「桜川五郎蔵」 後年、好んで取り上げられた演目である。おそらくは京山子円あたりのアレンジであろう。あまりにも、完成された「文衛門」に比べると、これから音頭の勉強をという身にとっては、まさに宝箱であった。
さらに まくらの二編について、
「変わりましたよこの世の中は」
この主題のまくらは 他の人もそれぞれ工夫を凝らし 演っておられるが、この文句は山川氏だけのものであるから自作されたものであろう。
「二度とするなよ戦争は」
この作者は、中津賀仲(1912~1996 高須町)氏。学校長を務められた方で 大泉幸平(1911~1996)氏の近所であり、幼なじみ。大泉市の依頼により書きあげられた。もちろん大泉氏が自分のレパートリーとしていたが、山川氏が気に入り、たつての希望により、山川氏のレパートリーに加わることなった。このことを大泉氏はこう語っておられた。「よこせよこせと あんまりやかましいもんで 書いたったんや」と。このまくらを山川氏はときに ― 負けたのう 戦争は 誰がした ― と唄いだすこともあった。大泉氏もまた ― 負けた苦労は どんぶり鉢 ― と演られていたのを覚えている。
それにつけても この二つのまくらを聞いてみて、この時代、この年代の人たちの敗戦への挫折感、喪失感はやはり我々世代の想像では計り知れないものがある と思えるのである。、