先日、職場に外国の方々が視察に訪れた。
担当ではないので、どこの国の人達なのかはよくわからなかったが、集合写真を撮ってくれと頼まれたので、撮りに行った。
信じられないような話だが、僕は写真を撮るのがうまい、ということに職場ではなっている。職場での写真では、要求される構図がだいたい決まっていて、基本的には言われたとおりに撮ればいい。
そして、その後の加工技術が、僕は少しうまい。
斜めに撮った写真をまっすぐに、暗い写真を明るく、淡い色をはっきりと。
ときには、メモリーカードからうっかり消してしまった写真を取り戻してあげたりもする。
そしてそんなコンピューター上の技術があるせいで、僕は写真を撮るのがうまいことになっている。
撮りに行ったら、カンボジアの名札を掛けた人が英語で話しかけてきたので話をした。
カンボジアの教育の話をしてくれたが、優秀な人なんだなあ、という気がした。
集合写真を撮るとき、やっぱりかけ声は「cheese!」なのかなあ。と思っていた。
笑顔にするには、基本的には「イ」の口の形にするべきだからなあ、と思った。
僕の前にやっぱり集合写真を撮る人がいて、その人が「One、Two、Three!Nelly」と言っていたので、「何、そのNellyって?」と聞いてみたら、その視察の参加者の名前なのだという。
なるほど。
僕も上司の名前で言ってみた。「ワン。ツー。スリー。ヒロシ!」
笑顔なのか失笑なのか、笑いが起きて、成功したのか失敗だったのか、よくわからなかった。
土曜日に、義理の兄が運転する車に乗って、一緒に名古屋の病院へ行った。
姪の表情はこの1週間でだいぶ変わっていた。
1時間ほど、姪の手を握って祈っていた。
ここ何日か、続けて姪が目を覚ます夢を見ていたので、行くのが楽しみだったのだが、顔が腫れて痛々しい表情になっていた。
姪の車を運転して帰ることになっていた。
「明るいうちに帰った方がいい」と義理の兄が言うので、6時頃には姪の服や食器を姪の車に積み込んで、名古屋を出発した。
姪の車を運転しながらトリップメーターを見たら、まだ300キロ程度しか走っていなかった。
やれやれ。という気がした。
その日は、姪の服や食器を義理の兄の家に運び込んで、実家に帰って10時頃には寝てしまった。
翌朝、たっぷり寝たはずなのに、なかなか起きられなかった。
午前10時に人と会う約束をしていたので、「それまでには準備をしなくては」と思っていたが、7時に起きてもまだ眠くて、また寝てしまった。
心臓がズキッと一瞬痛み、それから何事もなく寝ていた。
9時頃にはようやく起きて、人と会う準備をしているときに、姉から電話がかかってきて、姪が7時30分に息を引き取ったと教えてくれた。
考えてみれば、今日は司法書士の受験日で、僕は願書は出したものの、大して勉強もしていなかった。
結局、会場にも行けない運命だったんだな、と思った。実は姪が病気になる以前から、何かが起きて試験会場に行けないような、そんな気がしていた。
義理の兄の家を掃除して、姪が到着するのを待った。
姪は顔の腫れが引いて、少しきれいになっていた。
なにか微笑んでいるように見えた。
動物病院から、姪の飼い犬を引き取って、姪に会わせてあげた。
犬は元気に飛び回って、哀しみに打たれたみんなを和ませてくれた。
ババ抜きをすると、いつも負けて泣いていた姪。
「幼稚園でキスしたの」と、こっそり教えてくれた姪。
俺「どうだった?」
姪「面白かった」
姪は幼稚園のときに、サンディエゴで暮らすことになった。
「サンディエゴで幼稚園に行けるなんて、幸せだね」と僕が言うと、姪は小さな手で僕の手を握りしめて「私は幸せじゃないの。今の幼稚園にいたかったの」と僕に言った。
本当にかわいい姪だった。
世間は、こんなかわいい姪が死んでしまっても、当たり前に動いている。
世間になんらかの影響を与えるほどには、彼女はまだ生き足りていなかったのだ。
姪が死んでしまうなんて、僕にはまだ信じられない気分だ。
運転しながらいつもと同じ、世界を眺める。
そして悲しくなってくる。
昨日の世界と今日の世界は違う。
もう彼女は戻ってこない。