火曜日に長野市で会議があった。前日の月曜日(祝日)のうちに長野まで行って、温泉に泊まることにした。


予約をしたのは2週間ほど前だった。それから仕事上の問題がいくつか浮上してきていた。つらいなあと思ったときもあったが、そんなときに、温泉宿に泊まることを考えると、つらさも少しは軽くなったような気がしていた。


長野駅から電車に乗って、最寄り駅に向かう。最寄り駅からはバスが出ているようだったが、時刻表を見たら2時間も待たなければならないことになっていたので、諦めてタクシーに乗った。


その温泉では、地元の人たちも夜の9時頃までは日帰り入浴ができることになっていた。
フロントで、宿泊だと言ったら怪訝そうな顔をされたので「宿泊のフロントは別なんですか?」と聞いたのだが、どうやらそういうことではなく、ただ単に、宿泊客というのが珍しいだけの話しだったようだ。


確かに中年の男が1人で来て、温泉宿に泊まるなんていうのは珍しいのかもしれない。つげ義春のマンガのようだ。なんとなく「絶望」といった漢字が頭に浮かぶ。


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宿泊する部屋まで案内してくれた仲居さんは、日本語が苦手のようで中国人のようだった。「歓迎、○○様御一行一名様」とドアの入り口の脇にでかでかと書かれた紙が貼ってある。「御一行一名様」というのが、なんとも「たまんねえな」という気分にさせられる。


部屋は暖房が効いた暖かな部屋で、もう布団が敷いてあった。


夕食は頼んでいなかったので、温泉に入ることしかすることはなかった。大きな温泉が旅館のなかに2カ所あって、その両方に入った。


10時を過ぎると、日帰り入浴客がいなくなる。その時間帯に露天風呂に入りに行った。もうその時間では、誰1人として温泉に入っている人はいなかった。


刺すような冷たい空気を顔に感じながら、暗い景色のなかに、温泉の白い蒸気が上がっていくのをぼんやりと見る。軽い硫黄のような刺激臭があるが、不快ではない。「来てよかったなあ」と思いながら温泉につかっていた。


たぶん多くの人は明日仕事だから、こんな日に温泉に泊まる人は少ないだろうと僕は思っていた。読み通りにガラガラで「本当に来てよかった」と思いながら、曇りで星も見えない空を眺めた。


翌朝、起きた後、朝食前に温泉に行った。1人のおっさんが温泉にいただけだった。そのおじさんが出て行くと、また貸し切り状態になった。朝の露天風呂も気持ちよかった。


朝食は7時からだった。食事に行くと、少し年配の仲居さんが待っていてくれる。
「今日、朝食を食べるのはお客さん1人だけです。」と言う。
「俺しか泊まっていないの?」
「もう1人いますけど、その方は素泊まりで朝食を食べないんです。」
「俺1人のために仕事してもらっちゃって申し訳ないね。」
「いえいえ。貴重なお客さんですから。」


それからその仲居さんは「やっぱり普通の皆さんは、大切なクリスマス・イブですから、来られないみたいです。」とつい本音を言ってしまい、それから「しまった」という顔をしていた。
「そうだよね。」


朝食はまあまあおいしかった。俺1人のためだけに、貴重なクリスマス・イブに仕事させてしまって申し訳ないなあ、と皮肉抜きに思った。


食後にもう一度だけ、風呂に入りに行った。今度は誰にも会わなかった。


会議に行く前に、以前の職場が近くだったので寄ってみた。みんな親切で嬉しかったし、多くの人が一緒に飲みたがってくれた。
今の職場が男ばかりの所で、女性が少ないせいもあるけれど、随分ときれいな女性がいるところで仕事していたんだなあ、と思った。


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木曜日は課の忘年会で、昼神温泉に行った。僕は幹事だった。
何か演し物をしてくれと前日の夕方5時に言われて、それから部下2人をフルに使って、ネタの仕込みをさせ、僕自身は演し物のシナリオを作った。


演し物は想像以上にうまくいった。でも、やはり想像以上に飲んでしまい、翌朝は朝食を食べた後、風呂に入ったら、もう動けなくなった。


午前中は休みを取っていたので、チェックアウトの10時近くまで寝ていた。
幹事の部下が各部屋を見回りし、缶ビールの缶を集めたり、ゴミを回収している。
俺が寝ているのを見ると「まだ寝ているんですか。」なんて言う。
「寝てないよ。」
「寝てるじゃないですか。」
「寝てるんじゃなくて、君を応援しているんだよ。頑張れって。」


昼前には職場に行った。最終日なので、鰻重が配られることになっている。
あまり食欲はなかったが、美味しいので食べてしまう。


午後はその鰻重のせいで、多くの人が二日酔いがさらに深まったようで、課全体がどんよりとしていた。


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28日から冬休みになった。1日をムダにしないように、毎朝5時30分に起きて温泉に行くことにしていた。


朝風呂がこんなに疲れるものだとは。温泉から帰ってくると、午前中いっぱい眠ってしまい、午後もひたすらダラダラとしていた。


改めて、試験までもう1か月を切ったことを思う。この休みのうちになんとか体勢を立て直して、頑張りたいと思う。