3か月に1度は病院に行って診察を受けなければならない。そして上田市内の病院には適当なところがないので、診察のためにわざわざ長野市の病院まで行く必要がある。

 

水曜日に夏休みを取った。朝7時54分上田駅発の新幹線に乗って、長野駅に行く。そこから病院まではタクシーを使った。

 

診察は9時からで、あっという間に終わった。2分もかからなかった。午後2時30分から長野市内の行きつけの歯医者で歯石を取ってもらうことにしていた。それまでの間、何をしていたらいいのか?

 

病院の外に出たらものすごく暑いことは知っていた。だから病院のロビーで英文法の本を読んで過ごした。11時30分近くになると、ロビーで昼ご飯を食べ始める年寄りが増えてきた。邪魔をしている気がしたので、それで、俺は席を立って病院の外に出た。

 

歯医者の方向に少し歩いた。想像していたとおり、すごく暑かった。歩くのが嫌になったとき、ふと看板を見上げたらそこはカラオケ店の前だった。

 

俺は今まで、一人だけでカラオケ店に入ったことは一度もなかった。店内はクーラーが効いていて涼しかった。歌う気はさらさらなかった。暑さで疲れてしまって寝たかった。

 

「会員になるのには300円かかります。一度会員になると・・。」とフロントのお姉さんが説明するのを遮って「会員にならなくていいや。2時間お願いします。」と言った。「ドリンクは、オーダーだと・・。」いろいろと面倒だったので、フリードリンクで2時間、900円というコースにした。会員ではないので、割高かもしれないが、思っていたよりはるかに安かった。

 

そして、連れて行かれた部屋で、クーラーのスイッチを入れて、ソファーに寝ながら英文法の本を読んでいた。座席に染みついたタバコの臭いが多少、不快だったし、ひっきりなしに流れている映像にもうんざりしたけれど、そのうちに、本当に寝てしまった。

 

2時間が経つ前に目が覚めた。結局、歌うことはなかった。部屋の外に出ると、多くの部屋のドアが閉められていた。学校が夏休みのせいもあるのかもしれないが、平日の昼間に、こんなに多くの人がカラオケを利用していることに驚いた。それから、カラオケ店は涼しいし、机もあるし、多少、タバコのヤニの臭いにさえ鈍感になれば、勉強するにも快適な場所だということが分かった。

 

それから歯医者に行く間に、何人かの知り合いと偶然、会った。でも、大した話はしなかった。

 

天気は晴れから曇りになっていた。歯医者に着いて、歯科衛生士の人に歯石を取ってもらった。

「心配なことありますか?」

「右下の奥歯から血が出るんです。最近は量が減りましたが。」

 

調べてもらったら、右下の奥歯がぐらついているという。できるだけ早く抜いたほうがいい、なんて言われてしまう。

「抜いた後はどうするんですか?」

「入れ歯か、インプラントですね。」

「インプラントってどのくらい費用がかかるんですか?」

「ここでは、1本、30万円。保険がきかないから。1本、50万円という歯医者もありますよ。」

「ふーん。」

30万円もかかるのか。気が遠くなりそうだ。

 

この日は昔、お世話になった先輩の退職パーティーが長野市内で6時から予定されていた。歯医者に行った後、パーティーまでの間、何をしていたらいいのか、また問題だった。

 

歯医者の近くに温泉があるのを思い出して、そこに行くことにした。雨が降り出していた。傘を持っていないことが多少気にはなっていたけれど、帽子をかぶって気にしないことにした。

 

平日の昼間の温泉はガラガラだと勝手に思っていたが、それなりの数の人がいた。温泉から出た後は、休憩所でずっと英文法の本を読んでいた。俺は英文法が基本的に全くわかっていないことが改めてよくわかる。

 

帰りは温泉が運行している無料バスで長野駅前に戻った。まだ時間があったので、駅前のスターバックスでまた英文法の本を読んだ。

 

スターバックスの入口近くで、高校生なのか大学生なのか、まわりに聞こえるように大声で話している。ワザと聞かせている態度がありあり。自分たちは聞かせる価値のあることを話しているつもりなのだろうけれど、内容は底が浅くてくだらなかった。ああいう時代が俺にもあったような気がするし、なかったのかもしれなかった。ただ、恥ずかしいなあ、という思いがした。

 

6時から、退職者のパーティーに出た。15年ぶりくらいに会った人がたくさんいた。今は仕事にほとんど関わりがないので、好き勝手なことをしゃべる。仕事を気にしない飲み会はこんなに楽しいのかと思った。

 

21時46分長野駅発の新幹線で、また上田まで戻ってきた。自宅まではタクシーで帰った。休みだったけれど、いろいろとあった1日だった。

 

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翌日の木曜日は、仕事上の飲み会があって出席した。会場準備の間、ロビーで待っていたら、目の前のビルの避雷針に雷が落ちた。とてもきれいだった。あの莫大なエネルギーを利用できたら、ということを周りの人と話した。「積乱雲が近づいてきたら、凧を上げたり避雷針を伸ばしたりして、雷を誘導するとかさあ。」なんてことを話していた。

 

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そして、金曜日は仕事のあと、英語をフィリピンの女性に1時間ほど教えてもらった。

 

「英単語をもっと覚える必要があります。英単語は、銃でいえば弾丸です。弾丸が足りないと銃があっても使えません。私があなたにプレッシャーをかけるのは、次のTOEICまで1か月しかないからです。私はあなたが忙しいことを知っています。でも、毎日少しずつでも単語を覚えなくてはなりません。」

 

相変わらず厳しい授業だけど、俺のために厳しくしていることがわかる。俺も覚えたはずの単語をすぐに忘れてしまう。反省することも多い。

 

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そして土曜日からの3連休は、毎日、朝8時30分から8時間、フォークリフトの実技があった。2日目からは申し出て、朝7時30分からの補習にも出た。3日目は朝7時からの補習だった。久しぶりに腹が立つ教官というのに出会った。そういえば、昔はこんな教師ばかりだったよなあ、と遠い昔を思い出した。

 

生徒は15人ほどいたが、俺が一番下手だった。怒られるのが平気な性格でよかった。

「フォークリフト経験者の方が、くせが抜けずに、苦労する。」なんて教官は言っていたが、経験者の方が遙かにうまく、上達も早かった。運転系は経験値が高いに越したことはない。

 

俺はハンドルを左手だけで扱うことも、フットブレーキの解除は手で行なうことも、真っ直ぐ進むときのハンドルノブの位置が、8時の位置であることにもなかなか馴染めなかった。さらに、後輪操舵で、ほぼ90度別の方向にまで曲がることができるというフォークリフトの特性にも抵抗感ばかり感じていた。いきなりバックのクランクがあり、俺はふらふらしていた。散々怒られたが「うまくできないんです。すいません。」と言っただけで平気だった。

 

講習会場はとてつもなく暑く、頭がぼーっとしてくる。その状態でフォークリフトに乗ると、自分が何をするべきかさえ、思い出せなくなる。親切な他の受講生が「フォークが上がってないですよ。」と声をかけてくれて、「そうだった。そんなこともしなければいけないのだった。」と慌ててやり直したことが何回もあった。

 

20歳くらいの若い兄ちゃん達とは、俺はけっこう仲良く話しをしていた。すごくうまいのに、教官に怒られて、なんだかかわいそうだった。講師は講義の時間中も、喫煙所以外の場所でもずっとタバコも吸い続けていて、これが禁煙にうるさい厚生労働省所管の講習なのかと呆れた(フォークリフトは、国交省の免許ではなく、厚労省の講習扱い。)。

 

月曜日のつまり今日の夕方4時過ぎから最終試験があった。もともと98%が受かる試験なので落ちるはずもない試験だけれど、教官は大したことでもないのに大げさに言い募るし、暑いし、思っていたよりもはるかに大変だった。

 

思い返してみれば、毎晩、眠る前に複雑な工程を頭の中で再現していた。30回くらいはしたと思う。これをしてなかったら、俺はもっと、はまっただろう。

 

最終的に俺がブレークスルーしたのは、「バック、跳ね上げ、キョロキョロ」「前進、跳ね上げ、キョロキョロ」という呪文(バック(前進)にギアを入れたら、フットブレーキを解除し、進行方向の確認をしろという意味、)と、「ブレーキ、パーク、ニュートラル」という呪文(ブレーキを踏んだら、パーク(パーキング)ブレーキも踏み、ギアをニュートラルにする)を思いついてからだった。これで、次に何をしたらいいのか考える時間を大幅に削減した。

 

もっとも、若い人たちは、複雑な工程を、普通にめんどくさそうに完璧にこなしていた。俺はいつも「天才?」と聞いていた。

 

とにかくこれで、俺はフォークリフトを運転することができるようになった。でもまあ、へたくそさ加減は自分が一番よく知っているので、動かせても動かさないだろう。とにかく8月の目標が1つ達成できた。明日からは再び、今度こそ英語とダイエットに本腰を入れていきたい。

 

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柳沢 きみをの漫画「DINO」(ゴマブックス)を再び全12巻、読んだ。

以前にも全巻読んだが、内容はもうすっかり忘れていた。

 

父親は部下の裏切りにあってデパートの社長の座を追われ、心労で酒におぼれて死んだ。フェラーリの車の名前がついた息子のディーノは、父親を裏切った相手に復讐をする。

 

復讐を中止する機会が何度も訪れるにも関わらず、ディーノは復讐を続ける。その間に何人もの人を殺してしまい、2人を失明させてしまう。

 

人生の目標はどのように立てるべきなのか、とか、どう生きるべきなのかということを、自分勝手なディーノなりの苦悩を通じていろいろと考えさせられる。展開が早く、そして味のある漫画だった。