小さな頃の心の傷は、傷つけられたことばかりではない。傷つけてしまったことも、同じように傷になって、いつまでも忘れられない。


小学校の頃、夏休みの自由研究で、クラスであまり成績のよくない人気のない女の子が、自宅で飼っていたヤギに、いろいろなものを食べさせるという研究を発表していた。


「紙、食べた。草、食べた。スイカ、食べなかった。」
そんな発表が延々と続く。当時の僕には、ヤギが何かを食べるか食べないかは、全く興味がなく、大きな声で「くだらない」と言った。


中学生になって、やはり夏休みの自由研究で、今度はかなり賢い女の子が、ナメクジにいろいろなものをかけて反応をみるという研究を発表した。


「塩、小さくなった。砂糖、小さくなった。油、かわらない。」
そんな発表が続いた。僕はやはり、大きな声で「くだらない」と言った。


大人になって、ヤギが非常に好き嫌いがはっきりした動物で、除草には羊の方が優れていることを知ったり、ナメクジの皮膚はいわば半透膜なので、水溶性で高濃度のものをかければ、塩だろうが砂糖だろうが縮むことを知った。


そしてまた、愚直に実験を繰り返すことが科学の基本であることも知った。今から考えると、彼女たちは科学的に正しい道を進んでいて、僕は間違っていた。今さら謝ることもできないけれど、ずっと申し訳ない気持ちでいる。


そんな昔の傷を思い出したのも、先日、TEDで15歳の少年が初期のすい臓ガンの検査方法を開発したというプレゼンを見たからだ。
http://www.ted.com/talks/jack_andraka_a_promising_test_for_pancreatic_cancer_from_a_teenager?language=ja #


彼は、すい臓ガンに関連する8000のタンパク質データを全て調べて この中のどれかがすい臓がんを見つけるバイオマーカーとなるか調べ、最終的には特定をした。ものすごいことをしているようにも思えるが、やっていることは、ヤギにいろいろなものを食べさせるのと変わりはない。


このプレゼンを少年がしていること自体にも、僕は感銘を受けた。ジョークもほどよく効いていて楽しかった。この少年に比べて、僕はどれだけ子供だったことか。


科学の心を持とうと随分と小さな頃から思っていたけれど、やっていたことは他の人の心に芽生えた科学の芽を摘むことだったと思うと本当に、悔やむばかりだ。


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火曜日に出張先で会議があった。ほぼ毎月ある会議で、いつもそれなりに準備して出席するが、今までは特に問題になることはなかった。むしろ、資料は他の支所の見本になるようなものを提出するように心がけていた。


ところが、この日は僕が提出した議題が2件とも火だるまになった。確かに、少し今までとは毛色が違う微妙な問題をはらんでいた。譲れる話なら譲ったが、諸事情から譲ることができない。


「次回まで保留。」と宣言されて「なんてこった。」と思った。次回では3月になってしまう。そんなに長い期間、放っておけるような案件ではない。


技術担当が会議中にも関わらず、後ろを向いて手招きをしてくれる。会議を中座して外に出る。


2人で手分けをして、ブレークスルーができる論拠を探す。現場責任者の携帯番号を調べて裏を取る。技術担当と現場責任者が話しをしているのを聞きながら、補強材料が積み上がっていくのを感じていた。僕は隣でメモを取っていた。
「なるほど。そう考えるのか。」
30分ほど経った。かなりの根拠が積み上がった。会議が続いていたので、メモを持って再び席に戻る。


「先ほどの案件ですが、少しいいですか?」
火だるまになった僕ではなく、技術担当が説明をする。彼はメモを見ることなく話す。僕のメモは特に重要ではなかったが、自分自身の整理のためには必要だった。


僕は何も発言しなかった。技術担当の力だけで、なんとか説得することができた。
会議の後、救ってくれた技術担当に礼を言う。
「助かった。これで1つ借りができたな。」


言い終わった後、すごくでかい借りができたことに気がついた。いつかこの借りを返せと言われるんじゃないかと思った。とても返せない。慌てて「もちろん、返さないけどな。」と付け加えた。


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金曜日に、1日休みを取った。大雪が心配で、そして実際に警報が出るほどの大雪になれば職場に行かなければならなかったが、それほどひどくはならなかった。


自宅の前の雪かきを朝6時30分と12時にした。12時の雪は水を多く含んで重く、もう雪もピークを過ぎたことを感じさせた。


休みを取ったのは、もちろん、診療情報管理士の試験のためだが、思ったよりも進まなかった。進まないどころかほとんど止まっていたといっても過言ではない。こいつは本当に勉強する気があるのだろうか?と疑問に思うほどだった。


ただ、何となくだけど、試験に受かるかどうかという観点から見れば、別にそれほど頑張らなくても受かるんじゃないかという気がしている。たぶん、この油断が、僕を勉強から遠ざけているように思う。


それから、どれだけ頑張っても来週末に大雪警報が出たら試験どころではなく、仕事をしなければならないという思いも、勉強にブレーキを掛けている気がする。


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麻生みことの「海月と私」(アフタヌーンKC)をキンドルで1巻から3巻まで読んだ。


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廃業覚悟でこぢんまりと男1人で経営をしている旅館に、若くて美人で頭のいい女性が、突然、仲居として住み込みで働き始める。氏素性はわからない。


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あまりに都合がいい話で、経営者の男は「何か裏があるのでは」とずっと思っているが口には出さない。とにかくいてくれれば旅館は助かるのだ。春先の廃業予定も撤回してしまった。


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こういうダメ男(というほどでもないけれど)の困ったときに助けが現れるマンガというのは、ドラえもんを典型例としてよくある話しだ。でもネコ型ロボットならいいけど、リアルに「若い美人の賢い女」だったりすると厄介だよなあ、と確かに俺も思う。


厄介だけど、嬉しい。嬉しいけれど、相手の狙いがわからない。例え、結果はどうなっても、今はこの女を手放したくない、というのが、主人公の正直なところだろう。


主人公は、この美しくつかみ所のない海月のような女性を上手に扱って幸せになるのか、それともこの海月が隠し持っていた強烈な毒に倒れるのか、3巻以降も期待したい。