小学一年生くらいのころだっただろうか。
たまごを買ってきて、とおつかいを頼まれた。

おつかいはよく行っていたので特に問題はなかった。
たまご、ということを除いては。

今でこそエコバッグなんて言葉があるが、当時は買い物にカゴを持って行くのは当たり前だった。
サザエさんが買い物で持って行くようなやつである。

母が持っていた大小おそろいの小の方のカゴを借りて、小銭入れをポシェットに入れてスキップしながら出かけた。
行き先は南ヶ丘ストアというちいさなスーパーである。

そのつい数日前、母と妹と南ヶ丘ストアに買い物に行ったとき、母が出した千円札にジャラジャラと小銭のおつりが出た。
母に抱っこされていた妹は小さな声で「もうかったね。」と母の耳元でうれしそうに言った。

一枚のお札を出しただけなのに、硬貨がたくさん戻って来たので儲かったと思ったのだろう。
小さな声でひかえめに喜ぶ妹は小学生の私から見てもかわいらしかった。

カリフラワーみたいな頭をしたレジのおばさんが「もうかって良かったね!」と調子を合わせたのでみんなで笑った。

南ヶ丘ストアにはレジはひとつしかない。
レジにいるのはいつもカリフラワーのおばさんだった。
10個入りの卵のパックをひとつ買い、おばさんにお金を払って店を出た。

私は帰りもスキップで帰った。
手に持ったカゴをぐるんぐるん振り回しながら。

家に着くとたまごは10個全部割れていた。

たまごは割れるものだと知ってはいたけれど、振り回してはいけないということに初めて気が付いてとてもしょんぼりした。
たまごはぐちゃぐちゃだった。

母は怒らなかった。
その代わり、もう一度たまごを買ってくるように言われた。

今度はそうっと運んでくる!
そう心に誓い、家を出た。
スキップせずに、早足で行った。

カリフラワーのおばさんが、あら?という顔をした。
「たまご、足りなかったのかな?」

事情を説明するとおばさんは笑って「今度は静かに帰るんだよ。」と言った。

私は全神経をたまごに集中させ、そーっと、そーーーっと運んだ。
カゴが自分の身体につかないように、少し離して持った。
そしてなるべく揺れないようにそろりそろりと歩いた。

もし私のその姿を見ている人がいたなら、なみなみと飲み物がそそがれたコップでも運んでいるのかと思っただろう。
それほど私は真剣にたまごを運んだ。

そんな歩き方で帰る道のりはとても遠かった。
腕もだるくなってくるし、へっぴり腰も疲れてくる。
家まであともう少し、あとちょっと!

やっと家までたどり着き、ようやくミッションをクリアしたという達成感から、私はカゴを玄関にどすんと置いた。

その衝撃でたまごは半分くらい割れた。

母はもう一度行けとは言わなかった。
その日の夕食は炒り玉子だった。