小学生になってからもしばらくの間は、ゴキブリというものを見たことがなかった。初めて親戚の家でゴキブリを見たときは「カブトムシに似てかっこいい」と思ったほどだった。

 

それから長い年月が経った。今の俺はゴキブリが大嫌いだ。

 

先日、なかなか寝付けなくて、何か食おうと思って流しの下にある食品庫を開けた。開き戸になっているのだが、その開き戸の内側に1.5センチほどの小型のゴキブリが3匹いるのを見つけて、心臓がまた止まるかと思った。

 

慌てて、戸を閉めて全て見なかったことにした。冷蔵庫のなかを漁って空腹を満たした。ゴキブリのことは忘れたことにした。

 

それでも寝ながらあいつらをどうしたら退治できるのかを考えた。食品庫で殺虫剤を撒くというのは余り気乗りがしなかった。

 

そういえば、凍らせて殺虫するという殺虫剤をこの前、薬局で見かけたことを思い出した。

「あれを使おう!」

 

それから、その殺虫剤(正確にはフマキラーの凍殺ジェット-85℃)を買いに行くまでの間、黒いひもや自分の抜け毛の束を見ただけでゴキブリではないかと緊張をした。小学校の頃から思うと随分とへなちょこになったものだ。

 

そして、殺虫剤を買ってきた日は、緊張しながら食品庫の開き戸を開いた。そこに置いてあるパスタの束にゴキブリが何十匹も群がっている姿を想像していたが、そんなことはなかった。いたのは1.5センチほどのゴキブリ1匹だった。他の2匹はどうしたのだろう?一応、食品庫のなかには、ゴキブリ誘因殺虫剤(正確にはアースのブラックキャップ スキマ用)も放り込んであったので、それで駆逐したのかもしれない。

 

俺はその1匹に殺虫剤を噴射した。なかなか死なないので説明書をよく読んでみた。できるだけ近い距離から噴射しろと書いてあったので、そうした。そうやってやっつけることができた。

 

ゴキブリが触れたかもしれないパスタ類は全て捨てた。封を切ってあるプロテインの袋も、中を確認する前に捨てることにして新聞紙にくるんだ。いったい何の感染症を恐れているのか俺にもわからなかったが、ゴキブリが触れたものはきっとよくないものだと極度に恐れている自分がいた。

 

もうしばらくはゴキブリも見たくない。ゴキブリにとっても不幸だと思うので、俺の前に現れないで欲しい。それから、本当に俺はへなちょこになったものだと、残念に思った。

 

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別の日に、俺はフライパンで鶏のササミ肉をフライパンでソテーしていた。風味をつけようとフライパンにウイスキーを入れてみたら、一瞬で着火してしまい、ガスの火を消した後もアルコールが随分と長い間フライパンのなかで燃えていた。

 

ちょうどそのとき、1匹の1.5センチメートルほどのゴキブリが「どう?うまくいった?」とでも言いたげな雰囲気で、ガスレンジ脇の壁を登ってきた。そして、俺の顔を見た。

 

「てめえ、殺すぞ!」俺がにらむと、慌てて降りていったが、俺が殺虫剤を手に戻ってきたときにはもうどこに行ったのかわからなくなっていた。

 

俺のこのアパートの家賃は4万円くらいだ。全額とはいわないけれど、一緒に住んでいるんだから、少しくらい払ってくれても良さそうなものだ。でなければ、今度会ったときに絶対に殺す。

 

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木曜日の夜、また大雨注意報が出て、俺は当番だったのでまた職場に泊まった。俺のシュラフが高性能すぎるせいか、暑くて、服が汗でびっしょりと濡れた。

 

翌日の金曜日は、懸案事項を10時頃までに終えると、年休を取って家に帰れることになった。職場にはそういう不文律がある。

 

ただ、俺はそれまでにコーヒーをがぶ飲みしていて、全く眠たくなかったので、実家まで帰ることにした。実家までは片道、車で2時間以上かかる。それでもスポーツジムに入会するのに必要な銀行印を持って来るつもりだった。

 

家まで帰る途中で、そういえば、実家の屋根裏にネズミが出るということを思い出していた。姉は「今度、実家に泊まるときに粘着式のシートを買ってきたら?」というが、俺は今ひとつ気乗りがしなかった。シートにネズミが張り付いているのを見るのが嫌だったし、もっとほかの動物、たとえば蛇とかムカデとかがくっついていたらと想像しただけで嫌だった。

 

それで、考えてみた。ネズミが出るなら、対抗策としてネコを飼えばいい。もちろん、ネコはネコで、糞をするし、いろいろと腹立たしいが、とりあえず、対ネズミの抑止力としては有効な気がした。

 

俺の家には、かつて、野良猫が住み着いていた。それはウッドデッキのイスにクッションがあって、その上にネコが座りたがっていたからだ。その証拠に、クッションを取り外した途端、ネコ同士が大げんかをして、それから実家に寄りつかなくなってしまった。

 

当時は「ざまあみろ」という感覚だったが、ネズミがいるような雰囲気の今は少し反省している。それで、ウッドデッキのイスに着けるクッションを買ってきた。安物で、2つ買ったが600円もしなかった。これで、ネズミを駆逐できれば安いものだ。

 

実家には30分もいなかった。それからお寺に寄って法事の話しを聞いたりして、その日のうちにまた上田市まで戻ってきた。途中、徹夜明けもあって猛烈な睡魔に襲われたが、助手席に誰も座っていないことをいいことに、歯間ブラシで口の中をかき回していたら、目が冴えた。

 

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銀行印を手に入れたので、土曜日の午後に、スポーツジムに申し込みに行くことにした。その前に、室内用の運動靴を買う必要があり、俺は靴屋に行った。

 

「できたら4Eの幅広の運動靴がいい。」

そう言っていたが、結局、アシックスの3Eの運動靴を買った。実際に履いてみたら3Eでも問題がなかった。色は白と黒と赤があるという。

「べつに何色でもいいんだけど。じゃあ、黒。」そう俺が言うと「白もあるんですよ。」と店主がいう。

「白の方がいいの?」「ええ。もちろんです。」「じゃあ、白で。」

理由はさっぱりわからないが、俺にはこだわりが全くないので白にした。

 

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そして、スポーツジムで手続きをした。銀行のキャッシュカードを機械に入れて、それから暗証番号を押した。それで、銀行登録は終わった。銀行印は不要だという。頭に来たが「ふーん。そうなんだ。」としか言わなかった。

 

すぐに利用できるというので、それから90分間もバイクを漕いでいた。汗だくになって、フラフラになった。途中で水も飲まなかった。

 

「誰が、初日にこんなに頑張れって言ったんだよ。」

自分に対して腹が立った。でも、まあ充実した時間の使い道だったことは間違いがない。疲れていたが、どこか満足感もあった。

 

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映画「キングスマン」を見終わった。

 

イギリスのスパイが後進を育て、その彼が活躍する様を描いている。

キックアスの監督と同じ監督ということで、ストーリーもぶっ飛んでいる。でもリズムがいいし、皮肉も効いている。

 

悪役の主張はこうだ。病気になると、熱が出るが、それは白血球が細菌をやっつけやすくするための体の防御機能だ。地球の温暖化は地球が病気になって発熱しているからで、そのためには細菌である人類を減らさなければならない。

 

そっかあ?って感じのこじつけに近い理屈だけど、それで人類の大量殺戮を計画してしまうというのがこの映画での悪役の特徴だ。その手段は意識をコントロールする機能を持たせた無料で使い放題のSIMカードを世界中に配布すること。それもなかなかトレンディだ。

 

人生破滅直前まで行っていた少年が、訓練の果てにスパイとして活躍するまでのストーリーもなかなか見させる。2時間を超える映画だが、退屈はしなかった。

 

人に薦めるほどではないが、なかなか楽しめる映画であることは間違いがない。