12月29日に実家に帰った。
テレビを見ないようにしていたら時間ばかりがたくさんあった。
お墓参りをしたり、駐車場代を払いに行ったり、生牡蠣の殻を剥いたり(今年も50個も岩牡蛎が届いた)、細かい買い物なんかを頼まれてしたけれど、基本的には暇だった。
こんなにやることのない贅沢な時間の使い方ができるのは、本当に久しぶりだった。


暇だと、僕は本を読む。
小学生の頃、隣の家に別のクラスの女の子が住んでいて、ときどき僕を見ている、と言っていた。
「僕、何していた?」
「いっつも本を読んでる。」
自覚はあったけれど、人に言われると新鮮だった。
きれいな女の子だったけれど、恋とかには発展しなかった。
大切なストライクを僕はいつも見逃す。


29日から31日までに、漫画2冊と本を6冊読んだ。
漫画は石川雅之の「もやしもん」(講談社イブニングKC)7巻と、浅野いにおの「世界の終わりと夜明け前」を読んだ。


「もやしもん」7巻。


My Kiasu Life in JAPAN-もやしもん7

僕には、あれだけの才能を埋もれさせておく樹教授の教育者としての無能さ、そうでなければ怠慢な態度が許せない。女の子がゴスロリ着ているのも、もういい加減飽きろよって言いたくなる。
僕にはもう「もやしもん」は意味のない豆知識獲得漫画でしかない。


「世界の終わりと夜明け前」。


My Kiasu Life in JAPAN-世界の終わりと夜明け前

浅野いにおの絵はとてもうまいし、本当に天才なんだろうと思う。
でも、いつまでも同じところで足踏みをしているような感じがする。狭い世界の小さな問題をえぐる漫画もいいけれど、もっと大きな視点で、大きな問題を描いてほしい。


本はスティーグ・ラーソンの「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」(早川書房)上・下巻、海堂尊の「チーム・バチスタの栄光」(宝島社文庫)上・下巻、梨木香歩の「西の魔女が死んだ」(新潮文庫)、トルーマン・カポーティ(村上春樹訳)の「ティファニーで朝食を」(新潮文庫)を読んだ。


「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」は世界で800万部を売ったスウェーデン発のベストセラーだ。


My Kiasu Life in JAPAN-ミレニアム1 上

読み始める前に、冒頭に載っている北欧の地図や、ヴァンゲル家の系図、登場人物表を眺めたときには、その広がりの大きさに読み切れるかどうか不安になったものだが、上巻の中ほどから一気に止まらなくなった。


もともと小学生の頃から、僕はスウェーデンの小説が好きだった。
「ニルスのふしぎな旅」も「長くつ下のピッピ」もスウェーデンだ。
少し範囲を広げて北欧ということであれば、アンデルセンから始まって、怒ると髪の毛が逆立ち火花を散らすトールの神が出てくる「北欧神話」まで、小学生の頃にかなりの量を読んだ。
僕の基本的な価値観の一部は「ニルスのふしぎな旅」で形成されたと自覚しているところもあるし、ピッピは当時の僕の憧れだ。


My Kiasu Life in JAPAN-ミレニアム1 下

ミレニアム1に出てくるドラゴン・タトゥーの女ことリスベット・サランデルは、訳者あとがきによれば、長くつ下のピッピがモデルになっているという。
彼女の非凡さはすべてにわたっていて、精神的に問題があるとしても、俺はどうしてもこういう女に憧れてしまう。
上巻のラストで、彼女が弁護士である後見人に復讐をするシーンは、暴力的かつ理知的でいつまでも印象に残る。


「チーム・バチスタの栄光」もサスペンスの形で社会に問題点を訴えるという点で、「ミレニアム1」と似たタイプの小説だ。


My Kiasu Life in JAPAN-チーム・バチスタ 上


My Kiasu Life in JAPAN-チーム・バチスタ 下

上巻はダレるが、下巻で厚生省官僚である白鳥が現れてから、とたんに話が生き生きと動き出す。白鳥の存在がこの本をユニークなものにしている。
面白い小説だが、ベースには作者の勤務医としての静かな怒りがある。医師のおかれている現状はこうで、このように改善すべきだ、という骨太の主張を、サスペンスの形で読者に飲み込みやすくしている。
スケールや人物の多様性と言うことでは「ミレニアム1」に劣るが、サスペンスとしてのできはかなりいいと思う。


「西の魔女が死んだ」は、中学生になったばかりの少女が、イギリス人のおばあちゃんの元で立ち直る小説だ。


My Kiasu Life in JAPAN-西の魔女が死んだ

少女の純粋さ、鼻につく小生意気さ、弱さ、潔癖さ、偏見、自分や自分を守ってくれるものへの愛情…。
この小説の中には、そんな「少女」しか持っていない世界が切り取られている。
中学生の頃、トイレに行くのにも手をつないで行く同級生の女の子たちを、僕は「へんな奴ら」と冷めて見ていたけれど、確かに彼女たちが持っている世界には、俺には思いもよらないような美しい部分がある。
そして、僕はこうして少女の世界を読んで、「ふーん」と思う。
その程度が、互いのために、いいんだと思う。


「ティファニーで朝食を」を僕は読んだことがなかった。


My Kiasu Life in JAPAN-ティファニーで朝食を

読むまでは、オードリー・ヘップバーンのようなかわいい女の子が出てくるラブコメディーだと思っていたけれど、女の子(ホリー)はかなり性悪な美人だった。
主人公はホリーの倫理観に、とてもついていけない。ホリーも主人公の倫理観に合わせるなんてまっぴら。派手好きで無鉄砲で前後の見境がなくて状況判断ができない。論理的に考えれば最悪の女なんだけれど、主人公同様に、僕も惹かれる。
ホリーが星占いと縁を切ったときのセリフが印象的だ。
「退屈な結論だけど、要するに『あなたが善きことをしているときにだけ、あなたに善きことが起こる』ってことなのよ。」
読み終わって、僕はホリーを失った主人公と同様の寂しさとほっとした気持ちと、世界中のどこかにいるはずのホリーを見守る温かい気持ちに包まれた。
それから、この本に一緒に載っている「クリスマスの思い出」はとてもいい話で、幸せとはどういうことか、とても考えさせられる。


年末に友達と携帯電話で話をした。
「私はやっぱり、今年のベストの映画は『ダークナイト』だった」と彼女はいう。


My Kiasu Life in JAPAN-ダークナイト1

「俺は『イントゥ・ザ・ワイルド』かなあ?」
「私はその映画、たぶん観ないと思う。つらくなりそうで。」


彼女が薦めてくれた映画がよかったおかげで、今年は良質の映画を多く観ることができた。
映画について言えば、個人的には『落下の王国』を映画館の大画面で観られなかったことが、少し心残りではある。


2008年に僕が観た映画・DVDのベスト10。


1 イントゥ・ザ・ワイルド
「自由」とか「個人の尊厳」が世界中で何よりも大切な概念だ、と信じてきた僕にとってはかなり衝撃的な作品だった。日本でのさまざまな評価を読むことがあるけれど、この映画の本質を突いていると僕が思えた評価にはまだ出会っていない。考えどころが満載。僕は今でもときどきこの映画のことを考える。


My Kiasu Life in JAPAN-イントゥ・ザ・ワイルド

2 インファナル・アフェアⅡ


My Kiasu Life in JAPAN-インファナル・アフェアⅡ

3 スパニッシュアパートメント

My Kiasu Life in JAPAN-スパニッシュアパートメント

4 吠える犬はかまない
My Kiasu Life in JAPAN-barkdog2

5 海辺の家

My Kiasu Life in JAPAN-海辺の家
6 サンキュー・スモーキング
My Kiasu Life in JAPAN-サンキュースモーキング

7 ホット・ファズ

My Kiasu Life in JAPAN-ホットファズ
8 ノッキング・オン・ヘヴンズ・ドア

My Kiasu Life in JAPAN-ノッキング・オン・ヘブンズドア1
9 π
My Kiasu Life in JAPAN-パイ

10 運命を分けたザイル


My Kiasu Life in JAPAN-運命を分けたザイル1

それから、昨年はあまり本を読まなかったし、漫画も手放しで褒めるほどいいものに出会わなかったから、本と漫画のベスト10はなし。


正月は午前中に実家の外側を巡っている水道管が破裂するという華々しいイベントで幕を開けた。
水道管から道路に向かってスプリンクラーのように水が噴き出している。
通りがかりの人が教えてくれたので、家を飛び出した。


止水栓が見つからないので、とりあえずガムテープで水の吹き出し口を押さえ込んで、業者に連絡をとった。
30分ほどで来てくれた。
業者の人が手際よく、水道管を交換するのを眺めていた。
こんな故障が他でもあるらしく、作業中にも、業者の人の携帯電話には次々に仕事の依頼がきていた。
「請求書はまた今度お持ちします。」
正月に呼び出して申し訳ない、と帰りに日本酒を1本渡した。


それから初詣に行ったり、親戚の家に挨拶に行ったりもしたけれど、暇なときは布団に潜ったまま漢字検定2級の本を眺めていた。
「要は単純に記憶力勝負の試験ってことだろ。」
見ているうちに、簡単な試験のように思えてきた。
遅くとも3月までにはちゃんと勉強をして、2級の資格を取ってしまおう、と思った。


3日の夜に長野に帰ってきた。
P!NKの「SO WHAT」と斉藤和義の「SUNDAY」を何度も車のなかで聴いた。


My Kiasu Life in JAPAN-P!NK ファンハウス

My Kiasu Life in JAPAN-俺たちのロックンロール

家に着くと、年賀状が届いていた。


微笑ましい気分で年賀状を読んでいたが、昔、赤坂の駅前で俺が制止するのも聞かず駐輪してあった自転車を蹴り倒していた男から「もうそろそろ大人になりましょう。」と一言だけ書いた年賀状が届いていて「ふざけるな」と怒った。