台風8号に翻弄された1週間だった。
夜の8時に電話がかかってくる。年齢は60代か70代だと思う。酔っぱらっているのか話していることが意味不明だ。
「はい?」
「はい?じゃねーわ。俺が死んじまってもいいのか!」
「どちら様ですか?」
「○○村の○○だ。川があふれたらどうするんだ。死んじまうぞ。馬鹿たれが。」
それだけ言って電話を切られた。全くもって意味不明だ。
一応、該当の村に電話する。村役場の人が説明をしてくれる。
「今、現場に行って、見てきたところです。工事現場にトンパック(巨大な土のう)が積み重ねてあって、そのうちひとつがずり落ちている。その下に水路が流れていて、そこに今後、落ち込みそう。落ち込むと水路をせき止めてしまう可能性がある。さらにその水路の下流に民家があって、そこに住まわれている○○さんが、心配をして、とても感情的になっている。」
「そういうことか。」
最初の電話では、俺には、最後の「とても感情的になっている」という部分しか理解ができなかった。台風が来るのはわかっていたんだから、工事担当者はトンパックが崩れないようにしておけよ。そう思いながら、対応を手配した。
それから台風のなか、わけがわからないまま現地を確認に行った村役場の職員のことを思った。彼もきっと「とても感情的になっている」という部分しか理解ができなかったのだと思う。それでもちゃんと現地まで行って確認をした。偉いよなあ、と思う。
そして、わめき散らしただけの年配の人をとても情けなく思う。こういう人は怒りで社会や家庭を今まで動かしてきたのだと思うが、こういう人こそ他人に依存し、人の善意に甘えている。せめて、客観的に何が起きているのか、正確に伝える努力ぐらいはしてもらいたいが、望むだけムダなのだと思う。彼はきっと、自宅を救ったのは自分だと思っているが、彼はただ大声をあげただけで、本当に救ったのは村役場の人だ。
その日も夜遅くまで残業をして、帰ってきた。翌朝、6時に目を覚ましたら晴れていたので、東京に行くことにした。もともと出張になっていたのだが、台風8号の対応で、行けないと断っていたのだ。
久し振りの東京は暑かった。2時間ほどの厳しめの会議を終えて、宿題をいっぱいもらって帰る。東京は時間距離が遠く、2時間ほどの会議でも1日がかりになってしまう。
僕が東京にいる間、台風8号のいろいろな後処理の話しが持ち上がってくる。部下と電話で話しながら、来週も忙しくなるなあ、と思う。まあ仕方がないことだ。
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家のウッドデッキに、ときどき猫が来て寝ている。
「コラ!」
と言うと、めんどくさそうにどこかに去って行く。
このウッドデッキの持ち主が俺だということはわかっているらしい。
どうやらウッドデッキに来ているのは1匹ではないようで、何種類かの猫が代わりばんこに来ている。
残業が続いて腹が減ってくると、カップラーメンを作るのも面倒なので、僕はシーチキンの缶詰を開けて、そのままフォークで食べていることが多い。
「何もつけないんですか?」と部下が言う。
「塩味がついているし、油漬けだし、べつにこれでいい。」
「猫みたいですね。」
「そっかあ?」
「係長の前世はきっと猫ですよ。」
「確かに、猫には好かれるんだよなあ。」
前世は猫かあ。「そうかもしれないなあ」と思った。
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竹村公太郎という人の「日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】」(PHP文庫)を読み終わった。
元国土交通省の役人が、日本史の舞台である「地理」の方に着目をして書いた本だ。
独自の視点で日本史に切り込む姿はなかなか勇ましく、説得力もあり所々で「うーむ」とうなった。
日本人にとっての旅行は、徒歩だった。という指摘にも「確かに」と思った。浮世絵を見ても東海道中膝栗毛での旅行を見ても、確かに徒歩だ。
旅行の時の娯楽として、今ならトランプなのだろうが、当時は将棋だった。それで、持ち運びが便利なように、チェスのような大きな駒ではなく、平たい駒にしたのだという。
いろんな発見がある本で、最後まで読んでいて楽しかった。このシリーズはあと2冊あるようなので、残りを読むのも楽しみだ。
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***おまけ***
統計の第7回目のテーマは絶対平均。
絶対平均を求めろなんて問題は、診療情報管理士ではたぶん出ない。だからめんどくさいと思ったら、飛ばしていい。ただ、分散や標準偏差の説明を聞いたとき、なんで2乗するんだよ、絶対値で計算すればいいじゃんって思うような人のために、一応説明をしておく。
事例)野球チーム『DPC』の9人の仲間が集まってそれぞれの年収を確かめた。Aさん400万円、Bさん500万円、Cさん500万円、Dさん600万円、Eさん600万円、Fさん600万円、Gさん700万円、Hさん700万円、Iさん800万円だった。
この事例をつかって「絶対平均」を出す。
(1)9人の年収を全部足して合計を出す。
400+500+500+600+600+600+700+700+800=5400
(2)合計を人数で割って平均値を出す。
5400÷9=600
(3)9人の年収それぞれから、平均値を引く。
(400-600)+(500-600)+(500-600)+(600-600)+(600-600)+(600-600)+(700-600)+(700-600)+(800-600)
さらに計算する。
=(-200)+(-100)+(-100)+0+0+0+100+100+200=0
(4)ここで、-(マイナス)の記号がついたものだけ+(プラス)に転換する。つまり絶対値化する。そして合計を出す。
=200+100+100+0+0+0+100+100+200=800
(5)合計を人数で割る。
800÷9=88.88…
〈解答〉88.9
〈余計なお世話の解説〉
1 絶対平均とは
絶対偏差の平均のこと。データから平均値を引き(これを偏差なんていう)、それを絶対値化する。それを全部足して、データの個数で割れば出る。
どうしてこんなめんどくさいことをするのかというと、平均値を知っただけでは、そのデータを持っているグループの個性がよくわからないからだ。
同じ平均値600万円でも、野球チーム『DPC』のようにいろんな年収の人もいれば、全員が揃って年収600万円の可能性だってある。そんなわけで、平均値を知った人は、次に、データはどのくらい散らばっているのか?ということに興味が移る。
そこで、それぞれのデータから平均値を引いて、それを合計して、その平均を取れば「データの散らばり具合がわかるのでは?」と考えた人がいた。
ところが、実際に、それぞれのデータから平均値を引いて、それを合計すると、計算式(3)でわかるように、合計が0になってしまう。
要は、平均値からどのくらい離れているかがわかればいいんだから、平均値を引いたときに、それを絶対値化しちゃえばいいじゃん、という発想で生まれたのが、この「絶対平均」だ。
今回、絶対平均は約89万円。ということは、この野球チーム『DPC』は大体、511万円(平均600万円から89万円を引いた額)から、689万円(平均600万円に89万円を足した額)の間に大体データがあるよ、ということになる。
2 絶対平均を求めるエクセルの式
B3のセルからJ3のセルまでに数値を入れ(データが9つの場合)、AVEDEV関数を使えば、一発で出すことができる。俺、今までこの関数を知らなかった。配列数列を使って長い式を書いていたけれど、超簡単じゃん。
=AVEDEV(B3:J3)
3 絶対平均を求める数式
(1)まず、平均値をAとする。
A=Σ(X)/N
Xはデータで、Nはデータの個数。
(2)データから平均値を引き、絶対値化したあと、合計する。
合計=Σ|X-A|
(3)これをN個というデータの個数で割ると絶対平均が出る。
絶対平均=Σ|X-A|/N
予告:次回は分散。データの散らばり具合を知るのに、今回はそれぞれのデータから平均値を引いて、それを絶対値化した。もちろん、これでいいんだけど、+(プラス)と-(マイナス)が混在しちゃうことが問題なら、「2乗すればいいんじゃねえ?」と思った人が考えたのが、分散。



