台風などで中小河川が氾濫することを防ぐための「首都圏外郭放水路」(埼玉県春日部市、国土交通省江戸川河川事務所所管)を視察しました。まるで地下のパルテノン神殿のようで、圧巻でした。



 国道16号線の地下50mのところに、大落古利根川(おおおとしふるとねがわ)と江戸川を横に結ぶ形で、全長6.3km、内径10.6mのトンネルが掘られています。
 この大きな地下トンネルのねらいは、台風などで大水が出そうなときに、そのままでは氾濫する河川の水を江戸川に移すことです。
 トンネルは中川など5つの河川・水路の下を通っており、増水した川の水は「超流堤」という開口部から、立坑を通じてトンネルに落ち、江戸川方向に流れます。

 



 地上から階段を116段降りると「調圧水槽」があり、長さ177m、幅78m、高さ18mの巨大地下空間になっています。重さ500トン、7m×2mの柱が59本も立ち並び、パルテノン神殿の趣があります。
 端には江戸川に水を排出するための4台の巨大ポンプ(合計200m3/秒、1秒間に25mプール1杯分をくみ上げる)があります。動力のガスタービンは、ボーイング737などに用いられる航空機用です。調圧水槽はポンプを安定して作動させるために作られました。

 



 地下トンネルの出口と調圧水槽の間にある「第一立坑」は、深さ71m、直径31.6mの円形のたて穴。これもまたすごかったです。



 トンネルが通る中川・綾瀬川流域は、お皿のような低平地で水がたまりやすく、河川の勾配が緩くて流れづらく、近隣の田畑が減って保水力が失われたことなどから、浸水被害が頻発してきました。
 放水路は13年かけて建設、2006年に、全区間で使用開始されました。

 放水路に水が流入する頻度は、年平均7回にもなります。このうち、タービンを用いて江戸川にポンプアップするほど大量に流入するのは年平均4回程度です。
 放水路ができる前、1982年の台風18号では、この周辺の中川・綾瀬川流域で2万9457戸が浸水しました。放水路ができたあとの、2019年の台風19号では、同規模の雨量にもかかわらず、浸水は2737戸に、10分の1以下にとどまりました。

 見学施設「龍Q館」では直径10.6mのシールドマシンのカッターや、江戸川の景色も展望しました。穏やかな景観はこのような施設により、やっと守られるのだと、実感しました。

 



 なお、首都圏外郭放水路の見学は、一般の人でも申し込むことができるよう、民間に委託されて運営されています。詳細はこちら
https://gaikaku.jp/