水曜日の仕事帰りに戸倉上山田温泉郷の「瑞祥上山田本館」に行った。
会津の山口温泉で経験した水風呂の爽やかさが忘れられず、どうしても水風呂のある温泉に行きたかった。
以前からこの温泉に来たことはあったが、水風呂に入ったことは一度もなかった。


瑞祥上山田本館

水風呂は、一人用の小さな風呂だった。
思ったより冷たくなくて少しがっかりしたけれど、その分長く入っていた。
温泉に入ったまま星を見上げていると、何もかも忘れて、自分が幸せなような錯覚をする。
視力がよくなって、今まで怖かった風呂の滑る床も平気で歩けるようになったことも嬉しい。


木曜日に、DVDでマット・ディロン主演の「酔いどれ詩人になるまえに」という映画を観た。

酔いどれ詩人になるまえに


オープニングで、製氷会社で働いているマット・ディロンを見たとき、僕は彼がマットだと分からなかった。
彼が車に乗り、冷蔵庫のコンセントを車につなげたまま発進したり、氷の配達中にバーでお酒を飲み出したりするシーンを見て、ようやく彼がマットなんだと認識した。
随分と年をとったなあ、と思った。
この映画でマットは大人になっても社会に順応できない、アル中で売れない作家希望の男の役を演じている。
仕事は次々とクビになる。
気の毒に思いながらも、自分自身も彼の役柄と同様に、日本人の人生観のなかでは非主流派になってしまったことを諦めとともに認める。
決していい映画でもないし、人にも薦めないけれど、社会のクズといわれる人のなかには、尊敬すべき人間も混ざっていることを教えてくれる映画ではある。


金曜日は埼玉で会議があって出張した。
3年前の同じ会議では、向こう側の担当者と険悪なムードになって、会議中に怒鳴られたりしたものだったが、今年の担当は穏やかな話の分かる人だったので、終始、なごやかなムードだった。
宿題は思いがけず多かったが、その場で担当にも指示を出して、この程度なら2日ほどですぐに処理ができるだろうな、と思った。


4時には会議も終了し、帰りに大宮駅で立川談春の「赤めだか」(扶桑社)を買って、新幹線に乗った。
家に着くまでには、ほとんど読み終わっていた。


赤めだか


若者が、立川談志の弟子となり、そこで修行をして前座から二ツ目、真打ちへと昇進していく姿をエッセイの形で描いたものだ。


こういう本を読むたびに、俺は悔しさがこみ上げてくる。
俺にもこういった選択肢は間違いなくあったはずなのだ。
つまらない人生を選択してしまった後悔と喪失感にいたたまれない気持ちになる。


この本では、くだらない協会として取り上げられているが、かつて落語協会の新作落語の台本コンテストで入選したこともあるし(5万もくれた)、小学校にテレビ放送の設備があって、小学校2年の時には全校生徒に向けて落語の独演をしたことだってある。


こういう道だってあったんだよな、と思うと本当に悔しくて本当に泣けてくる。
落語風にいうと「悔しくって地団駄踏んでたら畳が抜けちまって、足がはまって抜け出せない。涙で目も見えないもんだから、近くに転がっていたタオルをつかんで涙を拭いていたら、タオルがこすれて顔から血まででてきやがる。こりゃおかしいな、なんて思って涙を拭き終わってよくよくタオルを見てみたら、家に住みついてる野良猫のタマだった。道理でみゃーみゃーうるせえタオルだと思ったよ」って感じだ。


司法試験をやっている頃の自分に「おまえ、どうせ受からないから落語家でも目指したらどうだ」って、できることなら言ってやりたい。


ちなみに「赤めだか」というのは談志の庭の水がめで飼っている金魚で、いつまで経っても大きくならないことから、皆が「あれは金魚じゃない、赤めだかだ」と言ったことから名付けられている。
その大きくならない赤めだかを談志はかわいがっていた。


この本全体を象徴する意味深い話で、この「赤めだか」をタイトルにするあたり談春のセンスのよさを感じる。


週末は実家に帰った。
お彼岸ということもあり、墓参りなんかもしたが、基本的にはゴロゴロと寝てばかりいた。少しはTOEICの勉強でもしてくれるかと期待をしたのだが、思った分の半分しかしなかった。
試験は来週なのに、俺ときたら落ち着いたものだ。
受かる受からないという試験ではなく、自分の英語の実力が今どのくらいなのか、という健康診断のような試験なので自分のなかでも今ひとつ盛り上がらない。


日曜日の夜に長野に戻ってきたが、帰る途中に稲荷山温泉の杏泉閣というところに行って1時間ほども温泉に入ってきた。


稲荷山温泉

家に帰ると、荷物を放り出し、グラスにウイスキーをたっぷりと注ぎ、そこに実家から手に入れてきたトマトジュースを入れ、レモン果汁を垂らす。
マイルドだけど、喉が灼ける。


そんなカクテルもどきを飲みながら、いろいろと考える。
実家に帰ると母や姉が「早く結婚しろ」とうるさい。
結婚が試験だったら、俺だって頑張るけれど、何を頑張ればいいのかさっぱり。

俺は、今までろくでなしだったんだから、これからだってろくでなしさ、と思ったら、少し気分が楽になった。