一週間、毎日10時過ぎまで残業をしていた。
それでもまだ帰るのは早い方で、他の係員は全員、僕が帰った後も残業をしている。
金曜日にもなると頭がぼんやりとしてくる。
それでも月曜日締め切りの仕事がいくつかあるので、残業もしなくちゃいけないし、日曜日も仕事をしなければならない。
仕事ばかりの人生で、何が楽しくて生きているのかさっぱりわからない。
木曜日に出張していた同僚が、出張先で受けた研修の講師が、僕のどストライクの女性だった、という。
「俺にどストライクの女ってどんな女なんだよ。」
「基本的にツンデレ系ですよ。きっついんだけど、2人だけになると甘いって感じの。」
「俺ってツンデレ系が好きなのか?」
「絶対好きですよ。Mだし。」
「俺が?」
考えてみたら確かに好きかもしれない。
考えているうちに派手好きでさっぱりした女が僕はかなり好きなような気がしてきた。
「確かに好きかも。」
「でしょう?」
暖房の切れた部屋で残業しているときに、楽しいのはこんな会話だけだ。
土曜日は1日休むことができた。
髪を切って、帰りに鶏の胸肉を買って帰ってきた。
キッチンがきれいになったので、料理も楽しい。
鶏の胸肉をフライパンで焼いて食べた。
土曜日の深夜、なかなか寝付けなくて「真珠の耳飾りの少女」という映画をDVDで観た。
スカーレット・ヨハンソンの演技も素晴らしいが、何よりも構図が美しく、風景の切り方が、絵画のようだ。
静かな映画だが、観ているうちにじわじわと心に沁みてくる。
この映画を観れば、「真珠の耳飾りの少女」という絵の歴史や背景、奥行きといったものを知ることができる。
本当に価値あるものというのは理解するのに時間と能力が必要だ。
今は時間も能力も仕事に費やしているので、趣味にまで手が回らない。
以前は、俺は自分の人生のために仕事をしているんであって、仕事のために生きているんじゃない、なんて格好のいいことを言っていたが、もう完全に逆転した。
俺は仕事のために生きている。
…なんて人生だ。
今、数冊の本を行き帰りの電車の中で読んでいるが、なかでもスティーブン・ミルハウザーの「ナイフ投げ師」(白水社)という短編集は本当に毒がある。
まだ途中なので、最終的にいい本なのか判断できない段階ではあるが、この短編のなかに入っている「ある訪問」という話しは気分が悪くなる。
親友が、結婚したから家に来い、と9年ぶりに手紙をくれる。
そこで、遠くの過疎化した街まで車に乗って会いに行く。
その親友の結婚した相手というのが、アリスという名の60センチほどの巨大なカエルで、2人は本当に仲良くしている。
その2人を見ている主人公の心理描写が実にリアルで、主人公同様、段々と気分が悪くなってくるのだ。
本の帯には「ミルハウザーを好きになることは、吸血鬼に噛まれることと似ていて、いったんその魔法に感染してしまったら、健康を取り戻すことは不可能に近い」とある。
以前読んだ似たタイプの、バリー・ユアグローの「たちの悪い話」よりも読者を引きつける力は弱く、難解だ。
作者の技術の高さには驚かされるが、こういう本は理解するのに本当に力がいるので、どうもなかなか読み進める気にもなれない。
ひぐちアサの「おおきく振りかぶって」(講談社)の11巻が出ていたので買ってきて読んだ。
10巻目を読んでしばらく経つので、もう誰が誰やら話しももうすっかり忘れていて、それほど楽しめなかった。
日曜日の午前中、先週とは別の友達が部屋の掃除を手伝ってくれた。
冷蔵庫や電子レンジ、流し台の下にある引き出しを掃除してくれた。
電子レンジの奥からは真っ黒に小さく乾燥したソーセージが出てきて、笑った。
部屋は本当に格段にきれいになりつつある。
きれいな部屋で生活するのはとても嬉しい。
午後は、仕事に行った。
別に話し合っていたわけでもないのに、係員がほぼ全員そろっていた。
昨日も来たという同僚もいた。
細かい資料を作成して、同僚と話し合って何度も作り直す。
7時過ぎに疲れて帰ってきたが、まだまだ残っている係員がほとんどだ。
俺にはもうそんなガッツもない。
家に帰って、きれいになった部屋で静かにタバコを吸う。
自分の部屋でタバコを吸うなんて、もう何年ぶりだろうか。
高校時代に部屋でタバコを吸っていて、母親に怒られたことを、ぼんやりと思い出した。
**おまけ**
(おいしい)鶏の胸肉の焼き方。
1 フライパンを熱し、オリーブオイルをなじませる。
2 火を弱めて、塩を軽く振った鶏の胸肉を入れる。油がパンパンと破裂するほどの熱にはしない。シューシューという音がベスト。
そうは言っても油は跳ねるので、鶏を焼きながら、キッチンペーパーで余分な油をどんどんと拭き取っていく。
3 7分ほどしたらひっくり返すが、このときにも一応、オリーブオイルを引き、香り付けをする。そして、余分な油を拭き取る。
4 鶏肉の場合には、焼いている最中に出てくる肉汁はすべてキッチンペーパーで拭き取っていい。
5 両面であわせて15分ほど焼くと、だいたい食べ頃だ。本当に食べ頃を知りたい人は、焼く前に鶏肉の重さを量り、その0.8倍の重さになったところで焼くのをやめれば確実だ。
でも俺はめんどくさいのでそんなことはしない。
6 ここらで鶏肉にウイスキーをかける。本当は白ワインやブランデーなんかがいいのだろうけれど、そんなものが俺の部屋にあるわけがない。
7 さらに粗挽きのコショウ(種類は適当。とにかく粗挽きでちょっとかけ過ぎと思うくらいかけた方が俺は好きだ)を振りかける。
8 皿に盛りつけて、上から塩を振りかけて、レモン汁を大量にかける。
9 できあがり。どんなに味付けに失敗しても、黙って全部食べるのが、男というものだ。

