引っ越しの契約などで長野市へ行った。契約の間、駐車場に車を駐めていた。その後、駐車場から車を出そうとしたときに車内にピン、ピンという警告音が鳴った。

どこかで聞いたような音だった。エンジンを止め、再び始動するが鳴り止まない。ドアはすべて閉じている。いったい、何の警告音なのだろうか?

次の目的地まで、警告音を鳴らせたまま走り駐車場に駐める。車のマニュアルを取り出して読んでみたがわからない。

駐車場まで来る途中に三菱の看板を見つけたことを思い出し、そこに行くことを考える。再び、エンジンを切り、再起動する。やはり鳴り止まない。バッテリー等の確認もするが、特に異常があるようには見えなかった。

三菱のディーラーに行くまでの間、ふと足下を見たら、ETCカードの挿入口が普段と違って黄色に光っていた。「原因はこれか。」ETCカードを抜き、再び挿入する。

緑色のランプが点灯し、「カードが挿入されました。」というアナウンスが流れる。そして警告音が消えた。

三菱のディーラーに向かっていたのを引き返し、次の目的地に向かう。いろいろあるなあ、やれやれ。という思いだった。

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3月31日は、前の職場での最終日だったが、相変わらずの仕事量で、ここでさらに緊急の仕事が飛び込んできたらどうしようかと思うほどだった。

夕方にはまさかの大雪注意報まで出た。もう俺の車は、ノーマルタイヤに切り替えてしまった。家に帰って引っ越しの準備をするが、屋根を叩く雨音が気になる。「何事も起きませんように。」と4月1日に暦が変わるまで、僕は祈っていた。
 
4月1日に日付が変わったときも小雨が続いていた。しかし、明け方には大雪注意報も解除になった。
 
もう管内でどんな事故が起きても、俺には連絡が来ない。今までの4年間は何かあれば携帯電話が鳴り、切羽詰まった部下の声が聞こえてきた。

きっと4月1日になれば、肩から荷が下りたように感じるのだろうと思っていたが、そういった開放感はなかった。

俺はいつの日か開放感を感じるのだろうか?それとも、今のこの時間にも、頭の隅に緊張感を持って生活している人がいることに、罪悪感を感じるのだろうか?まだ俺にはよくわからない。緊急呼び出しの電話には即答する、そんな感覚が残っている。一気にアドレナリンが駆け回るタイミングをまだ持っている。しばらくは引きずりそうだ。

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4月1日に荷物を発送、その日の夜に不動産屋で鍵を受け取り、その日はホテルに泊まる。翌日の4月2日に荷物を搬入する、そんな予定だった。
 
ところが、荷物の発送準備が終わっても、運送会社が荷物を取りに来ない。電話をして、メドを聞いたが、「わからない。」という返事だった。「今日は時間指定はできません。」

姉が引っ越しを手伝ってくれる。時間がたっぷりあるので、家の掃除もしてくれた。家がびっくりするくらいきれいになった。そして整理をしている最中に、今まで紛失していたと思い込んでいたものもいろいろと見つかった。

朝9時には発送準備が完了していたけれど、実際に荷物を受け取りに来たのは夜の7時30分過ぎだった。もう真っ暗で、こんななかで搬出作業をするのかと思った。家から荷物を出すのは30分ほどで終わった。俺と姉が家を出るときには、まだ引っ越しの作業員がトラックのなかで荷物の梱包作業をしていた。俺は夜のうちに長野に行かなければならない。

不動産屋には、4月2日の午前10時過ぎに鍵を取りに行くことになった。それから荷物が来たら搬入をする。午後3時までにはガス会社が開栓に来る。友達が手伝いに来てくれることになっている。ただ2日も、何時に搬入になるのかはわからない。

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長野インターから長野方面に曲がる道は2車線ある。そのうち、1車線はがら空きで、もう1車線に5台ほどつながっていた。信号は青。

高速から降りてきて、クイーンを大音量で聞きながら、その光景を見たとき、俺はつながっている車線の先頭のドライバーが、信号が青になったことを気づいていないんだと思った。

それで、がら空きの車線を走って、長野方面に曲がろうとした瞬間、救急車が交差点に迫ってくるのが見えた。

瞬間的にどうして先頭車両が止まっていたのかを理解した。ほかの車がなぜ、先頭車両の後ろにじっと止まっていたのかも。ひたすら申し訳なかった。

大音量で音楽を聴きながら運転するのは控えようと思った。救急車とぶつからなくて本当によかった。今も申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

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安藤ゆきの漫画「町田くんの世界」(マーガレットコミックス)を今出ている4巻まで読んだ。

物静かで眼鏡姿なことから、優秀な高校生のように思われるが、町田君はそんなに勉強ができるわけではない。

しかし、彼には非常に優れた能力があって、空気を読み、人の気持ちがよくわかる。そして、いつも適切なタイミングで、適切な方法で、悩んでいる人を救う。

当然、女の子にはもてる。結局のところ、そういう人が人に好かれる。

人生で最も大切なのは人徳。できるだけ多くの人と仲良くできることが大切なんだと、俺は最近、本当にそう思うようになってきた。前の職場で山のような苦情を聞いてきたからかもしれない。俺は、なるべく苦情を言わないようになりたいと思っている。

ただ、町田君は今はまだ学生で、何も生産をしていないからいいけれど、これから社会人になったとき、どこまで彼のままでいられるだろうかと思う。

問題のある部下を持ったり、批判の矢面に立たざるを得ないときが、人にはあるからだ。

名探偵フィリップ・マーロウの使い古された台詞の通り「強くなければ生きていけない」。そしてもちろん「優しくなければ生きる値打ちはない」。

町田君が優しいのはよくわかる。どう強くなっていくのかを見守りたい。