バス通学をしている子は定期券を持っていた。

みんな、定期券入れを長いゴムでランドセルにくくりつけ、普段はブラブラさせていた。
バスを降りる時に、ゴムをビヨーンと伸ばしてその定期券を運転手さんに見せるのだ。

高学年になると、おしゃれな女子はブラブラスタイルではなく、折りたたみのパスケースを取り出して見せている子もいた。

バス通学をしている子は何十人もいたが、全員がそのどちらかのスタイルだった。

私以外は、である。

父は私のランドセルに細工をした。
透明のカードケースをランドセルの右側面に強力両面テープでべったり貼り付けたのだ。

そこに定期券を入れておけば、いちいち差し出さなくても運転手さんの目に止まるので便利だろう、という訳だ。

「これで絶対になくさないだろう。」
「しかも手を使わないで見せられるから便利だ。」

父はご満悦だった。
まあ、確かにETCカード並みに便利ではある。

しかし全くもってかわいくない。
しかもなんか恥ずかしい。
私も定期券を差し出して「ありがとうございました」とやりたかった。

幼稚園の頃からのバス通学に対するあこがれが無残に打ち砕かれた瞬間だった。

だが、利便性や合理性だけに価値を見出している昭和の父親に、おしゃれや流行りに対する女子のはかない憧れなど届くわけもなく、私は転校するまでの4年間、毎日べったり定期券スタイルで学校に通ったのである。