著者:白石智之
病気も怪我も存在せず、失われた四肢さえ蘇る、奇蹟の楽園ジョーデンタウン。調査に赴いたまま戻らない助手を心配して教団の本拠地に乗り込んだ探偵・大塒は、次々と不審な死に遭遇する。奇蹟を信じる人々に、現実世界のロジックは通用するのか? 圧巻の解決編一五〇ページ! 特殊設定、多重解決推理の最前線!(公式HP)
「何重にも張られた巧妙な罠」
読み終えて最初の感想は
「よくこんな話考えついたな」
全部で400Pのボリュームに対して、
37%ほどが解決編にあたられている。
それは読む前から本の紹介でも言われていたからわかっていたが、
150Pの解決編ってどうやってやるんだろうか?
と全く予想もつかなかった。
読み終えると「なるほど!そういう事か!」
その解決編には何重にも罠が仕掛けられていたのだ。
解決編150Pのうち最初50Pくらいはモヤモヤした。
最初は主人公:大塒(おおとや)の優秀な助手のりり子が推理を展開する。
しかし、これが僕にとって全然納得いかないふわっとした内容だったものだから、
帯に書かれている「傑作」という文字を疑った。
しかし、さらにそこから読み進めていくと、
これが完全なフリになっていることが見えてくる。
この後、りり子は何者かによって殺され(とても残念だった)、
大塒が探偵を引継ぐ。
そして、ここから圧巻の推理が展開される。
①奇跡を信じる信者側の推理
②信者ではない部外者としての推理
まず、①が展開され、
その結果、教祖のジム・ジョーデンが犯人だと示される。
ここもなんだか物足りない印象だったが、
その後、②の推理が展開され、
全く別のシナリオが示される。
という流れで衝撃の物語が進んでいくのだが、
シナリオをなぞるのはここまでにしておいて
良かった点
①後半の3重の推理のバリエーションの面白さ
1:りり子の推理
2:信者側の推理
3:部外者の推理
これが一つの事象に対して様々視点から展開され、
見方が変わるだけでこんなにも結果が違うのかと興味津々。
②ジョーデンタウンの設定をうまく使っている
奇跡を信じる900人のコミュニティという設定がうまく効いていて、
信仰心と現実の歪みをうまく物語に溶け込ませていると思った。
この前提が謎解きの核にもなっている。
③最後まで飽きさせない
大塒の推理により真犯人が明かされてからも、
まだまだ解決編はおわらない。
最後の1ページまで読者を楽しませようとする意気込みはガンガン伝わってきた。
惜しい点
①説明がくどい
ある意味「良かった点」の逆になってしまうのだが、
まぁ、たくさん説明してくる。
3重の推理なんかもやっているものだから、
とにかく説明、説明、説明。
この作品の性質上仕方ないことだが、さすがにくどさは感じてしまった。
②最後の真犯人とその動機
これは確かにサプライズだったし、
物語の核心となる部分なのだが、
動機も含めて、ちょっと無理やり感は感じてしまった。
そこまでしなくても十分後半の展開は楽しめていたので、
このラストが良かったかというと、
ちょっと強引さを感じざるを得なかった。
全体を通して
作者の執念みたいものを感じた作品だった。
これだけ複雑な設定で、且つ、
読者に衝撃を与えながら楽しませるというのは、
相当の熱量が必要であったことは容易に想像が出来た。
しかも著者は30代前半。
よくこんな話を作ったなと感心しっぱなし。
小説のベースとなる実際の事件、
人民寺院事件とジョーンズタウンについては、
以前から概要は知っていたが、
改めて調べると本当にとんでもない事件。
事実は小説よりも奇なりの最たる例だ。
このとんでもない事件を若干30代で料理し、
且つ、ここまで複雑な物語に仕上げたのは、
シンプルに凄まじいと思った。
読み応え十分で、
「このミス」にランクインしていることも頷ける。
探偵の推理によって明かされる事実を、
これでもかと楽しめる作品だった。
ということで、
「2023年に読んだ俺的ミステリー小説ランキング」は現時点で以下の通り
1:方舟 →これは本当に面白かった。
2:名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件―
3:ルビンの壺割れた
4:花束は毒