「 ヒオドシ蝶とのひと時 」 (3)-地底の声-

 昼休みに図書館まで行って、『どんぐりと山猫』 を読んだ。
 「風がどうと吹いて、草がいちめんに波だち、山猫が、黄いろな陣羽織のやうなものを着て、
 緑いろの眼をまん円にして立ってゐました。」  宮澤賢治 『どんぐりと山猫』より。

 どうと吹く、イーハトーブの風か。
 なかなかいいなぁ。
 山猫は、誇り高い森の住人。
 緑いろの眼。
 あの蝶の目も、緑いろの眼。
 あの蝶・・・

 イメージ 1 [地底の洞窟 あぶくま洞]
 

□ どうしたの?うつむいてさ。
○ ん? ヒオドシのビビアン? どうしてここに・・・ 何処に行ってた・・・
□ アンドロメダの少し先。地球から230万光年くらい行ったところよ。
○ 君にはわからないだろうけど、時々、地底から声が聞こえてくるんだ。
□ 火の山にいたら大きな地響きはしょっちゅうよ。そんな時は飛び上がっちゃうけど。
○ 地底から静かに、ゆっくりと、声が聞こえてくるんだ。
□ 地底には入ったことはないわ。アシナガバチが来たら隠れるのにはよさそうね。
○ 声の主が地底にいるらしい、人間のようで人間じゃないんだ。
白い着物のようなものをまとっている。みたことはないか。
□ でも、確か、そう言われれば、不思議な人には会ったことはあるわ。
一日中霧が濃くて、森の中に立ち込めていた日のことよ。
霧でよく飛べないから、葉っぱの裏につかまっていたから覚えている。
大きな岩影から出てきて、・・・静かに岩の上に座っていたわよ。
私にもぜんぜん興味ないみたいだった。
○ ふううん。もう少し詳しく。
□ わからないわ。私関係ないから。変な人にはあまり近寄らないの。だいち、関心ないし。
大きくて、顔はもじゃもじゃしてる感じ。あなたのように普通の人ではなかった。
地底に来いと言っているようね。いつも怒っているみたいで感じ悪いわ。
でも、他の人と違って私達には何もしないみたいだし、大きな岩と一緒だからいいんじゃない。
森の人ね。感じ悪いけど私は好きよ。
○ ・・・森の人。森の人か。・・・
□ クロヒカゲならわかるかもね。森の人に今度会ったら地底のこと、訊いてみればいいのに。
○ 会ったことはないんだ。声が聞こえるんだよ。
□ 黙って聞いていればいいんじゃないのかしら。
○ ううん・・・
□ 呼んでくれたらまた来るわ。遠くにいるから、だいぶ時間がかかるけど。


-つづく-