著者:浅倉 秋成
外回り中の大帝ハウス大善支社営業部長・山縣泰介のもとに、支社長から緊急の電話が入った。
「とにかくすぐ戻れ。絶対に裏口から」
どうやら泰介が「女子大生殺害犯」であるとされて、すでに実名、写真付きでネットに素性が晒され、大炎上しているらしい。
Twitterで犯行を自慢していたようだが、そのアカウントが泰介のものであると誤認されてしまったのだ。
誤解はすぐに解けるだろうと楽観視していたが、当該アカウントは実に巧妙で、見れば見るほど泰介のものとしか思えず、誰一人として言い分を信じてくれない。会社も、友人も、家族でさえも……。
ほんの数時間にして日本中の人間が敵になり、誰も彼もに追いかけられ、ともすると殺されそうになる中、泰介は必死の逃亡を続ける。(公式HP)
「伏線の狙撃手」に見事に撃たれた
著者の作品では「六人の嘘つきな大学生」が既読。
「ちょっと小説読みたいなー」と思って漁っていたところを本作を見つけた。
前半、初速からスピードを上げ、
あれよあれよという間に主人公の泰介は窮地に追い込まれていく。
それまでは大手企業勤めの高給取りで、
いわゆる円満な人生だった主人公の大転落。
ここは本当に泰介に同情する。
このシチュエーションはしんどいし、
何より、泰介を慕っていたと思っていた仕事仲間たちが、
実は全然慕っていなかった事実が判明していき、
こっちの方がしんどいなと感じた。
で、じゃあ、
犯人は誰なんよ?
と、なるわけだが、
これがなかなか明かされない。
途中、犯人は主人公の娘であるかのようなミスリードもあって、
「うわぁ、なんて後味の悪そうな展開なのよ、、」
という不安もあったが、
結果、犯人は娘の小学校の時の同級生で、
当時のあだ名は「えばたん」という、
現在、20歳くらいの男だった。
ただ、最初は「ん?なんで?どう考えても”娘=犯人”の流れだったじゃん?」
なのだが、この小説の最大の罠は「時系列トリック」。
この小説は、登場人物ごとの章に分かれていて、
その人物の視点で物語が描かれる。
そこで登場する泰介の娘(夏実)のパートで描かれているのが、
実は10年前の話。
で、泰介や他の登場人物の視点は現在の視点。
ということで、夏実だけが10年前の話なんだけど、
それが色々リンクしまくっていて、
あたかも夏実も現在進行形かと思わせたというのが、
この小説の肝だった。
これは上手かった。
小説のページ数が減っていく中で、
「あれ?これで終わりかなぁ」と思っていたら、
あれよあれよのどんでん返し。
それまでのピースがガンガンにはまっていく。
さすが、伏線の狙撃手の異名をもつ著者だけに、
実に鮮やか展開だった。
GWに良い読書体験が出来ました。
「2024年に読んだ俺的ミステリー小説ランキング」
1:俺ではない炎上 NEW
2:逆転美人
3:録音された誘拐
4:殺める女神の島