金曜日の仕事中に地震があった。
僕は気づかなかったけれど、職場では何人か気づいた人がいたようだった。
「俺、貧乏揺すりしてたから、それじゃないの?」同僚がそういうので、僕も「僕が勢いよく椅子に座ったのを勘違いしたのでは?」などと話していた。
そこでテレビのスイッチを入れてNHKを見ていたら、やはり地震があったと速報が出た。
震度は1だった。
「俺は全然気づかなかったけれど…。」
僕が言うと、職場のあちこちから「私は気づきました」「私も…」「私も…」という声があがった。
「俺は仕事に集中していたから気がつかなかったけどなあ。」僕がみんなに声をかけると、「おまえが言うな」と職場から笑い声と非難の声があがった。
最近、職場の屋上に1日に2回ほどタバコを吸いに行く。
思っていたよりも多くの人に会う。
「タバコ吸っていたっけ?」
「最近、始めたんだよ。」
「時代に逆行してない?」
「俺はそれでいいんだよ。」
1本のタバコに時間をたっぷりかけて吸う。
遠くの景色を見ていると、緑が眩しくて痛いくらいだ。
青い空を見上げていると、高校時代にやはり屋上でタバコを吸っていた自分を思い出す。
あの頃と何もかもが変わった気もするし、変わっていない気もする。
火曜日の夜、駅前にある千石劇場という映画館の前を通ったら、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」がかかっていて、ちょうど時間もよかったので、観ることにした。
この映画は娯楽映画ではなく、文学で言えば純文学に相当するような、映画の芸術性を追求した映画だ。
主人公のダニエル・デイ・ルイスの演技は圧倒的。粗野で強欲で計算高い男を完璧に演じきっている。
一人の男が、あらゆる手段で石油とその利益を手に入れようとし、またその石油利権の副産物ともいうべき様々な出来事を金銭的にも精神的にも克服していく、といった話だ。
サクセス・ストーリーのようだが、幸福感といったものが、この映画には全くない。
曲とはいえないような弦楽器の音で、画面は始めから最後まで、緊張感が漂っている。
見終わったあと、この映画を紹介してくれた映画好きの子にメールしたら、この音楽はレディオヘッドのギタリストが担当しているのだという。
レディオヘッドの音楽には、想像力をかき立てる何かがあると前から思っていたんだけど、曲を使うのではなくて、直接、映画音楽を担当させてしまうあたりも、この映画のすごいところだ。
週末は実家に帰り、母親と新しい扇風機を買いに行ったり、新しくできた高速道路を走りに行ったりした。
夕食後、僕はゴルフの打ちっ放しに行って200球ほど打った。
前回、初めてこの打ちっ放しに来たときには、練習場の右端で(ネットの内側、打席より前)、普通に畑を作っているおばさんに驚いたものだが、この日は左側で(ネットの内側、打席より前)中学校の野球部員がピッチング練習をしていた。
芝の上でピッチング練習をしたい気持ちも分からないではないけれど、何しろ練習場に来る客の中にはド素人もいるのだろうから、ゴルフボールがシャンクして飛んでいったらどうするんだ?と思ったりもするのだけど、誰も疑問に思わないらしい。
ネットに張り付いて、熱い視線を送っているのは、たぶん野球部の父兄なのだろう。
不思議な光景のなか、汗を流しながらひたすらボールを打っていた。
家に帰って、風呂に入った後、DVDで「スパニッシュ・アパートメント」を観た。
俺にはド・ストライクの映画で、「俺が若かったら、スペインに行くのに」と妬ましい思いに駆られた。
フランス人の主人公が、1年間、ヨーロッパの交換留学生ということでスペインに滞在するのだが、そのアパートにはアメリカ人やベルギー人、イギリス人など各国から学生が集まってきていて、皆で日々を過ごす。
いいこともあれば悪いこともあるのだけれど、それがとてもいい。
映画全体のコンセプトはバグダットカフェに似ていなくもない。
イギリス人のウェンディ役の女の子は、ニュージーランドにいる僕の友達のフィンクルにとても雰囲気が似ていて、僕は何度も「ああフィンクル」って思った。
主人公が1人きりになるとかかるレディオ・ヘッドの「ノーサプライズ」という曲も、この映画の中では3回もかかり、歯がみしたくなるほどよかった。
実家に帰っている間に、「トロイメライ」(島田虎之介、青林工藝舎)、「もやしもん」1巻~2巻(石川雅之、講談社)、「土星マンション」1巻(岩岡ヒサエ、小学館)を読んだ。
「トロイメライ」と「もやしもん」はどちらも今年の手塚治虫賞をとった作品だが、路線は全く違う。
「トロイメライ」は非主流派の漫画で、コマ割りは横長を基調とした単純な割りがメインで、スクリーントーンは使わない、といった今どきない形式を使っている。
娯楽性も十分にあるが、漫画の持つ可能性や芸術性、実験性を指向した作品で、ちょっと読みづらいんだけど、漫画の新しい形としてかなり成功していると思う。
「もやしもん」は僕が、「こういう漫画が読みたかった」と思う漫画だ。
知的で、理系で、面白く、硬派で、ロマンチックで、SFがかって、リアリティがある。
読んでいるうちに、なぜ俺は法学部なんかに行ってしまったのだろう、と思う。
法学部に行って司法試験と山登りをしているよりも(結局、どちらも中途半端で終わっちゃったし)、俺は研究室で微生物の狩人として電子顕微鏡を覗いている方が合っていたような気がする。
主人公たちのキャンパスライフがまぶしすぎて、俺もこんな生活が送れたはずなのに、と何度も妬ましさに歯がみをした。
主人公は菌が見える少年で、農学部に入学する。
農学部では、菌の利用は当然のようにするわけで、教授をはじめあらゆる人が、彼の能力に目をつける。
彼以外のキャラもしっかりと立っていて、面白い。
「チーズを固めるレンネットという酵素は生まれたばかりの仔牛の第4胃袋からしかとれないため、日本人が毛カビの一種であるプルシスというレンネットと同じ働きをする酵素を発見するまでには、莫大な数の仔牛が殺されていた」といった雑学も身につく。
読み応えのある本格的な娯楽漫画で、これだけ手間暇をかけて情報を収集し、しかも面白く作ってある漫画はそうあるものではない。
「土星マンション」は、地球全体が保護区になってしまったため、人は地上35000m(つい先日まで3500mって書いていたけど、3500mだったらエベレストのベースキャンプより低くなっちゃうじゃんって思い直して、あらためてチェックしたら35000mでした)にあるリング状のマンションに住まなくてはならなくなってしまった、と設定はSFなのだが、ストーリーは地に足がついた堅実なもので、楽しく読める。
あまり期待はしていなかったのだけど、かなりよかった。
「もやしもん」にしても「土星マンション」にしても、早く続きが読みたくなるストーリーだ。
そういえば、金曜日の夜、家に帰ったら先日受けた乙5と乙6の試験結果が届いていた。
危ないと思っていた乙5は、本当に危なく、正答率6割で合格のところを、正当率ジャスト6割で合格していた。
乙6はできたと思っていたのだが、正答率9割で、こちらは文句なしの合格だった。
受かっていたからといっても何もいいことがあるわけではないが、これで乙種の1類から6類までの全類を合格したので、僕は消防法に定めるどんな危険物も扱えるようになった。
今回の乙5と乙6の試験のことも、もうほとんど忘れていて、今となっては何とか思い出せるのは「ダイナマイトの原料のニトログリセリンは、ニトロ化合物ではなくて、硝酸エステル類だ」ということぐらい。
ニトログリセリンがニトロ化合物ではないことに驚いたので、これだけはなんとかまだ覚えている。
あと、ニトログリセリンは液体でも十分に危険だけど、凍ると(摂氏10度で凍る)もっと危険になる。
だからなんだと言われても困るけれど、もしニトログリセリンがあったら凍らせないように互いに気をつけよう。
これから9月頃まではかなり仕事にも余裕があるし、時間もある。
これからは英語を頑張ることにしたい。


