グラフイックデザイナーをしている「道」といいます。
このブログでは、お酒に関する話題と、お酒をテーマにした作品を発表させていただいてます。
主にお酒の絵と写真です。また、お酒の絵や写真の制作も承っております。
制作ご希望の方や作品にご興味のある方はお気軽にご連絡下さい。
※お酒やお店の情報も載せておりますが、個人的な意見です。

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誰がなんと言おうが最高の画材だよ
12時をまわったところで、今日の仕事を終わらせた。
棚の奥から、とっておきのお酒を取り出す。
岩倉酒造限定手造り古酒「なに見てござる」──1966年仕込み。
少し冷える夜。
窓を開けると、虫の声がやさしく響く。
複雑な味わいの米焼酎を口に含みながら、
目の前の道具をしみじみと眺めた。
0と1でできたその世界が、
今や世界中のアーティストやデザイナーの
あたりまえの道具になっているなんて、
初めてコンピューターに触れたあの日には想像もできなかった。
大学の授業で使ったその機械は、まさに“きかい”で、
呪文のようなコマンドを打ち込んで動かすだけの存在だった。
アートの道具とはほど遠い。
社会人になって、海の向こうに
「アートができるコンピューター」があると知った。
Macintosh CX──フルカラーのグラフィックボードを積んで、確か八十万円ほど。
車を買うか、こいつを買うか、ずいぶん悩んだ末に
「きっとこれが最高の相棒になる」と思って、購入した。
正しかったのかは今もわからない。
けれど、目の前の後継機で作品をつくっている今、
あの時の決断は間違っていなかったと思う。
ラベルにはこう書かれていた。
「小さな田舎の酒倉で 古いお酒はなに見てござる 静かに田舎を見てござる」
究極の画材をくれた人は、意外と若く、
そしてあっさりと遠くへ行ってしまった。
けれど彼は、0と1の世界に思想も行動も、画像も動画も残した。
きっとこの世界が終わるまで、そこに存在し続けるだろう。
人々は彼のことを、良くも悪くも語り続ける。
でも僕にとって大切なのは──
彼が「究極の画材」をくれたということ。
完成されていないけれど、究極。
矛盾しているようで、でも本当のことだ。
誰がなんと言おうが、僕にとってこれは最高の画材だ。
そして、僕を救ってくれた道具でもある。
たいしたことじゃないけど、とてもすごいこと。
だから今夜は、とっておきのお酒で、彼に乾杯しようと思う。
彼は、なに見てござったんだろうね。
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初めてのシェリー
一時期、ドライベルモットにハマっていた。
派手さはないけれど、あの乾いた味が好きだった。
その夜も、カウンターで一人飲んでいると、
隣にエキゾチックな顔立ちの女性が静かに座った。
「ティオペペ、ストレートで」
差し出された黄金色を、彼女は一口含み、
グラスを置くと、さりげなくバーテンダーを呼んだ。
耳元で何かを伝え、こちらをちらりと見る。
流れるような仕草。 かっこいいな、と思った、その時だった。
運ばれてきたのは、同じショットグラスが二つ。
彼女は、さっきの一杯を飲み干すと、
少しだけ息を整えるようにして、僕の方を向いた。
「それが好きなら、これも気に入ると思う」
グラスを滑らせ、顔を近づけ、 小さく「かんぱい」と囁く。
一口。 ドライベルモットより、さらにドライ。
削ぎ落とされた味が、喉に静かに残った。
「クセになるでしょ。 シェリーの中でも、かなりドライなんだよね」
ティオペペのドライさと、情熱的な彼女の仕草に、
すっかりハマってしまったみたいだ。
気がつけば、 彼女とこのお酒を、
もう一杯飲みたくて、 バーテンダーを呼んでいた。
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父のロック、僕の水割り
父がウイスキーのボトルを見ながら、
僕の方を見て、ぽつりと言った。
「ウイスキーと飲み屋の料理、意外と合うんだ」
そう言いながら、手慣れた感じで、
自分にはロック、僕には水割りを作ってくれた。
その頃流行っていた、
和食に合うウイスキーは、
確かに、料理によく合っていた。
正直、そのとき父とどんな話をしたのかは、
ほとんど覚えていない。
多分、お酒のこととか、
その日に出てきた飲み屋の料理のこととか、
そんな他愛もない話だったと思う。
最後の方では、父が、
まるで知らない人と飲んでいるみたいに、
少し丁寧な言葉遣いになっていたのを覚えている。
今思うと、父も息子と初めて一緒に飲んで、
少し緊張していたのかもしれない。
父と一緒にお酒を飲んだのは、
その一回きりだった。
たまに、
もう少し一緒に飲めばよかったな、
と思うことがある。
きっと、
チャンスはいくらでもあった。
父が生きている間なら。
父が通っていたらしい飲み屋の、
二十周年記念の写真を見つけた。
酔って笑っている父が写っていて、
それを見ていたら、
なんとなく後悔みたいなものが湧いてきて、
無性にウイスキーが飲みたくなった。
たまたま見つけた、
父が笑って飲んでいる一枚の写真。
その横に、
「膳」の小さなボトルを置く。
父が、
何かの折に、
思い出として取っておいたものだったらいいな、
と、ふと思う。
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