ノスケ。お前には、生まれつき脳の何処かに原因がある。その障害はアスペルガー症候群と言うんだよ。
『…どうして?』大粒の涙がポトンと落ちた。涙はどんどん増えて、ノスケの握りしめた拳に落ちていく。
どうして僕は、アスペルガーなの?
お母さん、病院へ連れて行って?
障害は病気じゃないんだよ。死んでしまうワケじゃないよ。
『どうしたら…治るの?』
治らないよ。
『ほら。ほら。ボク、ちゃんとお薬も飲むよ?』
ノスケは真っ青な顔で私を見ていた。おいで、と膝に抱くと、大きな声をあげて泣き出した。
『そんなの、いやだぁ!!』
悔しい。
怖い。
初めて聞いたときのノスケの気持ちは、そんな思いでいっぱいだったことだろう。
僕は、何なの?
ノスケの「どうして?」に対して、隠さず全てを話したのだけれど。
その後、ノスケは障害のことについて質問したりしなくなった。まるで、そんな話など聞いていないかのように。
今思えば。ノスケなりの抵抗だったのかも知れない。
「障害者」と言われないための。
僕は。ちゃんとみんなと同じことが出来るよ。
『だから、僕を障害者と呼ばないで』
不得意なことでも、あえて挑もうとするノスケに、「出来なくても恥ずかしく無いんだよ」と言っても。ノスケはあえて完璧にこなそうとしていた。
ノスケにとって、「アスペルガー症候群」という名前は。『自分を貶める、恥ずべきもの』とでも言いたげに。
ムキになって、自分自身を否定していたノスケ。
それでも、それは年齢が上がるに連れて顕著になっていく。
ノスケは焦って話そうとすればするほどに、言葉が出なくなり。ひどいどもりと、発声すらままならないようになっていった。中学二年生の夏。
「お前、ショーガイだろ?学校に来んな!」
「ショーガイ者は特殊学校に行けよ!」
「死んでしまえ!」
心無い罵声を浴び、自信を失っていくノスケ。
毎日泣いて、「生きていたくない」「死にたい」「消えてしまいたい」と訴える。逆上したダンナさんは、『クソガキ全員殺してやる!』と叫び、なだめるのに一苦労だった。
笑顔も自信も失い。ノスケには心のよりどころが無い。
なぁ。ノスケ。
お前は、結構稀な高知能の人間なんだけどな。
ヒトの可能性はいつもゼロじゃない。努力で伸ばせる力があるのなら。努力してみないか?
『でも、所詮ショーガイ者じゃん!どうせ頑張っても意味無いよ!』
ノスケに。脳の構造について話した。
ヒトの考える力。発達障害と言われている人たちの思考回路。途切れたシナプス。
1つの回路が上手く機能していなくても。補うことが出来るよ。
多少遠回りの回路でも、ちゃんとたどってたどり着く。ノスケの脳は迷路だよ。ジグソーパズルのように。
今は未完成だけど、いつか完成する。正しく完成させるために、たくさん学ばなくてはいけない。不器用な障害の部分を補うべく、たくさんの知識を得なさい。それを得られるように、お前には『知能』が与えられているんだよ。
成長過程について、わかりやすく説明してみた。
そして。ぺしゃんこだったノスケは自ら望んだ。
「お母さん、僕は知能テストを受けたい」
「僕が頑張れるだけの力はあるのだろうか。」
「未来を望むのに充分な能力を、僕は本当に持っているのだろうか。」
そうして、4年振りに。ノスケは療育センターに行ったのだった。
こんにちは、ノスケくん。久しぶりだね。今日はどうしてココに来たの?
『先生。僕は。障害者ですか?』
どうして?そう思うの?
『障害者だから、僕はダメな人間なのでしょうか?』
君は確かに。アスペルガー症候群。
でもね。障害者でも、君はなんでも自分で出来るよ?
障害と言っても、人はそれぞれの力が違う。ノスケくんは、出来ることがとても多いよ。だから頑張ろう?
『ショーガイ者だから。知能が下がっていくのではありませんか?』
ノスケはとことん自信が無かったのだろう。
会話等の不自由さから、自分は知能の低下があるのでは無いか?と悩んでいたのだった。
君が安心出来るなら。
そうして受けた、久しぶりの知能テストの結果は。4年前を更に上回っていた。成長とともに子供は伸びるのだから。
ドクターとmeは。ノスケにたくさん話した。
障害があろうとも。ノスケには自力で頑張れるだけの能力がちゃんとある。
それは、障害を持つ身ではありながら、障害者では無いと言うことなのだ。
ノスケが頑張って生きてきた証が、この全て。
言葉が出にくいのなら、ゆっくり発音するクセをつけよう。
慌てると失敗してしまうから、落ち着いて行動するクセをつけよう。
ノスケには、ちゃんと出来るはずだよ??
アスペルガーだから出来ないんじゃない。出来ないことを最初から自分のせいにするな。
なぁノスケ。最初から諦めてないか?
諦めの悪いヤツになれ。
しぶとくなれ。
もっと貪欲になれ!
『でも!みんなはショーガイって言う!』
お前。何を相手の言うことを素直に聞いてやってるんだ(笑)
人生は笑ってやったヤツが。いっとう「勝ち」なんだよ!
ショーガイって言ってるヤツのことこそ、心の底から軽蔑して笑ってやれ。
学校来んなって言うヤツには、『悪いなぁ♩俺は来たいから、お前の言うこと聞いてやる義理はねぇな』って笑ってやれ。
死ねって言うヤツには。「俺が本当に死んだら殺人罪。自殺未遂で殺人未遂罪。覚悟してから言いに来い」ってせせら笑ってやれ。
いいか。何があっても、絶対笑ってやれ。
笑ったヤツが勝ちなんだよ!
ドクターと私の言葉に。ノスケはじっと耳を傾けていた。
帰宅後。ちび子に宣言した。
「あのさ!僕はね、アスペルガーだけど、障害者じゃないんだよ!」
ちゃんと伝わったかな。
卑屈になるな。
前を見て胸を張れ!
ノスケ。自分が受け止めるんだよ。「自分」を。
それからのノスケは。
何でも体当たり的に挑むようになった。
僕はアスペルガー症候群。だけどね、「障害者」じゃない。僕は僕だから。
有りのままの自分で。
そのままの自分で。
違いはそのままに。
僕は何も変わらないけど。
ノスケの自信の源は。
「アスペルガー症候群の僕」。
「ショーガイ者とバカにさせない僕」。
だからこそ、誰よりも。強いノスケでいられるのです☆