私たち家族が住んでいた借家は蛇屋敷だった。
抜け殻が落ちているのはしょっちゅう、じめじめとした家の周りには蛇がたくさんいた。
砂利道にゴムホースが落ちていると思って自転車で上を通過したら蛇だったこともある。
振り返ったらくねくねと苦しがっていた。
庭には小さな池があったのだが、黒い細い蛇が水の中で数匹とぐろを巻いているのを見たこともある。
しょっちゅう目にはするものの、あまり慣れるということはなかった。
私にとって蛇は、やはりなんとなく気持ち悪い生き物だった。
ある日家の外から、聞いたことのない、得体のしれない鳴き声が聞こえてきた。
猫のようであるが、ニャーではなく、フギャーとかシャーとかうなり声に近い鳴き声である。
鳴き声のする方の窓に駆け寄って外を見てみると、マンガのような光景が目に飛び込んできた。
猫と蛇が対峙しているのである。
黒い縞模様の大きな猫は首輪をしていた。
母によると近所の「南食堂」の猫ではないかとのこと。
背中を丸めてシャーっと威嚇している。
対するは、緑がかった灰色の、脇に黒い点々模様のある蛇である。
大蛇とは言わないが、まあまあな大きさがあった。
舌をシューシュー出してこちらも頭をもたげて臨戦態勢だ。
一触即発の緊急事態を、母と妹と私は3畳間の窓から固唾を飲んで見守った。
まず、蛇が仕掛けた。
口を大きく開け、猫に襲い掛かる。
筋肉質な動きが半端なく素早い。
猫も負けてはいない。
連続猫パンチをお見舞いし、一歩も譲らない。
背中の毛を逆立てうなり声を上げ、かなり怒っているように見えた。
双方互角の闘いを繰り広げること数十分。
膠着状態。
にらみ合う時間も半端なく長い。
子供の私は飽きてきた。
窓から離れ、妹と遊び始めた。
母はまだ展開を見守っている。
私と妹が人形遊びに夢中になり、猫と蛇の決闘をすっかり忘れかけた頃、母が叫んだ。
「見て見て!」
私たちは窓際に駆け寄り、思わず驚きの声をあげた。
猫が蛇を頭から飲み込み始めたのである。
ゆっくりと、少しずつ、また少しずつ、蛇を飲み込んで行く。
私は、飲み込まれた蛇は猫のお腹を食いちぎらないだろうかと心配になった。
お腹の中の蛇が猫をどんどん食べ進んで行ったら、最後は猫が勝つのか蛇が勝つのか、頭が混乱した。
かなりの時間をかけて、猫は蛇を丸ごと飲み込んでしまった。
そして重いお腹でうまく歩けないのであろう、よろよろとその場を立ち去ったのである。
猫 vs 蛇 は猫に軍配が上がったのだ。
と思われた。
後日、母が南食堂の奥さんに聞いたところ、その数日後、猫は変死したそうである。
やはりお腹の中の蛇は猫の内臓を食べたのだと私は思った。
猫が死んだあと、蛇はどうなったのだろう。
口から出てきたのだろうか。
それとも猫と運命を共にしたのだろうか。
変死ってどういう死に方だろう。
頭がおかしくなって狂ったように死んでしまったのだろうか。
結局勝ったのは猫なのか蛇なのか、私には分からなかった。