金曜日は、劇団の飲み会だった。
カラオケボックスだったけれど、僕は1曲も歌わずに、みんなの歌を聴いていた。


劇団なんだけど、フットサルとかゴスペルやダンスもしているので、初めて会う人も多い。
フットサルをしているチームには21歳の人もいた。


「この飲み会っていつまで続くの?」
「朝5時まで。」
それはちょっと無理だと思ったので、2時頃に帰った。


土曜日は7月7日だった。
10数年前につき合っていた女の子と別れるときに、2007年の7月7日に池田町の町立美術館で会う約束をしていた。


当時、僕は名古屋で仕事をしていて、彼女は松本で仕事をしていた。
週末に会いに行くことが多かったが、平日に行ったこともあった。
明け方に、松本から名古屋まで車を運転していると、運転しながらときどき夢を見た。


高速道路になぜか赤いポールがずらっと並んでいるとか、そんな夢だった。
急ブレーキをかけて、目覚めて、なんとか次のサービスエリアまでたどり着いて、5分くらい仮眠をとって、それからまた運転して帰った。


彼女はもう結婚間近で、僕のほかに本命の彼氏がいた。
公認会計士だという彼氏に、僕は何も勝てるものがないような気がしていた。
それでも結婚する2週間前まで、彼女は僕ともつき合っていた。
僕が女って怖いな、って思うのはそんなことがあったからでもある。


「本当に別れてもいいの?」
「いいよ。」
「私はあなたの方が好きなんだけど。」
「どうして?」
「教育しがいがありそうだから。」
「…。」


非常に不満が残るコメントだったけれど、そのようにして僕たちは別れた。
そしてそのときに、「2007年の…」っていう話が出たのだ。
当時は、そんな年は遙か未来のように感じていた。


この美術館にしたのは、つきあい始めたときに、夜景がきれいだと聞いて2人で行ったからだ。
実際には、夜景なんていうほど光がなくて、ぽつん、ぽつんと田んぼの脇に建てられた街路灯が、ぼんやりと道路を照らしているような光景しか見られなかった。


美術館には3時頃に着いた。
「どうして、時間まで約束しなかったんだろう?」と僕は何度も後悔したけれど、そんなことは仕方がないことだ。


美術館で、山下大五郎の絵を見る。
油絵なのに、少し離れてみると、写真のようにも見える。
霞がかかったアルプスと集落の風景が描かれている。
美しい絵で、僕はこの人の絵をずっと見ていた。


特別展の「ガリバー旅行記」原画展も素晴らしかった。
原画を見ながら久しぶりに、ガリバー旅行記を最後まで読んだ。
ガリバーが小人の国に行ったとき、ガリバーがワイン1杯飲むのに、小人1728杯分のワインが必要だった、というくだりを読んでにんまりとした。


ガリバー旅行記
これはこういう計算になっている。
ガリバーは小人の12倍の身長がある。
つまり直線(1次元)で12倍ということだ。
ガリバーが寝るときのベッドは平面(2次元)なので、12×12で、小人144人分の大きさのベッドが必要になる。
さらに、食べ物・飲み物は立体(3次元)なので、12×12×12の1728杯分が必要になる、ということなのだ。
中学生の頃、ペレリマンという物理学者の書いた本が好きで、その本でこのことを知って、いつかまたガリバー旅行記を読んだら確認しようとずっと思っていたのだ。


美術館は1時間20分ほどで展示品すべてを見た。
外に出ると、霞の向こうに見えるアルプスと、安曇野の田園風景が美しかった。


美術館の隣にある岳樺(だけかんば)という喫茶店でイタリアのオレンジジュースを飲みながら、日曜日にある英検の面接試験の勉強をする。
それも30分くらいでやめて、もう帰ることにした。


帰り道、よくテレビ番組で別れた相手のことを思っているのは女より男の方が多い、と聞いてずっと「そんなことないだろ」って思っていたけど、本当だなって思った。
意外と自分のショックが大きくて、驚いた。


職場で結婚発表があったときに、社長が「彼女の相手の方は、翌日、仕事があるのに名古屋から夜中に会いに来るほど情熱的な方で…」と言いだし、事情を知っている同僚たちが「それは違う人です!」って言ったという話を、彼女から聞いて笑った。
運転しているとそんなことを思い出す。


結局、会えなくて残念だったけれど、彼女だって今さら会いに来るわけないよな、とどこか冷めた思いもした。


日曜日は英検の準1級の面接試験だった。
9時からの試験のために、英語に耳を慣らそうと思って朝5時30分に起きて、007の「カジノ・ロワイヤル」を観た。
予想以上に面白く、アクションを堪能した。


カジノロワイヤル
この007は当初、「主役が007を名乗れるほどハンサムでない」と相当な抗議があったと聞いていたが、実際の映画は彼の方がピアース・ブロスナンの007よりもずっとリアリティがあって、映画の質も高かった。


英検の試験は落ち着いて受けることができた。
生きるか死ぬかのスパイに比べたら、英検の面接試験なんて小さな問題だから緊張する必要なんてない。
ずっとそんな気持ちでいた。
でも、文法的にはかなり間違ったことを言ったので、落ちているかもしれない。


DVDは他にも「ディパーテッド」や「ラッキーナンバー7」も観た。
どちらもいい映画だった。


ディパーテッド

ラッキーナンバー7

「ディパーテッド」みたいな映画が僕は大好きだ。
「フォーン・ブース」のような優れた脚本ではないけれど、俳優のそれぞれの個性を生かしたムダがないストーリー展開で飽きさせない。


フォーンブース
「ラッキーナンバー7」は、本来ならタイトルは「カンザスシティ・シャッフル」とすべきだと思う。
確かに「ラッキーナンバー7」の方が観たくなる気がするけれど(だから商業的にはそれで正解なんだけど)、特にナンバー7だからどうというわけではない。
こちらは脚本家がとても優秀だ。
これだけの話をムダがなく、素直な流れで、驚きの結末まで持って行く力は素晴らしい。


僕は、いつかこういう話を作るチームに入りたい。
もし入れたら、僕は今の仕事なんか喜んでやめてやる。