるという理由から、宿泊を断られた。

・海外ではセキュリティが強化されており、公的施設のみならず民間施設等においても、入館時に公的IDの提示を求められる。その際、ビジネスネームが記載されている名簿と、公的ID上の名前が異なるとゲートを通れない。そのため、いつも結婚前の古いパスポートを持ち歩き、説明・証明するのに時間を要する。

・空港では、パスポートのICチップのデータを読み込むが、そこに旧姓は併記されていない。よって、出入国時にトラブルになる。

④  プライバシーの侵害

・民間企業において、結婚・離婚に伴う改姓手続きにおいて、一定範囲で届け出が必要となり、その情報の取り扱いにおける保護範囲も不明瞭で、プライバシーの侵害につながりかねない。

 

 私が2000年に初当選して以来、これまで何度か、自民党の選択的夫婦別姓制度の導入派と反対派が激しい論争をし、いつも平行線をたどってきました。

 反対派は「日本の家族制度の気風が失われる」「離婚しやすくなる」「子どもがかわいそう」「戸籍制度の崩壊につながる」といった理由を挙げました。

今回、第三者の立場であり、日本の経済界を代表する経団連が、「女性だけでなく、日本のビジネス界全体の経済損失」を理由に挙げたことは勇気づけられます。

 

 同じく選択的夫婦別姓制度実現を目指している日弁連は、民法750条「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」を改正し、最後に「または各自の婚姻の前の氏を称する」とすれば良いだけで、子どもの氏については、「出生時に、父または母の氏を称し、15歳になったら本人が選択できる」ことにすれば良いとしています。これにより、戸籍制度をなくす必要は生じません。

 

 初当選して間もなく、私は松島みどりであることを証明するものが欲しいと思い、衆議院議院運営委員会で提案し、写真付きの身分証明書(住所、生年月日、衆議院議長の印つき)の制度を設けてもらいました。(当時は社員証に相当する議員の身分証はありませんでした)今、すべての議員が持っている身分証明書は、この時、こうした経緯で誕生したのです。

 

その後、党内の議論は一向に収束しない(その度に、敵、味方に分かれた議論となる)ことから、旧姓を使用している多くの女性が公的に身分を証明できるよう、住民票、マイナンバーカード、運転免許証、パスポート、健康保険証の氏名欄に戸籍姓の後に[松島]というふうに、旧姓を入れる制度を設けました。

 私自身も、政府に強く働きかけて、実現できました。本当は、ふだん使っている名前を先に書いて[ ]内に戸籍名を入れるよう、順序を逆にしてほしいのですが。

 

 2019年(令和元年)11月5日、墨田区役所で「旧氏記載請求書」を提出し、住民票に記載されたこともブログを書きました。(「住民票に旧姓「松島」を記載した!」https://ameblo.jp/midori-matsusima/entry-12542568517.html

同日全国で受付開始されたのですが、午後一番に手続きをした私の前にすでに3人の女性が同じ手続きに来たと区役所の窓口の職員から聞き、「(それほど周知されていなかったのに)この日を待っていた人が私以外にもいたのだ!」と感動しました。

 

 しかし、このような細かい変更をしても、経団連が挙げているような海外渡航時のトラブルは解消されません。入館チェックにひっかかり、一人だけ会議に出られなくなった例もあるのです。だから、経団連としても、会社全体、経済全体の損失と受けとめるわけです。

 

 企業の国内実務に関しても、「91%の企業が、通称使用を認めているが、現場では、社員の税や社会保険等の手続に際し、戸籍上の姓との照合などの負担がある」「結婚・離婚といったセンシティブな個人情報を、本人の意思と関係なく、一定の範囲の社員が取り扱わねばならない」と提言に記しています。

 

 法制審議会は1996年(平成8年)に選択的夫婦別姓導入を答申し、法務省はそれに基づいて改正案を作成しています。 しかし、世論調査で意見が分かれたり、自民党内に様々な議論があることから、国会に提出されていません。

 

 また、改姓による不利益を理由に結婚を諦める人や、事実婚を選択する人もいます。経団連の提案を大きな力として、今後、もう一度、党内議論を起こし、待ち望む人の期待に応えたいと思います。