これでいいのか危険運転
5月19日のブログで、お知らせをさせていただいた、ジャーナリストの柳原三佳さんによる連載「これでいいのか危険運転⑧」の記事に関連し、自分の気持ちを綴りたいと思います。
私は、自身の経験を踏まえ、初動捜査の見直しが必要だと考えており、以前から遺族仲間と呼気検査の見直しなどの活動を行ってきました。また、個人でも、逃げ得の防止や初動捜査で漏れがないようにするためには、行政処分の在り方から見直すことを検討して欲しいと思い、長野県警等に要望書の提出や提案などを行ってきました。
時々、過失で裁かれそうになったご遺族が声を上げ、危険運転で起訴されることがありますが、そのような場合には、補充捜査が行われていることを考えると、初動捜査で公判を維持できるだけの証拠が十分に収集できていないのではないかと思っています。
現在、危険運転に数値基準が盛り込まれる方向で、話が進んでいますが、正直なところ、数値基準以前に初動捜査の整備が必要だと考えていたため、机上の空論のように感じていました。
数値基準が示されても、結局、捜査で正確な数値が測れないのであれば、あまり意味がないと思うのです。
また、骨子案の数値は非常に高く、危険運転の改正を願ったご遺族たちの思いとは、違う方向に舵がとられた印象を受けております。
私の所属する会のメンバーは、皆それぞれに裁判で争いとなり、悔しい経験をしていますが、皆、数値基準の導入には慎重な考えです。私自身、数値基準がない現行法においても、結局のところ数値で評価をされてきたように感じていました。
今回の法改正における被害者のヒアリングは、危険運転が認められた方たちが多かった印象です。特に飲酒運転については、危険運転が認められなかった被害者からのヒアリングは行われていないと思いますし、現行法の制定に携わった方達もヒアリングのメンバーには含まれていなかったと思います。
私の所属する会の仲間のうち、二件は、危険運転で起訴されましたが過失とされた事件です。どちらの事件も、法制審議会の資料に掲載されていましたが、ご本人や会の代表にヒアリングの機会はありませんでした。決してそれが不満ということではなく、もっと色々な被害者からヒアリングを行って欲しかったという気持ちです。因みに現在は、法制審議会のホームページから、会のメンバーの判例が記載されていた資料が削除されています。
公開を続けることに何か不都合があったのでしょうか?
その理由が分からず、非常に疑問に感じています。
度々ブログでお伝えしていますが、今後、数値基準が条文に明記されれば、明らかに数値基準を上回る「証拠が揃った」事件については、危険運転が適用されやすくなるかもしれませんが、数値基準前後の事案については、当然、相手はその数値の正確性を争ってくることが予想されます。裁判は長期化するのではないかと思います。もともと司法は、危険運転適用に慎重であることから、次第にその運用は、数値基準付近では、起訴が躊躇されるようになるのではないかと危惧しています。
今回の改正は、一部の高い数値が認められた、悪質運転を裁きやすくするためのものであり、それにより数値に満たない多くの悪質事案が過失とされるような法改正になるのではないか。また、高い基準値は、被害者にとって高い壁となり、今以上に数値に泣く被害者が増えてしまうのではないかと、非常に気掛かりです。
数値に泣いたひとりです…①
事件から11年経ちましたが、このように発信を続けているのは、同じような思いを他の誰かにして欲しくないという気持ちからです。
加害者は事件後ブレスケアを買いに走り、半量程一気に食べていましたが、発生から30分後に行われた呼気アルコール検査の数値が酒気帯び運転の基準に満たなかったことから、飲酒運転については立件されておりません。
危険運転については、2011年に最高裁の判決において、アルコール検査の数値だけでなく、事故前後の状況なども踏まえて総合的に判断するべきであると示されています。
しかし、実務では数値が重視されていたように感じます。
【息子の命を奪った加害者の衝突状況を列挙します】
・直前まで居酒屋で飲酒
・速度超過(直線道路では速度が何キロであっても裁判に影響しないからと言われ、速度解析はされていません)
・センターラインはみ出し
・横断歩道に減速せずに進入
・事件現場は居酒屋からわずか600m程度(飲酒後、わずかな距離しか運転できていない)
上記の状況や、事故後に加害者自身が飲酒運転を誤魔化そうとしていたことからも、飲酒が運転に影響していたと考えるのは、自然なことだと思います。
しかし、呼気検査の数値から推算された事故発生時の数値は、例えば0.14〜0.18というように幅をもって算出され、その下限値が酒気帯び運転の基準である0.15に達していなかったこともあり、危険運転、準危険運転、免脱罪の適用から外れました。
加害者は、目が充血しており、しどろもどろだったようです。
また飲酒時間や場所について実際よりも早い時間に自宅で晩酌したと虚偽を述べていました。その他、初対面の人の顔に、自分の息を吹きかけて「私は酒を飲んでいない」とも言っていました。当時会社の運行管理者だった加害者の事故後の行動は、買い物に行っていたことも含め、正常な人の取る行動とは思えません。
しかし、結局のところ、数値によって線引きされてしまったように感じています。
そして、減速せずに中央線をはみ出して横断歩道に進入した行為は、加害者の「前をみていなかった」との供述と数値により、飲酒の影響が認められずに、前方不注視で裁かれたのです。
直前まで居酒屋で飲酒をしていたことは明らかであるにもかかわらず、危険運転どころか、飲酒運転をしたこと自体についても罪に問われませんでした。しかも、呼気検査の前には、ブレスケアを食べていたのに…。(救護せずに現場周辺を小走りで何度か往復していたことも軽い運動となり、呼気検査では加害者に有利に働いたと思います。)
感情論ではありませんが、そんな遺族の悔しさも想像してみていただきたいです…。
裁判は、当時中学1年と小学5年の娘たちも傍聴しました。
横断歩道上を道路の中央まで徒歩で横断していたミッキーには、何の落ち度もありません。
一方、加害者は、禁止されているはずの飲酒運転をして、高速度でミッキーを50m近くはね飛ばし、飲酒運転を誤魔化すために救護もしていません。その結果、尊い命を奪っているのに、刑務所にすら入らない、そのような司法の現実を、娘たちにどのように説明すればよいのか分かりませんでした。
2018年には、速度についても数値が裁判の争点となりました。
速度については、また次回に書きたいと思います。
基準値未満の飲酒運転について
ミッキーが被害に遭った平成27年には、酒気帯び運転の基準に満たない死亡事故件数は33件発生しています。
昨年は12件です。この数字は、0.15から0.25の酒酔い運転を上回る発生件数です。
この人たちの中には、ミッキーの加害者のように、飲酒運転で他人の命を奪っておきながら、酒気帯び運転や危険運転、準危険運転での起訴を免れた加害者がいると思います。
死亡事故であっても、呼気検査で0.15未満の場合、飲酒運転をしたことについての刑事処分も行政処分もありません。
反省の機会が与えられずに、再びハンドルを握っていると思うと恐ろしく感じます。
こちらは、20年近く前の資料になりますが、獨協大学法医学教室による、「呼気中アルコール濃度別にみた飲酒運転と交通事故の関係」という資料です。
2002年6月に酒気帯びの数値が現在の呼気1リットルあたり0.15mgに引き下げられましたが、法律改正後の2004年においては、四輪車死亡事故の11.1%が飲酒運転により引き起こされており、その3分の1が基準値未満だったとのこと。
2005年のアンケートによれば、飲酒運転の経験がある人の半分が「それほど飲んでいない」ことを理由に挙げたそうです。
そして、資料には、「酒を飲んだが、少量だから許される」との考えは不適当であり、「酒を飲んだら運転しない」と考えるようにすることが重要であろうと記されています。
今回の法改正では、今まで数値が示されていなかった危険運転、準危険運転、さらには酒酔い運転にも一律に高い数値が示されます。依然として無くならない飲酒運転‥。「少しだから大丈夫」と飲酒運転をする人たちに、今回の高い数値基準が示された法改正が、どのような影響をもたらすのか、考えると不安です。
高い数値が検出されれば、危険であることは間違いありませんが、今回示されてる呼気0.5を超えた事案で危険運転が適用されなかった判例があるのか疑問です。
前述の通り現在は削除されていますが、法制審議会の判例資料からは、そのような判例は見つけられなかったと記憶しています。だとすると、わざわざ高い数値を示す必要性があるのでしょうか?
飲酒をしている場合、していない場合に比べて死亡事故発生率が7倍と言われています。そこには、酒気帯び運転の基準値未満も含まれており、実際に、基準値未満であっても死亡事故は起きているのです。
どうしたら飲酒運転を根絶できるのか、現状を踏まえた法改正であって欲しいです。
準危険運転について
危険運転の法改正にあたり、裁判で準危険運転が認められ、ヒアリングに出席されたご遺族は、今回の改正案についてどのように感じておられるのか気になっていたところ、丁度ネット上で動画つきの記事が配信されていました。
①の動画では、幸せそうなお母さんと息子さんの姿に涙しました。ミッキーとの楽しかった日々が思い出され、きっと我が家と同じように、ご家族の幸せな日常は、一瞬にして飲酒運転の男に奪われ、人生が一変してしまったのだろうと思いました。
②の動画からは、出所後の加害者の様子が分かります。
またこの度の法改正について、法制審議会の専門家の言葉や改正案と、ご遺族の思いには、隔たりを感じました。
報道では、危険運転と準危険運転がまとめて「危険運転」として報じられていることが多いのですが、第2条と第3条の違いや、どのような経緯で施行された法律なのか、また、明確化されたと言われている改正案の条文についても触れていただき、詳しく解説していただけるとありがたいと思います。
話が逸れましたが、ご紹介した動画を視聴して感じたことは、ご遺族の意見が反映されるどころか、むしろ意図していなかった方向へ進んでしまったのではないか…私にはそのように感じられました。
以下は、こちらの事件の判決文です。(40頁以上あり長大です)
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-90852.pdf
↓ 上記判決についての某弁護士事務所による解説です。
加害者が主張した「眠気等」が退けられ、準危険運転が認められた画期的な判決だと思います。
しかし、これは、私も気になっていたことなのですが、動画②のナレーションでも言われていますが、こちらの事件で逆算された事件発生時の数値は、法改正後の数値基準には届きません。
もしも、改正後に同様の事件が起きた場合には、ご遺族が「ひょっとしたら」とご不安を口にされていたように、加害者は過失を強く主張してくることになると思います。
しかし、今回の改正案を見ていると、ヒアリングが行われたご遺族の思いですら十分に反映されたとは感じられません。
この度の法改正が、飲酒運転の抑止につながるのか。そして、今後、数値によって救済されない被害者が増えてしまわないか。そのようなことに強い不安を抱いています。




