姪が外資系の製薬会社に入社した。
面接試験のとき、面接官から「尊敬する人は誰ですか?」と聞かれたので「ローラ」と答えたらしい。「芸能人の。」

「ローラですか?理由は?」
「いつも明るくてかわいいからです。」
面接官は爆笑した。笑われたので逆に質問もしてみた。
「普通はどういう人を答えるんですか?」
「普通は両親とか、歴史上の人物とか…。」
「そうなんだ。」

確かに、回答が面白いので営業に採用してみたい気がしても不思議ではない。
姪に聞いてみたけど、そのときは試験官は「オッケー」とは言わなかったようだ。

+++

ゴールデン・ウィークは暦どおり。飲み会や法事の予定はあるが、ほかには大した用事がない。気象予報士の勉強をすればいいのだが、まるでアレルギーのように避けて、なかなか勉強しようともしない。基本的に、よく眠っていた。

夢のなかで、祖母と新しくできた公園に行った。
公園では、なにやらセレモニーが行われていたけれど、僕たちはそのセレモニーには参加せず、石でできた階段を上へ向って歩き始めた。

階段を上っていくと、最後の段の直前に1メートルほどの段差があった。祖母は迂回して上まで行ったが、僕は直登した。

体を最後の段まで、なんとか持ち上げて、横になった。それから、手足を持ち上げて、横にロールしながら、最後の段をクリアするつもりだった。

ところが、どんなに力をいれても手足が上に上がらない。祖母に引き上げてもらおうかとも思ったが、逆に祖母を転落させてしまう気がして、声はかけなかった。

どうして手や足が持ち上がらないんだろう?力を入れても持ち上がらない。このままでは落ちるのではないか。そう思っているうちに目が覚めた。起きてすぐにわかった。手や足を押さえつけていたのは、ふとんだった。

+++

俺が手術で内蔵しているICDという機械は、いざというときに心臓に電気ショックを出すだけではなく、俺の1日の心拍の波を記録している。そして、夜になると、ベッドの下に置いてある機械にその記録を移す。月に一回、その全記録が製造会社に送信される。

そんなわけで、俺も知らない俺の心拍を、製造会社は把握している。そして、その分析結果を医師に連絡する。

月に1回の外来では、医師がその分析結果を見ながら俺に話をしてくれる。
「4月5日の日、この日は何かありました?この日、1度だけ不整脈が出た記録があります。一瞬でしたけれどね。」
「マジですか?」

日記を持っていなかったのでそのときはわからなかったけれど、その日は休日出勤をして、それから夜は飲み会にも行った日だった。時間も聞いておくべきだった。

「それから血液検査の結果を見ると、体を酷使したときに出るホルモンが検出されているんですけど、最近、何か激しい運動をしませんでしたか?」
「昨日、ソフトボールの試合がありました。でも僕は3塁のコーチャーズボックスにいただけで、何もしてません。」

確かに、その外来の前日はソフトボールの試合があって、僕は3塁のコーチャーズボックスにいた。

こちらのチームの攻撃で、ランナー2塁、3塁のとき、ライトにフライが上がった。打球の方向から安打になると思った。だから、それをライトが捕ったときには驚いた。

2塁ランナーも3塁ランナーも飛び出していた。3塁ランナーは慌てて戻らせたけど、よりライトに近い2塁ランナーを戻らせられずアウトにしてしまった。

それからランナー2塁のとき、センター前ヒットがあった。2塁ランナーは迷わず3塁を蹴ってホームに向い、僕は止めなかった。中継はそんなに速くないとなめていたからだ。ところが、ホーム前でタッチアウト。

3塁コーチャーズボックスでただ立っていただけで2つもアウトを出してしまうなんて、信じられないような気持ちで呆然としていた。そう、俺は3塁のコーチャーズボックスにいただけで、本当に何もしなかった。

その試合の後、自転車で家まで帰った。腹筋も少しだけした。それが激しい運動ということなのだろうか?

「ところで、僕はもう試合に出ていいんでしょうか?」
一応、激しいスポーツは禁止ということになっていた。今、激しく左腕を動かすと、ICDと心臓を結んでいる金属の線が切れてしまうのだという。しばらく経つと、金属の線は心臓の筋肉に取り込まれ、切れないようになる。

「バット、振り回すんでしょ。ビュンビュンと。」
「そういうものですから。」
「うーん。大丈夫な気もするけど、デッドボールとかありますよね。」
「まあ、そうですね。」
「ICDにぶつかるかも知れないし、もう少し、様子を見ましょう。」

まさか、ソフトボールでのデッドボールを理由に試合出場を断られるとは思っていなかったので笑ってしまった。でも、ICDにイレギュラーが直撃することを考えると、確かにもうしばらくは難しいのかもな、と思った。俺はレギュラーのバウンドだって捕れないんだからなおさらだ。

+++

部下が酔っ払ったときに、「いつか話していた、リアル西遊記みたいな漫画、僕に貸してくださいよ。」と言ってきた。
「俺、そんなこと話したっけ?」
「聞きましたよ。腕の関節が左右つながっている猿の妖怪みたいなやつの話をしてましたよ。すごく面白いって言ってました。」
「西遊妖猿伝なあ。確かに面白いんだよ。何百という唐の軍隊と悟空が棒一本で戦うんだ。ただ、作者が長生きしてくれるかどうかが心配で。三蔵法師が天竺にたどり着くまで生きていてくれるのかが心配なんだよなあ。」

そんなわけで、部下に週に2回くらい、2冊ずつ諸星大二郎の「西遊妖猿伝 大唐編」(潮出版社)を貸していた。

monkeylegend


最近、行き帰りがバスなので、ついバスに乗っている間に、貸していた西遊妖猿伝を読んでしまう。妖しく、痛快なストーリーで、どうしてこの漫画があまり人気がないのかがよくわからない。

ゴールデンウィークの間につい、貸している巻以外、全16巻を読み終わった。読み終わった後、全く勉強していないことに初めて気がついたふりをして「何やっているんだよ、俺は。」と思った。