職場の建物から飛び降り自殺をした人がいた。
誰だか知らないし、僕はそのときに、職場にいなかったから知らなかったけれど。


警察が帰ってしばらくして、飛び降りた場所に血が残っているというので、バケツとブラシを持って出かけた。
小さな肉片が落ちていたので、ゴム手袋をしてビニール袋に入れた。
それから掃除をして、バケツで何度も水を撒いた。


皆、嫌がるけれど、僕はこういう仕事は平気だ。
何があったのか知らない。
彼がどんな人だったのかも知らない。
彼自身も見たことがない、彼の体の一部を、こうして何も知らない俺がつまんでいるというのも、考えてみると不思議なことだ。


いろいろあったかも知れないけれど、とにかく、安らかにな、と思った。


火曜日に、夜遅くまでかかる会議があった。
会議終了後、ナンバー2が来て、俺の斜め前の席に座ってウイスキーをストレートで飲み始めた。
「チェイサーはどうする?」
「そんなものは、いらない。」
そう言われても、俺はチェイサーを出すべきだったと後になってから思った。
俺は話しを合わせながらウイスキーを飲まないまま仕事をしていた。


なぜ収益が改善しないのか、最初はそんな話題で飲んでいたけれど、俺が貸していた「ミレニアム」の話題になった頃から、暴走が始まった。
「ああいう個人名を出して、こいつがこんな悪いことをやっているって糾弾するような雑誌って日本にないね。」
「そうなんだよね。日本のマスコミって、政府発表を鵜呑みにして、それを右から左に出すだけでしょ。勉強をしてないんだよ、基本的に。」
酔っ払いのたわごとに火がついたら、どんどん油を注ぎ込む。
どうしてそんなことをするかというと、どんな方向に話が進むかわからなくて楽しいからだ。
「やっぱり、プロというものは、失敗したら破滅だっていう世界で、全力を尽くす姿勢が大切なんだよ。」
「そういう姿勢のマスコミって少ないよね。自分が報道機関なのに、取材を一切せず、新聞社が発表する記事を元に得意げにテレビで報道している番組もあるくらいだしね。」


2時間30分ほど飲んで、彼のボトルは半分程まで減っていた。
彼が帰り、僕も一段落がついたので帰ることにした。


ナンバー2が出口から10mの所に座り込んでいた。
「どうしたんですか。だめじゃないですか、こんな所に座っていたら。」
「立ち上がれないんだ。」
考えてみたら、彼はチェイサーもなしで、ずっとストレートで飲んでいたのだ。
「このまま待ってて。車持ってくる。」


駐車場まで走っていき、急いで車で職場に乗り付ける。
抱え上げようとするが、なかなか立ち上がらない。
「大丈夫?家まで送っていくから。」
「俺、もう死にそうだ。」
「死ぬ?まじで?ストレートだったからなあ。」
とりあえず、自販機でアクエリアスを買って飲ませる。
職場に戻り、まだ仕事をしている女の人がいたので来てもらった。
死にそうだという彼を2人で抱え起こして、車に乗せ、その女性に家までガイドをしてもらった。
家はすぐ近くだった。


翌日、彼に会った。
まだ気持ちが悪い、と言う。
やっぱりチェイサーを出しておけばよかったよ、と話した。


真保祐一の「デパートへ行こう!」(講談社)を読んだ。


My Kiasu Life in JAPAN-デパートへ行こう!

すべてを失った男が、夜を過ごすために思い出深いデパートに行く。
と、ここまでの流れがとてもよかったので、期待していた。


でも、この後の流れは最悪で、読むだけ本当に時間の無駄だった。
決してヘタではないけれど、志が低い作品で、登場人物が浅く愚かだ。
人には薦めない。


そういえば以前、名古屋の某デパートで1週間ほど働いたことがあった。
ほとんどの時間を催事場とバックヤードで過ごした。
バックヤードには壁紙もないし、雑多な荷物や段ボールが置いてあるだけで、華やかさは全くない。
徹底的に予算を削ってある。
ちょうどその頃、風邪を引いていて、熱が38度以上あった。
本を読みながら、久し振りにその頃の体調やら、暗いバックヤードの風景が頭に浮かんだ。
「重労働だったんだよなあ、あのときは。」
何千冊というパンフの梱包を解いて、台車に並べて、抽選会場を作って、抽選会をして…。
デパートの社長と飲み会の時に、名刺を忘れて、熱があるのに職場まで走って取りにいったこともあった。
あのときは消耗したなあ。
今となってはそれもすべて遠い思い出だ。


DVDで「大阪ハムレット」を見た。


My Kiasu Life in JAPAN-大阪ハムレット

何がいいのかさっぱり、と思いながら観ていたが、1時間ほどしてふと気がつくと涙ぐんでいた。
松坂慶子がいい。岸部一徳もいい。
でも圧倒的なのは次男の演技のよさだ。


My Kiasu Life in JAPAN-大阪ハムレット1

脚本を読んだら「??」って感じの映画だと思う。
でも、いい。理屈抜きに、いい。
じわじわと良さがわかってくる。


My Kiasu Life in JAPAN-大阪ハムレット2

生きるべきか死ぬべきかって、
生きとったらそれでええやん。


西原のマンガにも通じるこの太いテーゼ。
やられたなって最後には思った。