今週は会議や出張が多い週だった。
出張も嫌いではないけれど、その間、通常業務を誰かほかの人がしてくれるわけでもないので、その点が出張していても気がかりだ。
特に今週末は、月末の締め切りをいくつも抱えているにもかかわらず、金土日が3日続きの東京研修だった。
29日の日曜日も夕方5時までびっしりと研修。


11月はあと30日の1日しかない。
本来であれば、今週末は職場で残業をしていなければいけないのに、俺はこんなところで、役に立つのかどうかも不明な研修などに来ていていいのだろうか、と研修帰りの夜道でお月さまに問いかけてみたりした。
東京では大きさを比較するものが多いためか、夕日も月も妙に大きく見える。


今回の研修会場は水道橋駅の近くだった。
研修開始の2時間前に東京駅に着いてしまったので、JRお茶の水駅で降りて、それから水道橋駅まで歩いて時間をつぶすことにした。


お茶の水。
僕は東京でこの町が一番好きだ。
学生が多く、本と音楽の店が多い。
僕は浪人時代、このお茶の水にある駿台予備校に通っていた。


駿台予備校で、僕は文2βというクラスに通っていた。
成績順に並ぶそのクラスで、僕の席の4列前に「しょうこ」と友達から呼ばれているとてもかわいい子がいた。
あと、もう少し勉強ができていれば、彼女の隣の席に座れたのに。
僕は彼女の隣に座りたい一心で、夏ごろまでかなり勉強をした。
現役のころ、日本史は平安時代までしか勉強が進んでいなかったが、室町時代くらいまで勉強を進めた。


秋の席替えで、僕は驚いた。
僕はしょうこちゃんを抜きすぎてしまい、クラスまで替わってしまった。
僕は悲しかった。
あまり予備校にも行かなくなり、友達と高尾山に登りに行ったり、友達の家を飲み歩いたりしていた。
大学に入ってワンゲルに入部したとき、同期の1年は僕と同じ駿台予備校文2βのクラスだったという。
「俺、おまえのこと覚えているよ。浪人生のくせに派手なやつがいるなあっていつも思ってた」と彼は言った。
そう。当時の僕のファッションセンスは派手しかなかった。


長野の田舎ではどこに行っても知り合いがいて、狭くて嫌だとずっと思っていた。
神田にある三省堂の絵本売場で、僕は朝から晩まで立ち読みをして、それでも誰も声をかけてこないのに驚きもあったし、嬉しかった。
東京って自由な街なんだって思った。


その頃、お茶の水にあった美容院に毎月通っていて、お姉さんと仲良くなって、いつもいろんな話をした。
あるとき、僕が遊び歩いていたとき、帰り際に、店の外まで追いかけてきて「ちゃんと勉強しなさい!」って怒られたりした。


新年になって、僕はしょうこちゃんに手紙を渡すことにして、心を込めて手紙を書いた。
彼女が帰るときに、追いかけた。
立ち食いそば屋の前で追いついて、手紙を渡した。


手紙を渡したとたんに、僕は自分の気持ちの整理ができて、それから初めて真剣に勉強を始めた。
新年になってからの本格的な勉強だったから、かなり遅かったけれど、それでも日本史も江戸初期くらいまで終わった。


そんなわけで、江戸中期以降の問題が出た大学は軒並み落ちたけれど、そうでもない大学には受かった。
もともと地学だけは自信があったので(駿台予備校でも2位だったことがある。文系なのに。)、最終的には公立大学に進むことができた。
しょうこちゃんにはあれ以来、一度も会っていない。


お茶の水の駅で降りて、予備校まで歩いてみた。
変わったところも変わらないところもある。
あの立ち食いそば屋はまだあって、嬉しかった。
随分ときれいになっていたけれど、僕が通った予備校の校舎もまだあった。


考え方も未熟で、甘さと不器用さばかりがあったあの頃のことを思い出すと、いろんな意味で残念な気がする。
でも、そんな自分も許せる気持ちがあるのも事実だ。


水道橋まで歩く。
水道橋にあるLECという司法試験予備校に、大学3年から4年にかけて、僕は大学よりも長い時間通っていた。


水道橋駅近くの日大の教科書を売っている店に入ると、何もかもが変わっておらず、ついつい「択一受験六法」や「伊藤真の商法入門」などを手に取ってしまう。
「もうこういう勉強やめたんだろ。」
はっとして、手を離したりする。


時間があったので、「さかいや」という山の道具を売っている店にも行ってみた。


My Kiasu Life in JAPAN-オピネルのナイフ

随分とおしゃれに、そして専門化しており、記念にオピネルのナイフでも(フランス製の折りたたみナイフ。すごく安いが1回の山行で必ず錆びだらけになる。このナイフがすごいのは、錆びだらけになることを計算してあり、錆びて開かなくなっても、岩に柄尻を叩きつけると開く構造になっていることだ)買って帰ろうかと思ったけれど「今さら何に使うんだよ」と思ってやめた。


研修は思ったより厳しかった。
何度もロールプレイをしたのだが、求められていることが高度で、とても疲れた。

東京に出張している間に、カリフォルニアに住むクリスから勧められたドン・ミゲル・ルイスの「四つの約束」(コスモス・ライブラリー)を読んだ。


My Kiasu Life in JAPAN-四つの約束

こういうスピリチュアル系の本は、あまり手に取らないし、危ない気もしていたけれど、内容はとてもまっとうで、読んでいるうちに心が少し軽くなった。
「社会ではなく、自分に対して正直に生きることが大切。そして、いつもベストを尽くせ。」
人の評価を生きていくうえでの基準にするな、という教えがとても筋が通った話のように感じて、その点がよかった。


和田仁孝と中西淑美の「医療コンフリクト・マネジメント-メディエーションの理論と技法-」(Signe)も読み終わった。


My Kiasu Life in JAPAN-医療コンフリクト

少しは学べた気がするが、紛争解決をできる自信は僕にはまったくない。


長野に着いたとき、雨が降っていた。
明日からの仕事を思うと気が重くなる。
俺、週末、お茶の水と水道橋にいたんだっけ。
今となっては、何もかもが遠い世界の話しのような気がする。