朱川湊人著「かたみ歌」読了。

 

大手古書店の100円均一コーナーなどを徘徊していると、時たま何の脈絡も無く、一冊の本の背表紙に「呼ばれる」事がある。

多くの場合は小説本で、その作品及び著者については何の予備知識も無いケースが多い。

レコードやCDで謂う所の「ジャケ買い」とほぼ似た様なものだ。

そして何も考えずに連れ帰ったその一冊は、大抵の場合幸運な事に、僕にとって「当たり」なのである。

今回の一冊も、それに該当するものだ。

 

七篇の短編が収録されている。

いずれも舞台は同じ、昭和40年代半ばの、下町のとある商店街だ。

その設定からくる空気感だけでも、十二分にノスタルジーに浸る事が出来る。

 

有体に言ってしまえば、全ての作品が、基本的には幽霊譚だ。

とはいえ決して所謂ホラーではなく、どちらかと言えば物悲しく切ない人間ドラマである。

いずれも「世にも奇妙な物語」辺りで映像化されそうな筋立てだと思ったら何の事はない、既に最もファンタジー寄りの一篇が何年も前に放映済みであるとの事。

 

中には、やりきれない程に悲しい結末を迎える話もある。

しかしそんな悲しいストーリーも、最後の一篇で見事に心温まる後日譚に昇華される。

全話を通じて狂言回しをつとめるのは年老いた古書店の店主なのだが、この芥川龍之介に似た風貌の爺ィが、最後の最後にこの上なく美しいオチをつけてくれるのだ。

正直、グッときた。

 

短編集だが、最初から順番に、丁寧に読み進める事をお奨めする。

カバー絵も、良き風情だ。

 

 

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